クシュラの奇跡: 140冊の絵本との日々

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  • Amazon.co.jp ・本 (151ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784931129016

感想・レビュー・書評

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  • 表紙には、本を抱え顔いっぱいに笑顔を浮かべる少女、
    そして、それを見守る両親の笑顔。『クシュラの奇跡』は、
    絵本の力と子供(障害児)の可能性と
    子供への両親の愛を信じさせてくれる1冊である。

    ニュージーランドの児童文学者であるドロシー・バトラーが
    自らの研究論文に基づいて書いたこの本は、
    研究者の視点で読むと事例研究や参与観察の基本を教えてくれる
    研究であるともいえる。

    また、書評書きとしては、出たばかりの本をいち早く読んで
    その感動を伝えることも嬉しいが、
    この本のような座右の1冊について書くのもまた楽しい。

    これは、初版出版の1984年から20年が経っても
    入手可能であるからこそ可能なのだ。

    もとは論文であったものを多くの人が読みやすい形に書き換えた
    著者と訳者の功績も大きいと思う。

    最近、児童虐待のニュースが後を絶たない。

    その場合の非難は親に集中するが、
    その子が障害児だった場合はどうだろうか。

    親が障害児を殺してしまったというニュースは結構昔からあったケースで、
    しかもその場合、親は非難されるというよりも、
    同情されるということが多かった。

    両親(特に母親)が子育てを抱え込んでしまい、
    どこにも相談するところがなかったら苦しいのは当然である。

    その子が健常児だったら親が責められ、
    障害児だったら同情されるというのはどうかと思うのだ。

    話を本の内容に戻そう。

    クシュラは,重篤な障害をもって生まれてきた。

    始終むずかり、昼も夜もほとんど眠らないクシュラとの
    長い時間を埋めるために母親が始めたのは、絵本の読み聞かせだった。

    首があまりすわらず、腕もうまく動かせなかったクシュラは、
    1人では見ることも物を持つこともできなかったが、
    本を通して豊かな言葉を知り、
    その言語能力は3歳を迎える頃には健常児をしのぐほどだったという。

    一読目の頃の私は、障害児も自ら楽しみながら学ぶ機会を
    得ることができれば、その才能を開花させることができるのだ
    ということと、大きな役割を果たした絵本の力に心を動かされていた。

    それは今も変わらないが、最近それに新しい視点が加わった。

    それが両親の子供に対する接し方である。

    読み聞かせをはじめたのはもちろん、
    娘の成長の記録をとり続けたのは母親であったが、
    彼女1人がクシュラのことを抱え込んでしまったわけではないのだ。

    むしろ、途中からは母親が外に働きに出て、
    家で仕事をしている父親がクシュラと妹の面倒を見たり、
    家事は分担ではなく一緒にやったりと、
    家族の幸せの形を柔軟に作り上げていったことに、
    この家族が壊れなかった理由があるように思えてならない。

    子供が障害児だからといって、本人も親も
    生き方を制限される必要などないのだ。

    そういった意味で、この本には、
    子育てとは、家族の幸せの形とは何かを考えさせてくれる1冊でもある。

    『クシュラの奇跡』には、巻末の付録で「クシュラの本棚」と題し、
    彼女が読んだ本の書誌事項がまとめられている。

    この140冊もの絵本を全部本棚に持っていたというのは,
    うらやましい限りである。

    クシュラには、たくさんの絵本との出会いがあり、
    絵本とめぐり合わせてくれた人がいた。

    そのおかげで、クシュラは、本の中の言葉を通して、
    自分では直接触れることのできなかった世界を
    手に入れることができたのである。

    自分がクシュラぐらいだった頃のことを思い出そうとしても、
    残念ながら自分が読んでいた絵本のタイトルはほとんど浮かんでこない。

    でも、子供の頃は1人遊びが多く、絵を描きながら
    鼻歌ばかり歌っていた私にとっても、
    言葉や概念を獲得するのに重要な役割を果たしていたのは
    絵本だったに違いない。

    クシュラにとってはもちろん、私にとっても、
    本は大事な友達だったことをもう一度思い出させてもらった。

  • 手に取る機会があって、図書館で借りた。

    クシュラは、複雑な重い障害を持って生まれた。
    若い両親は、身体障害を認め、知的障害を疑われつつ、絵本の読み聞かせを行った。
    家族と周りの人々の働きかけの記録。

    ふぅむ、という感じでした。
    著者は児童書専門店の経営者で、クシュラの祖母。
    子どもと本に関わる人たちがよく言う、子どもへの語りかけの大切さは、ここにも出てきます。
    「障害」がここにプラスされても、それは変わらないのだなと理解しました。
    2020年現在、クシュラがどうされているのかはわかりません。
    でも、ここでもやっぱり、クシュラの言葉を引用して終わりましょう。
    「さあこれで、ルービー・ルーに、ほんをよんであげられるわ。だって、このこ、つかれていて、かなしいんだから、だっこして、ミルクをのませて、ほんをよんでやらなくてはね。」

  • 絵本の力。言葉の力。彼女の親が知的好奇心、探究心が強く忍耐強くなければクシュラはどのように成長していたであろうか。それは誰もわからないけれど、これを読みながら親として子供にできることって目の前にたくさんあると思った。

    やっぱり原作のまま読むのがよさそう。

  • 障害をもつこどもに読んで聞かせた絵本と発達の記録。C0090

  • 私が絵本に深く心惹かれていくきっかけとなった1冊です。

    結果的に「奇跡」と呼ばれる現象の裏には
    葛藤・挫折にまみれた日常があると私は思います。

    その逃げ出したくなるような毎日が積み重なった時
    ふと振り返ってみたら奇跡的だったのだと思う瞬間が訪れるのかもしれません。

    絵本を与える、ということは、ただ買って子供に読ませることではありません。
    その絵本を読んだときの子供の問いかけに応じられる準備をするのです。
    共感できる心の余裕を持っておくのです。
    時に自分の声で、せがまれれば何度でも読むのです。何度でも。
    絵本というツールを利用して、人と向き合うことを体感するのです。
    物語の力を借りて子供の心の旅を応援するのです。

    だから、自分が子供に手渡す絵本は、心をこめて選びたいですね。

    そう感じるきっかけをもらった1冊でした。

  • 課題をきっかけに手を伸ばしてみた作品。生まれもって数多くの障害を持ったクシュラが絵本を通じて、人並みに、それ以上に成長をしていくさまを描いていく作品。
    序盤はクシュラの症状をこと細やかに書かれている。あまり耐性のない人には辛いかもしれない。
    後半にはクシュラがどのような本を読んで成長したかわかるように絵本の紹介がされている。日本人の私たちでも知っている作品が多く、また著者による絵本の抜粋もあるのでどんな絵本か知る事が出来る。なので絵本に対する知識を増やすには良いかもしれない。

  • 自分の勉強のために買いました。障害の有無に関係なく絵本のある生活の喜びを教えてくれる本です。

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