METAMORPHOSIS (Wisehouse Classics Edition)
- Wisehouse Classics (2015年12月10日発売)
- Amazon.co.jp ・洋書 (44ページ)
- / ISBN・EAN: 9789176371084
感想・レビュー・書評
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-愛と憎悪の薄氷の境界線-
Serial Readerで読了。子共時代に読んだ印象はシュールで不気味な非現実的物語。大人になって読むと剥き出しの人間性の物語だった。
子共の時はグレゴールの視点で読み、大人になってから読み返すとグリートをはじめ家族の視点になる。
物語は我々がhumanity(人間性)と呼ぶ規範の限界を試そうとする。人外になってしまった兄を、当初知的で優しい妹は人として接しようとするが、徐々に徐々にその心が蝕まれ壊れていく様子が恐ろしい。物語では異形よりもコミュニケーションの断絶により家族は破壊されていく。グレゴールもグリートもお互いの愛情故に壊れて(閉ざされて)いくのだ。
義理の親を病気で亡くした友人は「人間の最後は美しいものではなかった」と語った。聞いた時には理解が及ばなかったが、意思の疎通と共通規範が崩壊する事で、ひとは簡単に壊れるのだ。無償の愛(アガペー)はやはり神学上の概念であり、血肉で構成される我々はフィードバックを求めずにはいられない。閉じた愛は崩壊する。
以外な発見だったのは、救いようのないと思っていたエンディングが違ったニュアンスに感じられた事。そこに救済のニュアンスを感じたのは自分が生きてきた時間からか。
そしてグレゴールはイモムシ的なものに変わったと思い込んでいたのだけど本編の描写からなんらかの甲虫だった。
この短い短編は本当に辛く不快なものだけど、自分の感覚に噛みついてくる。少なくともいろいろ考える材料をくれた。
芸術としての小説の在り方はこういうものなのだろう。
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