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- / ISBN・EAN: 4988102642518
感想・レビュー・書評
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原田芳雄の野生味と色気
夢とも現実ともつかない、突拍子もないシークエンスはまさしく幽玄 ザATGという趣き
カメラ運びよりも画の美しさが印象に残った詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
洋館と日本家屋、洋装と和装のコントラストはわかりやすい。盲人男女3人組の遊芸者は主人公の乱れた異性感を示すメタファーですが、障害者をコミカルに扱っているところはいただけない。夢や妄想と現実を交錯させ、エロスとデカダンスを表現します。水蜜桃の皮を伸ばしたしたで楽しむ場面は確かにエロスとフェチズムがありました。でも、土着的な汚れや歪みは満載ですが、そこに美しさは感じられません。アングラ劇って、こんな感じなのでしょうか。
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鈴木清順の映画を一言で表すとすれば訳が分からないということである。初めて観た『ピストルオペラ』は訳が分からなさすぎて、それで腹が立ってこの監督の作品は金輪際観ないと決心していたのに、また性懲りもなく訳の分からぬ毒に自分から近づいていくのだから困ったものだ。恐がりが怖い話を聞きたがるのと同じである(聞いてから後悔することも含めて)。鈴木清順はストーリーなどという甘い蜜で観るものを取り込もうとはしない。ただただ毒の入った映像が並んでいるだけで、だから僕らが考えてストーリーを組み立てなくてはならない。それが良いのか悪いのかは別として(僕は苦手だけれど)、分からぬものを想像するというのは時として僕らに恐ろしい思いをさせる。それは大けがをした当人よりも、周りの者の方が心中穏やかで居られないことと似ている。怪我した本人は痛みがどれほどのものか分かっているのに対して、傷口から溢れ出る鮮血を見て痛みを想像することしか出来ない周りの者はその想像力で以て無尽蔵に痛みを倍加してしまう。或いはそれはお化けが目に見えないこととも似ている。『ツィゴイネルワイゼン』が面白いかと言えば疑問符が付くが、訳の分からない映像を見ているときの穏やかならざる気持ちを思いだしてみると、何か引っ掛かってくる作品であるのは間違いない。そうした引っ掛かりを美だとかエロだとか恐怖だとか不安だとかに還元して説明することは到底不可能で、ただただ『ツィゴイネルワイゼン』的としか言いようがないのである。
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今夏のJAPAN CUTSでのClassics枠において、今年2月に鬼籍に入った鈴木清順監督への追悼の意味も込めて選出されたのが本作。そういや原田芳雄が亡くなったのいつのことだったかと振り返るともう2011年のことだった。月日の流れの早さだけは止めるすべがない…。
鈴木清順監督作品一覧を眺めてみるとなんとまだ「オペレッタ狸御殿」(2005) 一本しか鑑賞していなかった。今回奇しくもそれに出演していたオダギリジョー、その前作「ピストルオペラ」(2001) にて拾い上げられた韓英恵のご両人を壇上にてお見かけすることとなり、あらためて鑑賞欲が強まったことは否めない。韓英恵氏にいたっては名前を挙げて恩を述べるだけで涙声になっていたものだから、その人となりについてもっと知りたくなってしまった。
145分の本作を集中力切れることなく走りきるには体調及び環境が今ひとつだったことが残念。DVD版を手に入れられた際にはすこしリラックスして、軽く酩酊して、あの絵画的、音楽的、幻想の世界をのんびりと再鑑賞してみたい。黒澤作品「まあだだよ」(1993) でおなじみの内田百閒の作品「サラサーテの盤」に基づいているということで、そちらの方も気になる次第。
役者陣ではまず大谷直子。デビュー作「肉弾」(1968) 、園子温作品「希望の国」(2012) の両極端な活動時期の鑑賞を経て、1980年発表の本作にて一番の色気に魅了されてしまった。
もう一人は藤田敏八。よく知らない役者さんだ…と思って眺めていたものの後につい最近鑑賞した「スローなブギにしてくれ」(1981) の監督であったことを知り驚いた次第。彼については今後は役者作品と監督作品を並行して追いかけていく必要がありそうだ。 -
ずっと前からずっと観たいと思っていて なかなか観られないまま時間だけが過ぎていた。どんな作品なのかほとんど予備知識を入れないままで 満を持しての鑑賞だったわけだが 正直なところ「よく分からない」で終わってしまった。視覚的に印象的なシーンの連続で 確かに「これを観た」というインパクトは心に強く残っているのだけれど ゆっくり思い返してみても わたしにとってはやっぱりよく分からない映画なのであった。
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2017/4/10
80年作 -
場面が変わったり、設定が変わったりと、物語の筋がみえなくなるところがある。夢と現実、あるいは生死を行き来する展開を全て理解することは難しい。
それでも、2時間以上この作品を見通すことができるのは、単純にその展開の不気味さであったり、あるいは、和服などの衣装や舞台の色使いなどのセンスに魅せられるからだろう。原田芳雄がかっこいいため、それだけでも絵が持つ。 -
1980年 日本
監督:鈴木清順
原作:内田百閒「サラサーテの盤」
出演:原田芳雄/藤田敏八/大谷直子/大楠道代/麿赤兒/樹木希林
http://www.littlemore.co.jp/seijun/zigeunerweisen
原作は百閒の短編。夢と現実の曖昧な百閒の作風と、鈴木清順の美学が融合した傑作。大楠道代が美しかったなあ。
(1996/3/9)文芸座2 -
鈴木清順監督による大正浪漫三部作、第一弾。もう全編を通して官能の入り混じる美に身を貫かれ、脳が溶けてぐしゃぐしゃになってしまうんじゃないかと思った。内に狂気を秘めたる学者とその友人である狂気そのものの無頼漢。二人の妻からとろとろと零れ落ちるエロスはタナトスへの導きであり、気が付けば美と静寂に彩られていたはずのその風景は冥界への入り口へと変貌を遂げる。極彩色の着物を着こなす豊二郎の妻が美味しそうに腐りかけの水蜜桃をほおばる姿の妖艶さといったら!決して引き返せない悦びに身を委ねてしまいたくなる、傑作中の傑作。
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陸軍士官学校の教授・青地(藤田敏八)と親友・中砂(原田芳雄)が旅先で小稲(大谷直子)という芸者と懇意になります。
その後、中砂は園という小稲に似た女と結婚しますが、園は豊子を産んで間もなく病死。後妻として小稲を迎え入れます。この辺りから鑑賞者は異常なシーンを目の当たりにし、青地と小稲母娘が再会する頃には現実と虚構がごちゃまぜになります。観る人を選びますが、独創性に溢れた魅力的な映画だと思います。