今日の世界は演劇によって再現できるか―ブレヒト演劇論集 (1962年)

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  •  邦訳本1962年刊。古書で入手した第7刷は私の生年と同じ1969年の発行で、相当黄ばんでいる。
     ブレヒトの「異化効果」についての言及をオリジナルの形で読みたくて、先日河出書房新社の『ベルトルト・ブレヒトの仕事2 ブレヒトの文学・芸術論』を購入し読んでみたのだが、これには全く「異化」の語は出てこず、すこぶる雑な雑文集という感じであり、これは「もしや、この本の編集方針が私の欲求と合っていないのでは?」と疑問に思ったのだった。
     果たして本書を古本で買って読んでみると、「異化効果=V効果」の語が出ること出ること。私が読みたかったのはまさにこれである。ふり返ってみると、河出書房新社のアレは、「まだ邦訳されていないブレヒトの、塵芥のような雑文をひたすらあつめてみたアンソロジー」であったらしく、ブレヒトの核心に向き合ってみたくなった読書人が求める肝心かなめの演劇論をことどとく排除した、恐ろしくマイナー志向の書物だったのである。
     さて「異化効果」も含め本書書斎の各論文にはブレヒトの「叙事詩的演劇」について、これでもか、というくらいストレートに語られている。
     観客が登場人物に心情的に没入してしまうことをあえて妨げ、違和感によってこうした対象を理性的認識/判断/思考のもとに再度呈示し直そうというこの所作は、事象をとりあえずいったん「括弧でくくって」しまおうというフッサールの現象学と、その動作において非常に類似していると私は思う。とはいえ、ブレヒトの場合は、その「括弧でくくった後」のプロセスは、やたら「社会の問題」へと還元しマルクス主義的な立場から批判しようというお決まりの手続きになってしまうのだが。
     それでも、ブレヒトの「異化」「叙事詩的演劇」の理論は、20世紀芸術においてかけがえのない、重要なものと言えるだろう。本書でとりわけ面白かった『演劇のための小思考原理』(1948)あたりなど、岩波文庫とか、あるいはちくま学芸文庫でさしずめ『ブレヒト・コレクション』などと銘打った本に入れるなどして、現在の日本人にも入手しやすい形にしてもらいたいと思う。

  • 既読
    私が読んでいたのは’60年代後半であろうか。
    当時、東京演劇アンサンブルが拠点の小屋を「ブレヒトの芝居小屋」と称していたが、これに倣うように「9人劇場の芝居小屋」と名づけ、小さな場所で毎月のようにアトリエ公演を繰り返していたのが、1968年の一年間だったから、たぶんその頃だろう。
    千田是也監修のブレヒト演劇論集と副題された本書の初版は1962年とある。

    20世紀演劇の革命児ともいえるブレヒトの、日本における受容は、俳優座の演出家.千田是也とドイツ文学者.岩淵達治のコンビによって、1950年代終盤から’60年代、戦後演劇における大きなメルクマールを形成したといえるだろう。

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