世界文学全集〈第23〉ジャン・クリストフ1 (1961年)

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  • 古本で購入、文庫本は購入不能になっている。第一章「曙」から第4章「反抗」の「埋没」までを含んでいる。クリストフの誕生、音楽的素質が花開き、祖父ジャン・ミッシェルの死、飲んだくれの父、メルキオールの死が描かれ、母の愛情、兄弟の確執などが語られる。思春期のクリストフは、まず、オットーと友情を結ぶが、不器用なため失敗し、貴族の娘ミンナと恋愛するも、身分の壁に阻まれ失恋、父の死とともに移り住んだ先では、オイラー家の騒音や干渉や押しつけに反抗しつつ、「似合い」のローザをよそに、隣に住む静かな怠け者の後家ザビーネに恋する。彼女は流行感冒によって死に、別れることとなる。その後、奔放な店員のアーダに恋して、傷つけられ、酒におぼれる。常に彼を見守ってきた素朴な行商人ゴットフリート叔父に、ああはなりたくないと思っていた父、メルキオールに似ていることを指摘され、立ち直る。その後、猛然とドイツの精神文化に対して戦闘を開始する。クリストフによれば、ドイツ文化は欺瞞のかたまりであり、人が人らしく自然に生きられない文化なのだ。ユダヤ人の雑誌に音楽批評を書き、ブラームス派を手始めに、指揮者・歌手・音楽家・聴衆などを片っ端から批判し、自分の生きる世界を狭くして、ワーグナー協会・ユダヤ人社会・街の音楽界からしめだされ、とうとう社会主義者の新聞に反論を掲載して、幼少から庇護を得てきた大公からも見放される。これを期に世間の一斉攻撃がはじまり、あらゆる人に総スカンをくらう。やっと得た教師の仕事で親しくなったラインハルト夫婦とも、陰険な市民社会の「いびり」で引き裂かれることになる。クリストフは街に一人の理解者もいなくなる。この小説は「自由な魂」にささげられ、その魂の成長を描いているとされるが、ここまでのところ、「世間」のいびりを招いたのはクリストフの身から出た錆であって、クリストフが「自由な魂」をもつといっても、その独善的な幼さは否めない。つまり、幼年期の教育がわるく、偏った人格形成がされたとした思えない。音楽以外は足し算が出来ないなど、要するに世間知らずでバカのまま二十歳になってしまったのだ。たしかに「世間」は面倒だものだが、「自由」と独善はちがう。若い頃にはありがちだが、ここまで変な奴は珍しい。ロマン・ローランの人間描写はなかなか精密で面白く、人生について考えさせられる。生活苦にぶつかる幼少期にはクリストフに同情し、励まされる人もいるかもしれないが、第4章の「反抗」からは励まされることはない。要するに愚かであったツケが回ってきたのだ。なまじ才能があるばかりに、始末がわるいのである。

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