猟奇歌 [Kindle]

著者 :
  • 2012年10月1日発売
3.71
  • (5)
  • (5)
  • (4)
  • (3)
  • (0)
本棚登録 : 73
感想 : 4
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (60ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 何故に
    草の芽生えは光りを慕ひ
    心の芽生えは闇を恋ふのか
    (↑ 一番好きな短歌)

    夢野久作という作家を端的に表現する二百五十首余りの短歌集。どの歌にも夢野氏の猟奇への愛執、社会の闇・叛逆のエッセンスを感じ取れます。塚本邦雄とか葛原妙子とはまた違う、ゴシックなセンスも光ります。思わずクスッとなってしまう作品から、薄ら寒い微笑みまで。これぞ夢Qなのだ‼


    《個人的短歌厳選》
    この夫人をくびり殺して
    捕はれてみたし
    と思ふ応接間かな

    わが胸に邪悪の森あり
    時折りに
    啄木鳥の来てたゝきやまずも

    かゝる時
    人を殺して酒飲みて女からかふ
    偉人をうらやむ

    春の夜の電柱に
    身を寄せて思ふ
    人を殺した人のまごゝろ

    殺しておいて瞼をそつと閉ぢて遣る
    そんな心恋し
    こがらしの音

    頭の中でピチンと何か割れた音
     イヒヽヽヽヽ
    ……と……俺が笑ふ声

    抱きしめる
     その瞬間にいつも思ふ
    あの泥沼の底の白骨

    白い蝶が線路を遠く横切つて
     汽車がゴーと過ぎて
    血まみれの恋が残る

    枕元の花に薬をそゝぎかけて
     ほゝゑむでねむる
    肺病の娘

    水の底で
     胎児は生きて動いてゐる
      母体は魚に喰はれてゐるのに

    唖の女が
     口から赤ん坊生んだゲナ
      その子の父の袖をとらへて

    自惚れの錯覚すなはち恋だから
     子供は要らない
      ザマア見やがれ

    色の白い美しい子を
     何となくイヂメて見たさに
      仲よしになる

    妖怪に似た生あたゝかい
    我が腹を撫でまはしてみる
    春の夜のつれ/″\

    埋められた死骸はつひに見付からず
    砂山をかし
    青空をかし

    海にもぐつて
    赤と緑の岩かげに吾が心臓の
    音をきいてゐる

    彼女の胸に
    此の短剣が刺さる時
    ふさはしい色に春の陽しづめ

    屠殺所に
    暗く音なく血が垂れる
    真昼のやうな満月の下

    わるいもの見たと思うて
    立ち帰る 彼女の室の
    挘られた蝶

    君の眼はあまりに可愛ゆし
    そんな眼の小鳥を
    思はず締めしことあり

    彼女を先づ心で殺してくれようと
    見つめておいて
    ソツト眼を閉ぢる

    蛇の群れを生ませたならば
    ………なぞ思ふ
    取りすましてゐる少女を見つゝ

    何故に
    草の芽生えは光りを慕ひ
    心の芽生えは闇を恋ふのか

    清浄の女が此世に
    あると云ふか……
    影の無い花が
    此世にあると云ふのか

    飛びだした猫の眼玉を
    押しこめど
    ドウしても這入らず
    喰ふのをやめる

    人間の屍体を見ると
    何がなしに
    女とフザケて笑つてみたい

    夕餉の焚火は燃え墜ちたが
    テントに
    誰も帰つて来ない
    黄昏――

    トラムプのハートを刺せば
    黒い血が……
    クラブ刺せば……
    赤い血が出る

    真夜中に
    枕元の壁を撫でまはし
    夢だとわかり
    又ソツと寝る

    インチキを承知の上で
    賭博打つ国際道徳を
    なつかしみ想ふ

    妻を納めた柩の中から
    マザ/\と俺の体臭が匂つて来る
    深夜……………………

    羽子板の羽二重の頬
    なつかしむ稚な心に
    針をさしてみる

    腸詰に長い髪毛が交つてゐた
    ジツト考へて
    喰つてしまつた

    古着屋に
    女の着物が並んでゐる
    売つた女の心が並んでゐる

    今日からは別人だぞと反り返る
    それが昨日の俺だつた
    馬鹿……………

    白塗りのトラツクが街をヒタ走る
    何処までも/\
    真赤になるまで

    これが女給
    こちらが女優の尻尾です
    チヨツト見分けがつかないでせう

    十七歳の少女の墓を発見して
    頭を撫でゝ
    お辞儀して遣る

    ラムネ瓶に
    蠅が迷うて死ぬやうに
    彼女は百貨店で万引をした

    自分自身の葬式の
    行列を思はする
    野の涯に咲くのいばらの花

    馬鹿にされる奴が一番出世する
    だから
    自殺する奴がエライのだ

    悟れば乞食
    も一つ悟れば泥棒か
    も一つ悟ればキチガヒかアハハ

    ずつと前殺した友へ
    根気よく年賀状を出す
    愚かなる吾

    病死した友の代りに返事した
    先生は知らずに
    出席簿を閉ぢた

    青空に突き刺さり/\
    血をたらす
    南仏蘭西の寺の尖塔

    大理石の伽藍の如き頭蓋骨が
    荘厳に微笑む
    南極の海

    冬空が絶壁の様に屹立してゐる
    そのコチラ側に
    罪悪が在る

    おしろいの夜の香よりも
    真黒なる夜の血の香を
    恋し初めしか

    郊外の野山は
    都会より残忍だ
    静かに美しく微笑してゐるから

    春風が
    先づ探偵を吹き送り
    アトから悠々と犯人を吹き送る

    涯てしなく並ぶ土管が
    人間の死骸を
    一つ喰べ度いと云ふ

    殺人狂が
    針の無い時計を持つてゐた
    殺すたんびにネヂをかけてゐた

    何もかも性に帰結するフロイドが
    天体鏡で
    女湯を覗く

  • 悲しいかな、ポエムはようわかん。読み漁っていた時期もあったけど。

  • 詩なのですが、どこか薄ら寒い。

    若い時などふっと悪い考えが頭をよぎるよなことがありましたが、そんな時に浮かんだ詩なのでしょうか。

  • 1927~1935年にかけて『探偵趣味』『猟奇』『ぷろふいる』の三誌に発表されたという、
    猟奇的なテーマを歌った夢Q流「短歌」集。
    表題は『猟奇』での連載開始後に用いられるようになったもので、
    編集部側の命名ではないか――と、ちくま文庫『夢野久作[3]』の解説にアリ。

全4件中 1 - 4件を表示

著者プロフィール

1889年福岡県に生まれ。1926年、雑誌『新青年』の懸賞小説に入選。九州を根拠に作品を発表する。「押絵の奇跡」が江戸川乱歩に激賞される。代表作「ドグラ・マグラ」「溢死体」「少女地獄」

「2018年 『あの極限の文学作品を美麗漫画で読む。―谷崎潤一郎『刺青』、夢野久作『溢死体』、太宰治『人間失格』』 で使われていた紹介文から引用しています。」

夢野久作の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×