恐るべき公害 (1964年) (岩波新書)

  • 1964年4月24日発売
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  • 本書が出されたのが、1964年4月。東京オリンピックの開催された年である。新幹線が開通し、日本は高度経済成長が始まっていた。日本中に公害事件が起こっていた。四日市光化学スモッグ、水俣病事件、イタイイタイ病事件、騒音、水質汚染など、公害という言葉を聞かない日はなかった中で、初めて体系的に「公害」について本として出された。
    「公害対策基本法」が施行されるのが1967年8月で、本書の3年後だった。
    本書の最初に、日本公害地図が乗っている。インターネットが発達していない中で、よくぞ調べたと思う。私が、中国にいた時に目にした様々な公害の原風景は、日本にあったのだと思った。

    「公害は天災だろうか。公害は、経済の高度成長の必然悪として諦めてよいものだろうか。公害は社会的殺人であり、社会的傷害である。公害は、犯人が明らかでない場合が多い。だが殺害者が見えないにしても、公害は、明らかに社会の責任で引き犯される犯罪であって、風水害のように、自然の暴力による不可抗力の災害ではない」

    この間に公害の発生回数が多くなり、公害のあらわれかたが変わり、その種類が増えた。そして、公害の影響する地域が広域化している。「次々と人間の住めない公害の街を作ってよいものだろうか?」と訴えている。それは、50年以上前のことである。

    映画MINAMATAを見ることで、学生時代に読んだ本を再度読んでみた。学生の頃は、簡単に、そりゃ資本主義が悪いというマクロなレベルで納得していた。今の時に読むと、公害は確かになくなったような気がするが、どうも公害というものが新しい形を変えたいろんな問題を起こしているような気もする。例えば、日本人に多い花粉症やアトピーなどについても、公害の一種の形態とも言える。
    また、頻繁する洪水、そして、土砂崩れ、水道管の破裂など、どこかが痛み出している。自然の猛威もあるが、それだけで済まされないような感じがある。大都市集中型で起こったコロナ禍もなんとなく公害の一種かもしれないと思ったりもする。
    本書は、緻密なデータを集めて、分析をしている。文章が若く、行間に怒りが感じられる。
    このような公害を背景にして、自衛することを要求し、空気清浄機を売るというビジネスのあり方にも疑問を呈している。公害対策が商売になるということだ。財力のあるものは自己防衛できるが、それがない家庭はどうすればいいのかという。公害は、体制的災害であり、個人的に泣き寝入りしたり、沈黙させられたり、病人の介護、自殺、親子心中事件が起こって、公害の問題にぶつかるのである。

    企業と政府と学界が三位一体となって、被害者対策をする。加害者の手練手管は巧妙である。
    ①住民が集団で陳情すると、公害は事実であっても、原因は」不明であると発表する。②加害者側の御用学者が、見当はずれな研究発表をして、本質をそらす。③被害者の立場に立った科学者が原因究明の発表を行う。④その科学者を否定し、研究費を差し止める。社会的に葬ろうとする。⑤被害者の集団を分裂させ、孤立化させる。⑥わずかな見舞金を出す。⑦被害者は、補償金の吊り上げをして、会社を潰そうとしているという。⑧被害者が暴走するように仕掛ける。知らない間に被害者は孤立化して、消滅するというやり方は、足尾銅山事件の古河財閥のやり方だった。
    全く、そのような手法が、水俣病事件でも使われた。やはりきちんと歴史を学ぶ必要があるのだ。
    50年以上前の本でも、今に通じる教えがたくさんあった。

  • 日本初の公害の啓蒙書(1964年)。水俣病が世間から忘却され、新潟水俣病もまだ発見されず、「公害」が辞書にないといわれる状況下で著された記念碑的著作である。

    本書が提起する解決策は、市民と農漁民とが協力した住民運動を通じた自治体の民主化であり、さらには首長や議員を先頭に立てた国政転換運動(公害防止国民運動)であった。これらの一部は、沼津・三島コンビナート阻止運動の勝利や革新自治体の勃興を通じて実現されたのであり、じつに先駆的な見通しであったと言えるだろう。ただし、四大公害訴訟に代表されるように、被害者が司法を通じた解決に乗り出す(乗り出さざるをえない状況にまで追い込まれる)ことはまだ想定されていない。

  • 水俣7

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