敵こそ、我が友~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~ [DVD]

監督 : ケヴィン・マクドナルド 
出演 : クラウス・バルビー 
  • VAP,INC(VAP)(D)
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  • Amazon.co.jp ・映画
  • / ISBN・EAN: 4988021132640

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  • 解説:

    元ナチスの親衛隊員だった男が戦犯として裁かれることなく、いかにして生き延びたかを追うドキュメンタリー。

    名前を変え、各国政府との裏取引で南米に逃げたナチスの残党を描く。

    本作で『ラストキング・オブ・スコットランド』のケヴィン・マクドナルド監督は再びドキュメンタリーの現場に戻り、歴史の深い闇に迫る。

    50数年の間に3つの人生を歩み、アンデス山脈に“第4帝国”創設を夢見た男の人生はあまりにもリアルで生々しい。

    クラウス・バルビーは22歳でナチスの親衛隊に所属し、スパイ活動に従事する。

    1942年にフランスのリヨンに移った彼はゲシュタポの責任者となり、政治犯を始め多数の人への容赦ない追求から“リヨンの虐殺者”と呼ばれる。

    やがてドイツが第二次世界大戦に破れると彼は逃亡し、米国陸軍情報部の保護のもと、反共産運動専門の工作員として暗躍する。

  • 元ナチスの親衛隊員で、フランスはリヨンでレジスタンスやユダヤ人を殲滅したバルビー。ドイツ敗戦後、当然、戦犯として裁判にかけられると思いきや――。


    バルビーは、旧ソ連の脅威を深刻に受け止めていたアメリカによって、CIC(米陸軍警備部)のスパイとなり、その後、人体実験に関わっていたメンゲレ、ユダヤ人を強制収用所に送り込んだアイヒマンら元ナチ隊員たちとともに、南米に逃がされる。その理由は、バルビーらが握っている「旧ソ連の詳しい内部情報」を利用したいがため。そして、世界の左傾化を阻止するため。逃亡には、バチカンの右派勢力も関わっていた。


    アメリカが当時、共産勢力をよほど警戒し、ナーバスどころか、アレルギーあるいはヒステリー状態になっていたことに、ただただ唖然としてしまう。出演していた米元議員が、「アメリカは、アフガニスタンではイスラム原理主義者を利用した」と説明していたが、自国のポリシーとは相容れなさそうな元ナチ隊員やイスラム原理主義者といった勢力を、政治のために利用するアメリカの恐ろしい無邪気さに、ゾッとする。マキャベリ(目的のためには手段を選ばない)の実践だったのか。


    南米の政治闘争の血生ぐささや残虐さは、ラテンの熱情的な血ゆえなのか……とのんきに考えていたが、そこには、元ナチス隊員の指導も影響していたんだな……と、しんみりとしてしまった。政治的思惑によって南米に逃亡させられたとはいえ――彼の地で安穏と暮らすには飽き足らず、第四帝国設立を夢見て、次第に軍部に接近し、左派勢力を殲滅していったバルビーの野心と冷酷さに、ただただ呆然としてしまう。そんなバルビーは――よく第二次世界大戦の戦犯の人物評として語られることではあるけれど――家族には「やさしい父」と慕われているのだ。外では冷酷かつ残虐で、内では慈悲深い。バルビーに限らず、そう評されるかつての戦犯たちが気持ち悪くて仕方ない。


    ただ――バルビーは結局、フランスに逮捕され、戦争犯罪について裁判にかけられるのだが……その時、すでに1987年ですよ? 今からたった、21年前のことなのだ。もちろん、彼のやったことは許せない。だけど――当時はナチの一員として命令を遂行したまでだという弁護士の主張も、見逃せないほど重い。


    だから、今ごろになって彼を断罪したとしても、何か後味の悪さが残ってしまう。そこに、フランス自体、アメリカに同調して、それまで彼を逮捕できたタイミングを左派牽制のために見逃していたという事実を知ったせいもある。彼を戦犯として裁くなら、左派勢力が台頭していようがなんだろうが、彼がCICのスパイとして活躍していた頃にやっておくべきだったんじゃなかろうか。


    「歴史」は、時の権力によって作られるもの。そして時の権力は、政治によってもたらされるもの。バルビーは嫌いだが、彼を利用した権力に、背筋が寒くなる思いを抱いたのだった。

  • 2010年3月23日

    <Mon Meilleur Ennemi>

  • 2008.11.08.-11.28. シアターキノ 公開

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