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感想・レビュー・書評
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著者、押川春浪(おしかわしゅんろう)(本名:方存(まさあり))(1876-1914)は、日本に「冒険小説」、「SF小説」を確立した人物と言われる。その一方で、スポーツ全般、特に野球の振興に尽力した人物でもある。優秀ではあったが、バンカラ気質であった押川は、あるときは野球に没頭しすぎ、あるときは乱暴を働き、いくつかの学校を転々としている。
冒険小説を愛読していた春浪は、自らも小説を志し、在学中に書いたものが巌谷小波に絶賛されたこともある。
現在放送中の大河ドラマ「いだてん」に出てくるスポーツ社交団体、天狗倶楽部の代表者は押川である。ドラマでは三島弥彦がクローズアップされていて押川はいささか影が薄いが、天狗倶楽部は元々、彼を慕うさまざまなバックグラウンドの若者たちが集まって、わいわい野球を始めとするスポーツを楽しむ団体だった。押川は雑誌『冒険世界』の主筆を務めつつ、天狗倶楽部の活動も楽しんでいた。
後年、押川は、野球害悪論を唱える新渡戸稲造を相手に『冒険世界』上で論陣を張り、大騒ぎとなる。このため雑誌社上層部と対立し、辞任せざるを得なくなる。失意のうちに酒に溺れ、それが元で亡くなってしまう。享年38歳。
とにもかくにも激しく駆け抜けた人生であった。
本作は児童向けのちょっとした冒険譚。初出は『少年世界』(1907年1月号)。
ある大晦日、イギリスの海岸の別荘に住む伯爵家に、ロンドンにいる兄の侯爵から贈物が届く。由緒ある美しい黄金の腕輪だった。だが、伯爵家には3人の娘がいるのに、腕輪は1つ。さて、誰にあてたものだろうか。添えられた手紙には、「最も勇ましき振舞を為せし人」に与えるとあった。さて、誰が一番勇気があるか試すにはどうしたらよいか、父、伯爵は一計を案じる。
父の与えた試練に娘たちはどうする? 腕輪を手に入れるのはいったい誰だろうか?
流星のエピソード、暗い森の描写など、ちょっとぞくぞくする要素も盛り込みつつ、からりと明るい小品。舞台を英国として少し異国趣味を盛り込んでいるところも楽しい。
少年・少女は胸ときめかせながら読んだことだろう。詳細をみるコメント0件をすべて表示