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- / ISBN・EAN: 4523215054331
感想・レビュー・書評
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外来の精神科診療所「こらーる岡山」で、延べ30日間カメラを回し、10ヶ月かけて編集したという想田監督の「観察映画」第2弾。
「死にたい!」と漏らす女性(美咲さん)の登場で始まる。医師(山本昌知)は、話を聴き終わると、そばにあったティッシュの箱からティッシュペーパーを取り出す。女性に差し出すのかと思いきや、何と、自分の鼻をかみ、インターホンで次の患者を呼び出す。何と冷たい医師かと思ってしまうが、実は、この医師は、精神病院の閉鎖病棟から鍵を外す決断をした人である。患者に選択をさせることを主眼に置いて、その心に寄り添い、「病気ではなく、人間を観る人」。ここでは、医師が患者を診るだけではなく、スタッフも、さらには患者どうしも雑談し、お互いを支え合っている。
登場する人々は、誰ひとりとして、モザイクをかけられることもなく、実名で顔を見せる。しかも、赤裸々に、自分の体験を語る。我が子を虐待して死なせてしまった藤原さん。夫にも去られ、子どもも施設に預けざるをえなくなり、生き延びるために身体を売ったこともあるという美咲さん。医師にも語ったことのない体験を語るその表情からは、カメラを回している想田監督への信頼が伝わってくる。精神科医の齋藤環はパンフレットに寄せた文章の中で、撮影助手をしていた想田監督の妻は、患者たちとのやりとりに巻き込まれて精神の不調を訴えたことがあったという裏話を明かしている。「観察」映画は、観察する側も、精神の深い部分で関わることを余儀なくされるために、無傷では済まないようだ。
精神の病は、精神の交流によって癒やされるしかないらしい。ぶら下がっている落ち葉の映像が印象に残る。人は繋がっていないと生きていけないことのメタファーのように、私には思われた。今にも切れそうな細い蜘蛛の糸は精神?
DVDには、特典映像が付いている。出演者による座談会と、地元岡山市での初日の舞台挨拶における出演者の話は、泣けて、笑える。これを観ると、映画『精神』が2倍以上に楽しめ、さらに深く考えさせられることは間違いない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
正常と狂気の境目はどこにあるのか。とある精神病院というか施設というか、そこに出入りする人々をひたすら「観察」した映画。患者と思われる人たちは、よく考えている。
ある患者が、自分は何をするかわからないが、しでかした暁には責任はきっちりとるつもりだ、というふうなことを語っていたシーンに泣いてしまった。 -
岡村靖幸おすすめ。
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精神科業界とご縁ができて久しいので「うんうん、そうだよね。」という、ある種馴染みの映像であった。
当事者(考える患者)たちが作る本を読んで観るとまた見え方が違ってくると思う。
→ 『中井久夫と考える患者シリーズ』
https://goo.gl/l5VKYN
https://goo.gl/z71Tgf -
精神病の人も我々健常者とされる人間の欠点の延長線上にいるだけで、、と思える部分もあれば、脳に明らかに異常があると思える部分もある。
恐らく両方あるんだろうが、同じ人間でその弱い部分に共感はあったし、理解はできた。
ただ、優しいだけが世の中ではなく、精神病というレッテルの中に甘えるだけではいけないとも。たとえ、甘える場所が必要だとしても。 -
これも劇場で見た。見終えるのに体力をようする映画であった。
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正気と狂気の境目が何処なのかずっと分からない。
これを観て更に分からなくなった。
血が流れるのはマズイ。涙が流れるのはマズくない。 -
思ったより普通だった。
と思うのは、自分が福祉施設で働いているからなんでしょうね。 -
岡山の精神病院「こらーる岡山」に密着した想田和弘監督のドキュメンタリー映画。
診療室ににそのままカメラを入れるすごいつくり。しかし、よくよく見てみるとこの「こらーる岡山」は普通の精神科とは全然違う。民家を改造し、待合室でごろ寝して話してる患者達。患者の涙を拭くかと思ったら自分の鼻をかむマイペースおじいちゃん先生。作業所を併設し病院というよりは患者さん達の生活の場みたいになっている。
その病院の密着から見えてくるのは精神病ではなく精神の問題(?)を抱えたその人全体。もちろん壮絶な人生が語られたりなど色々あるのだが、とりあえず健康な私達と彼らを分けるものはそんなに大きくないと実感する。
インタビューや試写会でのコメントの様子など豊富な特典映像はその思いをさらに強くする。
精神科医療、福祉を考える上で必見のドキュメンタリー。 -
何にもナレーションが入らず、とにかく淡々と語られていくやり方は「選挙」と同じであるわけですが、しかし、冒頭で感じるのは「え? ここ、病院なの?」というストレートな驚き。なにしろ、まったくどこにでもある一軒家。しかもぼろぼろ。いわゆる個人病院のたたずまいではなく、大きな玄関があるわけでもない。普通の民家で、居間のような和室の部屋では患者さんがたばこを吸ったり、お茶を飲んだり、あるいは畳の上で横になって寝ていたりするそればかりか患者さんの一人が調剤係になって、お薬を袋詰めしている。いったい、どういう病院なんだ、ここは!w
しかも、場所がよく分からない。最初はのんびりした話し方なので、長崎かと思って見ていたのですが、ここが岡山なのだと分かるのもしばらく時間がかかります。
(この病院の「正体」は映画の中では分からない。DVDの特典映像で山本医師のインタビューで「なるほど」と納得できますのでぜひおすすめしたい)
もちろん、かといってお話はけっしてのんびりしたものではなく、そこに通っている患者さんたちには壮絶な過去があるし、現在の生活もけっして楽ではないし、未来などとても期待が持てるような状況ではない。
しかし、映画を見ているうちに気づくのは「精神病だからといって特別なことではない。病気で働けなくなることや入院して、未来に展望がなくなることは誰でも起きる話なのだ」ということです。
ただ、その一方で多少の救いを感じられるのは、この国の福祉制度が何とかまだ機能していること。小泉改革によって福祉予算がカットされたとはいえ、訪問ヘルパーさんや生活保護、健康保険などがあって、病気で働けなくてもとりあえずは生きていられるし、心配してくれる人がいる。特に後者の存在はとても重要なのだと気づかされます。
単に精神病への興味だけでなく、医療や福祉を考えるうえでのヒントになる作品としてお薦めしたいです。