死刑事件弁護人―永山則夫とともに

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  • Amazon.co.jp ・本 (294ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784946406591

作品紹介・あらすじ

この本は、永山則夫という稀なる個性を鏡としながら、傷つき、悩み、苦しみ、弁護士として、一女性として、変化成長して行く、著者自身の記録である。

感想・レビュー・書評

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  • 「生きたいと思わせてから殺すのが、お前らのやり方か」。一審では、弁護人に対してさえ心を開かず、死刑を望んで死刑判決を受けたが、控訴審では弁護人との信頼関係を築き、婚姻もし、著作物の出版もしながら無期となったのち、最高裁は有名な永山基準の判示をして差し戻した。切り取られた事実に基づく裁判で裁く者の違い、社会情勢やマスコミの反応により判断が左右される、人が人の生死を決定することの不確かさ。死刑存置の根拠として世論を挙げながら、死刑執行の際の密行主義に基づき判決確定後の死刑囚の生活を議論の前提とさせない日本。

    一般に判決文は難解で無味乾燥なお役所文章と言われるが、大谷弁護士は、量刑の理由には裁判官の露骨な感情が剥き出しになり、こと死刑判決では、裁判官の「憎しみ」がほとばしり出るのを見るという。人一人の命を奪う死刑に万人が納得するためには被告人がいかに死刑に値するかを力説するからという。例えば、連合赤軍事件での「自己顕示欲が旺盛で、感情的・攻撃的な性格とともに強いさい疑心、嫉妬心を有し、これに女性特有の執拗さ、そこ維持の悪さ、冷酷な加虐趣味が加わり」との判決文。当該被告人の死刑理由に女性一般を罵る必要はない。

    裁判官も人だ。大谷弁護士は、戦後初めて検察官が死刑を求めて検察官が上告し、無期判決に対するマスコミの反応を上告理由に挙げられた永山事件において死刑制度があるが故の社会の野蛮さを見たという。死刑を廃止する社会は、殺しても殺したりないくらいの犯罪者であっても、殺すことを踏みとどまる理性に軍配を上げる社会だ。人一人の人間はさほど優しくなれないからこそ、人間の野蛮さや残酷さが露出しない構造、誰もが持つ人間の内心の狂気を抑え込む寛容な理性ある社会を望むという大谷弁護士の言葉は、死刑事件の弁護人として説得力を持つ。

    死刑について考えたくて読んだ一冊。本書を読み、死刑について、死刑判決が出るまで・出た後の被告人の心境の変化、そして死刑囚の生活について何一つ知らないと痛感した。まず知り、考え、そして議論したいと思う。本書を手始めに、死刑事件に関する書籍を読み進めたい。次は、石川鑑定について読もうと思っている。

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著者プロフィール

1978年弁護士登録。第二東京弁護士会所属。日本女子大学非常勤講師。沖縄大学客員教授。内閣府障がい者制度改革推進会議委員。元東京拘置所視察委員会委員。「永山子ども基金」代表。連合赤軍(永田洋子さん)事件、金井康治君自主登校裁判、アイヌ民族肖像権裁判(チカップ美恵子さん)、地下鉄サリン(広瀬健一さん)事件、日本赤軍(重信房子さん)事件などを担当。著書に『共生の法律学』(有斐閣)、『若い女性の法律ガイド』(共著、有斐閣)など。

「2010年 『それでも彼を死刑にしますか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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