宝ヶ池の沈まぬ亀Ⅱ ある映画作家の日記2020‒2022 ―または、いかにして私は酒をやめ、まっとうな余生を貫きつつあるか

著者 :
  • boid
4.83
  • (5)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 53
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (592ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784991239113

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • ホントはこの鈍器本を本格的に書評することは出来ないから、概要だけ述べて逃げるつもりだった。曲がりなりにも飛ばし飛ばし最後まで読み通して、気が変わった。背表紙にモヒカン状態で生えた付箋紙を半分くらいはやっつけようと思う。何故なら、緩和ケアに移ろうというあの段階で、PCに向かってあれほどの文字数を打ち込む青山真治監督の情熱と知性に当てられてしまったからである。

    どちらにせよ、そのせいで今回は久しぶりにレビューしない日をもうける。しかも結果的には、この本は県立図書館に私が「買わせた」マニア本なのではあるが、きっと贖う事になるだろう予感がある。青山さんは亡くなる2年前にあと5年は生きる計画を綿密に立てていた。その1.5年間で、585p、2段組小さな活字のこれだけの日記を残した。私もそろそろ先が見えたな、あと5-6年だな、と思った時点でもう一度この本を読まなくてはいけないと思うからである。

    ここまでが、この本の全体の感想である。ここからは、1人の尊敬する映画監督の頭の中を逍遥していきたい。(よって、いつものような私的メモなので無理に読む必要はありません)

    【2020年】
    2020年9月末にwebマガジン「boidマガジン」に掲載された文章から始まるので、その約1ヶ月の出来事の日記なのであろうが、1ヶ月にしてはあまりにも文量が多い。思いついたままの文章というのはわかるのだが、それにしても引用される現在・過去の映像作品、文学、音楽の多さよ!9月末は、どうやら長い入院の末に、本格的に断酒し、健康的な生活を決意した直後から始まるらしい。本書の副題が「ーまたは、いかにして私は酒をやめ、まっとうな余生を貫きつつあるか」になっているのにもそれが伺われる。「余生」‥‥。こういう題名にしてしまったのは本人の意向を尊重してそうなっているのに違いない。何故なら、この1年6ヶ月後に青山真治監督は、喉頭癌にて亡くなるからである。

    某日(9月)、最後の作品「空に住む」(多部未華子主演)の斉藤プロデューサーや知り合いの廣瀬夫妻と退院後の生活について3時間延々と語っている。エネルギッシュ!

    某日(9月)、次の企画関連らしく「(幕末の)岩倉を一冊、大久保を二冊読む予定」。どんな内容なのかわからないけど、一般的に言われる悪者の2人を、大いに評価するようだ。「この2人の道半ば感は誰より、というのは西郷より、という意味だが、重いものだったのだろう。彼らの死によってこの国はまさに道半ばで壊れていく」

    某日(9月)、ずっと気に入ったテレビ番組と、大河だけはみていて、記述がある。この頃は「麒麟がくる」。珍しく評価している。

    某日(9月)、「写経」をほぼ毎日している。隠語のように出てくるからよくわからないんだけど、この頃は谷崎潤一郎を写し書いているようだ。「春琴抄」は終わって次に行っているとある。

    某日(9月)、「ノーカントリー」この傑作をずっと批判してきたらしい。「肉体的官能性を欠いたコーエン兄弟の演出には反面教師として肝に命じることばかりだ」。いつかこの感覚が私にもわかるのだろうか?

    某日(9月)、「空に住む」取材開始。合計6本。病明けとは思えない。この映画について、私の映画ノートには〈青山真治っぽい作品〉〈絶対にヒットしない〉と、青山監督の状況を一切知らなかったので厳しめに書いている(コメント欄に、そのまま再掲しよう)。しかし、近いうちにもう一度見ようと思う。今は未だそのエネルギーが出せない。主人公が若い女性なので勘違いしていたけど、これはもっともっと真剣に考えるべき、「死のその先」にある物語だったのである。

    某日(9月)、ペドロ「ヴィタリナ」をこの年1番の傑作と評価!作品をおろか、監督さえも知らなかった。しかもTSUTAYAで検索すると、DVDすら置いてない。いつか観たい!

    某日(10月)、トランペッターの近藤等則についての短い追悼文。青山さんは次の年にはには、毎日のように訃報を記すのではあるが、この時は未だ余裕あるのか、長い文を書いている。それでも最後にこう記す。「近い将来、黒田さんのライブを私が撃つ時、そこには近藤さんもきっといらっしゃるだろう。(略)お疲れ様でした。ありがとうございました。また会いましょう」

    某日(10月)、黒澤清「スパイの妻」初見。どうやら青山さんは黒沢監督をかなり尊敬しているらしい。本作についても絶賛に近い。私は初見時、作り物めいてどうも好きになれなかった。けれども、知り合いの映画仲間は絶賛する人もいた。これももう一度観なくてはいけないと思い、TSUTAYAから借りてきた。これから観ようと思う。その感想はあとで述べるとして、例えば青山さんはこう書く。「エンディングは『散歩する侵略者』の延長線上というか、絶望のさなかの光明ということになるのだろうが、その点をこういう象徴主義で示されるのが珍しくて、それだけで面白がれた。とはいえ、やはり白眉はあの見事な廃墟の中での夫婦の共同作業のエロティシズムとそこでラストを想起させる「同方向を向く横からの切り返し」だったなぁ」。
    ←映画を観た。
    「僕はスパイじゃない」
    「どちらでもいいです。貴方は貴方です。貴方がスパイになるなら、私はスパイの妻です」
    これが廃墟の中での見事な台詞のやり取りの一部である。これをエロいと言い、「横からの切り返し」というのは、わかるようでわからないのだけど、今までに無い「スパイもの」の論理であることは確かであり、正に「現代の課題」そのものの様に感じた。つまり、妻の豹変こそ、この映画の白眉なのである。このカメラワークは勿論監督の指示なのだろう。とっても独特であることがわかった。その他、いろいろ。セット撮影中心にすることで、私は「作り物めいた」と言ったけど、映画中映画と同じくそれがとんでもない映画として異化しているのかも知れない。とても映画らしい作品だった。


    某日(11月)、「オール・ザ・キングスマン」「ニクソン」「ハンナ・アーレント」と三本立てで見るとはっきり現在に至るこの八年の日本を問答無用に描写できるのではないか
    ←当然のことながら「この八年」とは、第二次安倍政権誕生以降ということなのだろう。青山さんは所蔵のDVDでこの日、三本立て鑑賞したようだ。地下に膨大な数のDVDと本とCDの蔵書室があるようだ。

    某日(11月)、この頃写経は漱石「こころ」。「これはドッペルゲンガーの小説」「Kは金之助のK(略)自分が自分を殺すという分裂症は明らかに漱石のもので、日本人の根本をそう捉えることは実に都合が良かったのだろう。分裂により無責任を自決とか自裁とかいう形式で虚構化しえる。高等遊民という優越の可視化と労働の象徴化を並列に置いた『それから』に続く日本人論ということか。これが最も売れた小説だと本日病院で目にした雑誌に書いてあった。さもありなん。そうしてそれゆえに、チャンドラーどころではないミソジニー、ではなまぬるければ女性蔑視を、時代の産物としてではなくこの国のマチズモとして徹底的に糾弾すべきかと思われる。やはりこんなものが国家を代表する小説として大手を振って喧伝されるようではたまったものではないのだ。しかしその上で、その批判を超えて、狂気とともにある人間存在の卑小さと希薄さの目覚ましい顕現として評価し直されるべきだとも思う。
     だが「こころ」を読んだせいだけどは言い難い深い反省が、記憶を反芻するたびにあらためて我が胸を襲う。多くの人に迷惑をかけ、不快な思いをさせてきたことを帳消しにすることなどできない。「先生」の書くとおり、「運命の導いていく最も楽な方向」のあることは知ってはいるが、私はそこから引き返した。引き返した以上、どんな批判も受け入れ、かつ自分の見つめる前は前としてそちらへ向かおうと思う。」
    ←「運命の導いていく最も楽な方向」とは明らかに自殺のことであるが、いつの事かわからないけど、青山真治は「そこから引き返した」。詳細は一切わからない。病気苦だとしたら、つい最近となる。なんとなく納得できるがわからない。どちらにせよ、私の未だ読んだことのない「こころ」評だった。

    某日(11月)、「COLD WAR あの歌、2つの心」を「まあそんなところであろうという映画。その中でも悪い気はしない部類」と評価低め。私は絶賛だったのに‥‥。素敵なヒロインがどことなく岸井ゆきのさんに似ている、と感想。「空に住む」に出演しているからだけでなく、他のところでもふと出てくるので、青山さんは岸井ゆきのをかなり買っていることがわかった。勿論私も好きです。

    某日(12月)、「読書の内容を明かせない。何故なら映画の原作の周辺として読んでいるので」と書いている。岩倉、大久保は書いているのに、こちらは明かせないということは、かなり具体性があるという事だろう。監督業というのは、本当に何本も何本も企画を考えながら過ごしているのである。

    某日(12月)、どうやらこのとき起きていた「ミニシアターを救え!」運動に、青山監督は批判的らしい。その根拠は多分前作(「宝ヶ池の沈まぬ亀1」)にあるのだろう。そのことと「空に住む」の「現状肯定」主義と、漱石の「私の個人主義」とリンクさせているのが印象的。←だから絶対「自己責任論」が根拠ではない。

    【2021年】
    某日(1月)、このころ、大江健三郎を集中的に読んでいる。

    某日(2月)、「空に住む」で愛子の結婚相手を見せなかったら「省略しすぎ」という批判があったらしい。「でもあれは省略ではなく、見せるべきではないと思ったから見せなかった」「小津でもヒロインの結婚相手は出ない。」←た、確かに‥‥。

    某日(2月)、大河「麒麟がくる」の最終盤、帰蝶役を「いつもながら見事。別に格調高いというわけではなく、多くが巧者と納得する嫌味な形ならいくらでも適役はいるだろうが、この可憐さと紙一重の獣性というべきか、何か猛々しいものを登場以来継続させているのも本木=道三を父に持つ宿命の継承化か。演出も脚本もどちらかと言えば杜撰だと思うが、そこだけは成功させている」と評価。この何もにも忖度しない書き方がとても好き。青山さんは見ることなかったけど、映画「レジェンド&バタフライ」の綾瀬はるかをどう評価したのだろう。彼女も可憐さの中の獣性をテレビ以上に顕在化させていた。
    最終回、山﨑の合戦が描かれなかったこと、長谷川博己と門脇麦のシーンで終わることは、出会いの回から予想していたらしい。

    某日(3月)、「アメリカン・ユートピア」高評価。「公開時にはどうか最前列五列ばかり外してダンスフロアよろしくしてもらいたい。年齢問わずしっかりした大人が見て、踊れる映画になるといい」と提案。私はそんなに乗れなかったけど、青山監督の音楽感性はプロだから、それも行けるのかもしれない。

    某日(3月)、「米軍が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯」高評価。←私もいま偶然、カメジローの不屈館で購入した「不屈Tシャツ」を着てこれを書いている。

    某日(4月)、青山監督、詳細はよくわからないけど、小倉→岡山→小豆島小旅行を敢行。2日目の岡山で吉備津神社へまず行く。どうも腹案の企画のひとつらしい。「雨月物語」の「吉備津の釜」、「春雨物語」の「樊噲」の何かを探して来たようだ。何かとは何か、おそらく永遠にわからない可能性が高い。
    そのあと、尾崎放哉を求めて小豆島を回る。おそらくこれも企画のひとつ。図書館で資料的価値の高い「小豆島の放哉さん」という書物を見つけ、その後Amazonでゲット。現在WEB上では何処にも存在しない。

    某日(6月)、「ユリシーズ」を集中的に読んでいるが、私には評する資格がない。

    某日(6月)、テレビドラマ「コントが始まる」最終回。「地味だけどたぶん三十年後も、あれがさ、とか喋れるいいドラマだったと思う」。私も同感。

    某日(7月)、このころ樋口一葉を写経。
    「『たけくらべ』という子供を主人公にした(児童文学でない)作品を書き写していて最も頻繁に変換する文字は「耻」である。例えば公文書改竄などという現実に国民として「耻」を感じ、行った者は全員「耻知らず」であり、その「耻」の大きさゆえに責任の重さに耐えられない自殺者が後をたたず、しかしそういう事態を「耻知らず」たちは隠微可能と考え、この「耻」の感覚が希薄であるらしい一般市民はよくわからぬままに、ふーん、でもまあこのまんまで行きたいんだけど、と思っている。しかし常識的に考えて「このままでいるためには何もかも変える必要がある」のである。このまんまでいることは「耻」の感覚を失わせる方向で動き続け、最終的には「耻知らず」どもが濡れ手に粟と儲けるために公文書改竄が思い通りに行われる社会になるからだ。「耻」とは人間が美しく生きるための土台だ。社会が清くあるための土台だ。それを失くした人間はただ醜い。」

    某日(8月)、「終わって気づくとSNSが荒れている。というか東京終了ではないか。」
    当然オリンピックにまつわる騒動のことだろう。

    某日(9月)、病状悪化、手術等等、淡々と克明に報告。

    某日(9月)、「ドライブ・マイ・カー」鑑賞。褒めている。珍しく長々と書いているけど、終わりの方だけ書き写す。「ラストは諸説あるだろう。私にとっては上十二滝村で眼下を見下ろして抱き合う「父娘」で終わっていた。そのあとは言い訳の付け足しで、一昨日書いたアルトマンの遺作と同じ。舞台はエンドロールでいいし、それもラストシーンがあることはリハーサルで軽く見せるだけでよかった。『グラン・トリノ』はまあご愛嬌。」←実に映画作家らしい感想。‥‥「グラン・トリノ」?ドライバーが車を受け継いだことか‥‥。

    某日(10月)、「何やら急に、あとどのくらいの時間が自分に残されているのか気になる。当然65までは8年を切り、その辺で2020年代も終わり、世間がどうなっているか知らないが、それまで懐に隠してある企画が皆成立すればいいが、読書はかなり進んでいるのではないか。」
    私は5年計画を立てていたのだと思っていたが、そんなことでもなかった。このとき57歳、65歳までにしたいことを幾つか挙げていた(詳細は不明)のだ。未だ余命宣告を受けてはいないだろうけど、既に痛みは激しく、かなり不安だったかも知れない。しかし日記には「不安」という様な記述はほとんどない。死ぬ数週間前、PCに打ち込みが出来なくなる前まで旺盛に文章を書き散らし、旺盛にDVDを観、旺盛に読書をしていた。あゝこれが人間なんだ、と私は感動する。

    某日(11月)、白土三平訃報。「子供の頃カムイに出会って以来、白土先生の創作物は私の精神の体幹だったとつくづく身に沁みる。他に代わりになる方はない。中上健次さえ白土先生あってこその同志である。頼み込んで会いに行った唯一の人でもある。赤目プロは当時練馬にあった。緊張した」
    まさか、「体幹」とまで言うとは。青山真治にずっと共感して来たのだが、こういう共通点があったとは!有名人だからこそ、対談か何かで直接会えたのだろう。羨ましい。

    某日(11月)、「選挙も予想はされたが酷い有様。その上、京王線でテロ。いよいよ本格的にやばい国、しかも独自のやばい国になりつつあるようだ」

    某日(12月)、「歎異抄」読書、いろいろ書いてあるが省略。

    某日(12月)、年間まとめ。新作映画ベストは「ルーべ、嘆きの光」「ビーチ・バム」「アメリカン・ユートピア」「BILLIE ビリー」「サマー・オブ・ソウル」「カリフォルニエ」「SAYONARA AMERICA」「フレンチ・ディスパッチ」「アネット」「ライトハウス」。←いやあ、「アメリカンー」と「サマー」しか観ていない。「サマー」は私も年間ベストに挙げた。
    読書。長年の壁であった大江健三郎の80年代と「カラマゾフ」読破。他には「謎解きサリンジャー」五所純子「薬を食う女たち」等のこと。音楽についてはわからないので割愛。

    【2022年】
    某日(1月)、「雨。精神的苦痛。病人は1日に何度か前を向いたり後ろを向いたりする。時には酒をやめなければよかった、そうしてあのまま死ねばよかった、と考える地獄の時間もやってくる。年が明けて調子が下向いてきてからその頻度は反比例している。何かに救いを求めたいがそんな当てどこにもないことはわかっている。去年はその反動でその後にかなり上向き前向きな時期も来ていたが、今年はやってこないまま体調だけがどんどん悪くなり、不安だけが募る」
    ←ここで、私的には初めて「不安」の文字を見つけた。亡くなるほぼ2ヶ月前である。そのあとも物凄い量の文章を書いている。

    某日(2月)、ぼんやりしたまま病院に行くと、どうやらよろしくない状況、こんなことは珍しいというくらいの結果から明日入院と即決。治ってくれるといいが、医者というのはいつでも五分五分みたいな顔をしている。むしろそういう方がこちらは前向きになるが。
    ←ということは、最後まで余命宣告は本人にはしなかったのか。2月終わりに一旦退院している。
    書き忘れていたけど、この日記に最も頻繁に登場するのは愛妻のとよた真帆である。ずっと「女優」というふうに書いている。「妻」とか、「家内」とか、名前とかでは決して呼ばない。とよた真帆にはこの頃余命宣告はあったのだろうか?次によく登場するのは愛猫の「ぱるる」である。何故その名前にしたのか、最後まで分からなかった。

    某日(3月)、これは死後、PCのハードディスクの中から発見された。WEB未掲載文章。それでも相当ある。もはや映画を観たり、本を読んだりできないけど、テレビは見ていて、ウクライナ戦争についても述べているのが、不思議な感じがする。青山さんは、これはファシズム対ファシズムだという感想。アマプラで「ファーザー」(アカデミー賞主演男優賞)も観ている。

    某日(3月)、「小型ハンディカメラを手にして「新作」と称する作品を撮影する夢。タイトルを『DAYS AGAINST THE DAY』としてメモを取ろうとPCにファイルを立てたところまで夢を見たと思い、恐る恐る確認すると、実際に作っていた。さすが含モルヒネ」
    この後つらつら書いたあと「おかみさんが来て、今後のなり行きについて緩和ケア病棟の方と相談。まだまだ漠然ととはしている。もちろん夢のようなことを考える自由」
    ←ここで初めて妻のことを「女優」とは呼ばすに「おかみさん」と呼んでいる。
    「来週から緩和ケア病棟に移ることに決まった。それで何かが変わるわけではない。ゆっくりと死ぬのを待つ場所に行くというだけのことである。」

    2022年3月21日没。


    • kuma0504さん
      青山真治は、尊敬する監督の1人だった。「EUREKA」(2001年)は衝撃的だった。これ以降、私は宮崎あおいのフィルモグラフィを追ってゆくこ...
      青山真治は、尊敬する監督の1人だった。「EUREKA」(2001年)は衝撃的だった。これ以降、私は宮崎あおいのフィルモグラフィを追ってゆくことになる。「空に住む」公開時すぐ観た。批評は辛口である。今見たら、違う感想を持つことはわかりきっているが、今は見る勇気がない。酷いこと書いているけど、そのまま載せる。


      「空に住む」

      両親が交通事故で死んだ後、おじさんの計らいで空の上のような部屋に住む。
      「雲のような」直美は、「心があるのに嘘をつく」ような「捉え所のない」娘ではあるが、そんな女性はわりといるだろう。
      スターと寝たり、主人公として可愛い顔をしていたり、直ぐにハルとのお別れが来たり、映画的な仕掛けはあるが、淡々と日常が続く。
      人と人との関係は猫のように15年間じゃない。一生続く。当たり前のことに向き合う。そんないかにも文学っぽい内容を文学っぽく映画化。絶対ヒットしない。よく映画化できたなあ、と思う。
      ある意味とっても青山真治っぽい作品だった。

      原作では、おそらく主人公の呟きで埋められているのだろう。
      「人はずっと誰かとの関連で
      生きていかなくてはならないけど
      それは交わることはない、
      でもその平行線が宇宙のずっと先まで行けば
      交わることはある」
      猫とは話ができない
      両親とも話ができなかった
      でも、その話を聞いて直美は初めて涙する
      号泣ではないところが、
      青山真治のリアルなのだろう

      松本憲人(1969-2020)って誰?
      照明の人でした。8月急逝。

      STORY
      両親が急死した現実を受け止めきれない直実(多部未華子)は、叔父夫婦が用意してくれた都心の高層マンションで、長年の相棒である黒猫ハルと暮らすことになる。喪失感を抱えたまま日々を過ごしていたが、同じマンションに住むスター俳優・時戸森則(岩田剛典)と出会ったことで彼女の運命は一変。彼と逢瀬を重ねながら、直実は仕事や人生、そして愛について思いを巡らす。
      キャスト
      多部未華子、岸井ゆきの、美村里江、岩田剛典、鶴見辰吾、岩下尚史、高橋洋、大森南朋、永瀬正敏、柄本明
      スタッフ
      監督・脚本:青山真治
      脚本:池田千尋
      原作:小竹正人

      2020年10月24日
      MOVIX倉敷
      ★★★★
      2023/06/21
    • 土瓶さん
      クマさん、こんばんは~。
      図書館に「買わせた」って凄いですね。
      この監督さんの作品は正直よく知りませんが、まだそんな高齢でもなかったのに...
      クマさん、こんばんは~。
      図書館に「買わせた」って凄いですね。
      この監督さんの作品は正直よく知りませんが、まだそんな高齢でもなかったのに残念です。
      2023/06/21
    • kuma0504さん
      土瓶さん、
      3500円で誰が読むんだろ、と書いている途中ちょっと思ったので「リクエストした」という言葉を換えてみました(^_^;)。図書館へ...
      土瓶さん、
      3500円で誰が読むんだろ、と書いている途中ちょっと思ったので「リクエストした」という言葉を換えてみました(^_^;)。図書館へのリクエストは正当な市民の権利です。
      でも、今日見たらちゃんともう1人予約していました。明日返却します!

      青山真治監督作品として、東野圭吾原作の「レイクマーダーケース」という、あまり注目されていないけど傑作があります。それと「ユリイカ」は傑作です。でもDVD出ていないんだよな。
      2023/06/21
  • 逝去直前まで綴られた日記で、600ページ近い大冊である。

    最終盤に入ると一気に死の影が濃くなるが、そこまでは淡々とした記述が続き、闘病記という印象はごく薄い。

    むしろ、映画鑑賞日記・読書日記・音楽日記の色合いが濃い。
    映画監督であり作家でもあった著者だが、音楽にも造詣が深く、高校時代にはかの「UP-BEAT」の前身バンドの一員でもあったという。

    私は著者と同年生まれである。だからこそ、早すぎる死には衝撃を受けたし、最終盤に色濃い死の影は身につまされる。また、本書の記述に世代的共感を覚える点も多い。

    副題の印象から断酒記録としての色合いも期待したのだが、酒や断酒についての記述はほとんどない。

    断酒に踏み切ったのが遅過ぎたのかもしれない(著者の死因は食道がん)。

  • 第1巻を読んだ時も思ったのだけれど(凡庸な言い草になってしまうが)、人間の中にこれほどまでの思念が宿りうるとはとその濃度に圧倒させられてしまう。そして、実によく映画を観て本を読み続け、酒を断って生活を律しているとそのストイシズムに感銘を受ける。死の直前まで記された(と思われる)この日記から感じるのはそうして書くことに「も」持ち前のストイシズムを貫き通した人間の美学だ。個人的な読書の枠内から言えばそれはフランツ・カフカが記したさまざまな仕事を想起させられる。思念は実に余命を宣告されてもなお、濃く煮詰められる

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1964年7月13日、福岡県北九州市門司に生まれる。立教大学英米文学科卒。
1996年『Helpless』で劇場映画監督デビュー。2000年『EUREKA』がカンヌ国際映画祭で国際批評家連盟賞とエキュメニック賞をW受賞。同作の小説版が三島由紀夫賞を受賞。2011年『東京公園』でロカルノ国際映画祭金豹賞審査員特別賞受賞。2015年度まで4年間、多摩美術大学映像演劇学科教授。2016年度、京都造形芸術大学(現・京都芸術大学)映画学科の学科長を1年のみ務める。2020年公開の『空に住む』が遺作となった。2022年3月21日逝去。

「2023年 『青山真治クロニクルズ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

青山真治の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×