この世界の片隅に コミック 全3巻完結セット (アクションコミックス)

著者 :
  • 双葉社
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感想・レビュー・書評

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  • 映画「この世界の片隅に」「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」の原作。
    第二次世界大戦に向けて変化していく生活。銃後で過ごす戦争の時代。
    目まぐるしく変わる時代を生きた人々の姿は、今の世の中にも通じるものを、感じさせてくれます。
    特に人と人との繋がりの愛しさを強く思わされました。
    やるせなくて、悲しくて、でも暖かくて、明るい物語。

    映画と合わせて読みたい作品です。

  • こうの史代のヒット作。

    戦時が舞台ではあるが、庶民の暮らしを丁寧に描き、戦争漫画としては異色の作品と言ってよいだろう。
    浦野すずは広島の子。いささかおっとりとした、絵を描くのが大好きな女の子である。
    怖い鬼ィちゃん(兄)と仲良しの妹と、家業の海苔作りを手伝いつつ暮らしている。
    ある時、すずは自身も気づかぬうちに見初められ、望まれて嫁に行く。相手の家は軍港・呉にあった。
    海軍で書記として働く夫の周作、工廠に務める義父、足の悪い義母の北條家。
    その一員となったすずは、慣れぬ土地で、戦時の不自由な生活を工夫しながら切り盛りしていく。やがて夫に死に別れて婚家を出てきた、やや性格のきつい義姉と、おとなしくかわいらしいその娘も加わる。
    代用食がまずかったり、貴重な砂糖を無駄にしてしまったりと、時に失敗がありつつも、口数は少ないが優しい夫の支えもあり、すずの呉での暮らしは順調に進むかにも見えたのだが。

    物語はすずの視点で綴られる。おっとりしたすずは時に、夢と現実の境目を漂うようでもあり、ファンタジックな挿話もある。漫画という手法を用いた表現の豊かなバリエーションにも驚かされる。
    戦時の暮らしは相当に史料の裏付けがあるようで、楠正成ゆかりの楠公飯、小国民カルタ、隣組、千人針といったディテールも読ませる。

    戦時の不自由はありつつも、何気ない日常を送る北條家だが、すずと周作のそれぞれの過去を巡り、ほんわかした夫婦の間にも波風が立つ。
    だが、さらに大きな悲劇がすずを襲う。軍港である呉は、数多くの空襲を受けた街でもあった。すずの妹は痛手を負った姉を見舞い、いっそ広島へ帰ってくるように勧める。その広島もまた大きな惨禍に見舞われる運命にあることをまだ誰も知らなかった。

    それぞれの想い、それぞれの悲劇を抱えながら、物語は呉の北條家で幕を閉じる。
    そこは、世界の片隅に、すずが見つけた「居場所」であったから。

    世は移り変わり、人は来たり、人は去る。
    すずの「居場所」も、私の「居場所」も、あなたの「居場所」も、時を経て、姿を変え、やがては消え去るときも来るだろう。
    それでも世界の片隅に、確かにそれは存在したのだ。

    戦争をこんな風にも描きうるという驚き。
    多くの人を捉えるに足る強さが、確かにこの作品の中にはある。

  • スクリーントーンなどは一切用いず、素描風に柔らかくまとめられた画調の中に戦時期の生活の情報などが挟み込まれていく。戦時を独特なタッチで語る、こういう描き方って、なかったような気がする。作家性がとてもよく出ているところだし、対象に対する誠実さも伝わってきた。
    でも、「はだしのゲン」が暴力性やグロい表現がたくさん出てくるから子供にみせるな、みたいな声が出る一方で、「この世界の片隅に」が戦時を知るマンガとして、アニメ化されたりドラマ化されているのをみると、それもなんだか違うような気がする。こうののマンガは口当たりが良すぎるのだ。作品の良し悪しというよりは、受け止める側の問題なんだけれど、それも込みで星三つ。

  • 映画がとてもよかったので読んでみました。
    何度も泣きそうになりました。
    辛くて悲しいけれど希望も持てる素晴らしい作品。

  • 映画を観たので本の方にもログ。

    こうの史代さんの原作は以前読んだ時から本当に素晴らしいと感じていた。なので、アニメになったらどう動かすのかなぁ、と楽しみにしていた。
    映画を観て、片渕須直監督はさすがだと感じた。『マイマイ新子』や『Blacklagoon』を観て、外さないだろうなとは思っていたけど、自分の予想なんてどうでも良いくらいに良かった。どちらかというと皮肉屋な自分が映画館で純粋にボロボロ涙を流すとは思わなかった。
    すずさんの暮らしの中には、多くの映画で語られる芝居じみた、戦争、広島、原爆が無い。戦争は大きな要素を占めた出来事ではあるけれど、けして全てではないのだ。そういう淡々とした悲しみ喜びが溢れる表現がとても愛おしい。

    映画の感想になってしまうが、いわゆるマンガ原作のアニメ化の悪影響がなく、相乗効果を出している幸せな作品だと感じる。能年玲奈こと、のんさんの演技も悪目立ちせず、なくてはならないピースとしてすずさんを浮き立たせている。
    戦争や広島を伝えていく新たな想像力を与え、長く親しまれていく作品の誕生にただ感謝したい。

  • 映画を見てから購入。
    読んでみると、映画とは少し違う箇所があった。
    優しいタッチが気に入ったので愛読書。

  • 映画を見て購入。絵の優しいタッチ、情景や心情が伝わってくる。映画とはまた違う、漫画でしか伝わらない部分もあり興味深く読むことができた。自分がまだ生まれていない時代に想いを馳せることができる、素晴らしい本だと思う。

  • 詳細は、こちらをご覧ください
    あとりえ「パ・そ・ぼ」の本棚とノート
     → http://pasobo2010.blog.fc2.com/blog-entry-1117.html
    実際には厳しい日常生活が のほほんとしたタッチで描かれています。
     面白い! 全巻読みました。しなやかに生きていく人々。
    そんな状況になったときに、私はどんなふうになってしまうのか?

  • 映画公開時に観に行って、とっても良かった…!と噛みしめた作品でしたが、割り引くクーポンをゲットしたのを機にようやく購入。

    リンちゃんとの関係がほぼカットされている、と見ていたけれど、まさかこんなに綺麗にカットされているとは驚き。
    そしてその関係こそ歯がゆさくて、もう少し突っ込んだところまで見てみたいなぁと思います。

    映画でもそうだったけど、原作もやっぱり子供が亡くなって、絵を描くのが好きなすずさんの利き手がなくなるというのは辛くて泣きます…

  • 言わずと知れた名作。ドラマや映画よりもやはり原作だと思う。ジワジワきます。随所に見られるコラム的なページにかかれた戦時下の細かい生活の記録と挿し絵がとても勉強になる。なにより笑えるし、大袈裟な泣かせもない。ただただ日常と、夢と、記憶と、希望が絶妙なバランスで織り混ざった良書。

  • 終戦時国民学校1年生だった父から借りて読む。

  • 夕凪の街を読んだら、これも読むしかないなと思って、購入しました。

    戦争関係の文章や映像では、玉音放送を聞くときの場面の違いを観察するのが一番いいと言われました。

    このお話では、どんな辛い場面でも、激しい感情を見せず、そのまま受け入れてきたすずが、この時は激しい怒りを見せます。

    ドラマやってますが、表現を見てみたいなと思いました。

  • 戦争というと、国民全体できりつめて殺伐とした生活を送っていたのかなというイメージを持っていたけど、この漫画では戦争中でも普通に泣いたり笑ったりという生活を送っていた。もちろん物資は不足しているんだけど。

    確かに、ずっと緊張した状態じゃ暮らしていけないもんな。
    戦争は軍部や兵隊だけのものじゃない。一般の人のものでもあるということを感じた。

    ドラマはとびとびにしか見ていないけど、改めて全部見てみたいと思う。

  • 映画を先に観た。
    娼婦の「りん」さんはどこへ行ったのだ。彼女はおそらく冒頭に出てきた座敷わらしの長じた姿であり、戦火のなかであったからこそ、周作の買った花柄の茶碗はすずによってりんに正しく受け渡されたのだ。
    本作は生き残った者だけでなく、死にゆく者たちをも等しく描いている。映画では被爆者を直接的に描いているが、原作ではそれをあまり直接には描かずりんさんに託している。それはすずの一部分でもある。こういう物語の成就という形もあるのだ。それだけに、たまたま周作に嫁ぎ、生き残ったすずという存在が、その偶然性によって祝福されるのだと思う。

  • 姉に勧められてまずは映画を観ました。ただ、映像だと早すぎて考えながら観ることがなかなかできず、結局、題名に込められた意味は何なのかを自分の中ではっきりさせることができませんでした。

    でも、この漫画を読んで、自分なりの答えを出せた気がします。むしろ、映画はここまで描いてないのでは、とも思いました。
    また、映画にはなかったストーリーもあり、深かったんだなーと読みながら考えさせられました。

    映画は映画の良さがありました。本も本の良さがありました。

  • 「この世界の片隅で」こうの史代。2007~2009に連載された漫画です。

    ぐっと来ました。素晴らしい。大好きです。



    読書会の課題図書。
    こうの史代さんは1968年広島出身。これまでも「夕凪の街 桜の国」というのも名作らしいという情報は知っていて、読んでみたいな、と思っていたところ渡りに船。



    戦前の広島・呉が舞台。
    いわゆる偉人ではなく、まったくの市井の一少女・すず、が主人公。
    海苔の養殖を営む両親の下に生まれ、父はやがて工場労働者に。
    なにかと妹をいじめる乱暴者の兄と、仲の良い妹。
    すずは、画を描くのが得意で大好きなだけで、これといった異能はない。大きな野心もなく、とってものほほんと過ごす。

    呑気な娘時代が終わり、縁談があって、呉鎮守府の軍法裁判所の書記の男性と結婚。呉の婚家に移住します。当たり前のように大家族。義理の両親に加えて、義姉が婚家と折り合いが悪く子供を連れて出戻ってきて同居。この義姉がなにかにつけて、不器用で呑気なすずにちくちく。

    なんだけど、話は全然暗くなりません。

    主婦であり嫁であるすずの日常。家事の細部を丁寧に描く。落ち込むことはあっても暗くはならない。
    この漫画の世界では、脇役たち、意地悪そうな義姉さえ、それなりの愛嬌もある。何より、寡黙で一見頼りなさげな旦那さんが、実はちゃあんとすずのことを大事にしている。惚れている。かわいらしい。
    (この旦那さんとすずさんは、プロローグ的な第1話で実は子供時代に出会っている、という伏線が効いていますね。この第1話はちょっとファンタジック。おとぎ話のような味わい)



    主人公すずの、なんともほわんとした持ち味。視野が狭く、遠くを気にしない楽天さ。こうのさんの絵のタッチにすごく合っている気がします。読み易い。

    そういう、サザエさんばりの「日常もの」かと思いきや。

    読み手の側は(僕は)初めから分かっているのですが、全て戦前戦中下の話です。すずが結婚したのが1944年。

    1944年の呉。主人公の実家は広島。です。
    15年戦争はずっーと前からやっていますが、庶民の日常まで圧倒的に破壊されたのはラスト2年間くらいだったそう。

    すずの日常にも、戦争がやってきます。

    #

    実家では兄が出征します。
    幼馴染も出征します。
    物資が乏しくなってきます。
    隣組。欲しがりません勝つまでは。
    空襲まではじまります。

    すずは、この漫画の人々は、
    「歴史の結果と評価を知っている後世の人の目線で見る」
    ということは決してしません。

    一日、一日、小さな喜怒哀楽と正面から向き合いながら、ある意味では流されて生きています。

    その描き方が、日常的な肌合いが、ナントモ言えず僕は好きでした。
    戦後生まれの作家さんですし、読み手の僕も戦後生まれなんだけれど、「ああ、こういう感じで戦争になって、それが悪いとかそういう物差しは当然無いままに、進行していくんだよなあ」と。
    人間の想像力(と取材力)ってすごいなあ、と思いました。



    もちろん、物語。フィクション、漫画ですから。

    淡々としているように見えてちゃんとドラマチックに感情が揺れていきます。

    やはり、「幼馴染が婚家に訪ねてきた事件」は、表面上の事件は何もないのに、水面下で強烈な緊張感がありました。

    そして、終戦に向けて辛いことが、次々に主人公とその一家に襲いかかって来る。そのくだりの表現が、これまた僕は大好きでした。

    悲惨過ぎない。

    起こっていることは、悲惨そのものなんですけれど、それを表現として、かわいそうでしょ?という側面を前に出してこない。

    だって、可哀想な状況に居ても、人によって、生きているのなら、毎日泣いて悲嘆しているだけでもないですものねえ。

    #

    そしてラスト。

    もう、素敵な物語だったので、「ああ、この人物たちが、希望を持って、笑って終われると良いなあ」とだけ思って読んでいました。(最近は、涙もろいですね。自分で思います...)

    そういうところも、ちゃんと救ってくれて。

    こうの史代さん、ありがとうございます、と思って閉じました。

    #

    ちなみに、思い出したのは、映画「TOMORROW/明日」(1988)。

    もうかれこれ20年近い昔の映画ですし、地味です。

    正直、かなりの日本映画ファンでないと存在すら知られていない映画なのかもしれませんが、名作、傑作です。

    井上光晴さんの原作(未読)、黒木和雄さん監督。

    桃井かおりさん、南果歩さん、佐野史郎さんほか、割と群像劇です。舞台は長崎、1945年夏。

    戦時中なので質素に、結婚式が営まれようとしている一家。
    出産を控えた姉。花嫁の次女。三女の恋人には召集令状が来た。
    ささやかな悩み、秘密、心配があって、それぞれの小さいドラマが全て、
    「まあ、明日だね」「明日だね」という話になっていく。
    現代でも、よくある日常的な風景。ただその「明日」というのは、8月9日でした。
    「明日」がやってきて。午前11時02分。
    長崎のあちこちにいた登場人物たちが、それぞれに、ふっと爆音に空を見上げると。

    そこで、エンドロールになる。そういう映画でした。

  • 戦中の普通の人々の物語。
    これこそ後の世に伝えたいコミック。
    かわいくて苦しくて切なくて愛おしくて勇気が出る。
    鬼イチャンのエピソードが大好きです。

  • 映画みて号泣して、原作を読んでみたくなり即日購入。本当に良い物語を知ることができた。映画もよいが、映画に出てこない人間関係が、物語にさらに深みを持たせている。

  • 終戦前後の広島、呉市に住むごく普通の女性「すず」

    気立てがよく働き者の彼女は嫁ぎ先の呉で日々を懸命に生きる。苦しい生活、悲しい別れなどたくさんの苦難。
    広島の原爆も悲惨な光景が描かれている訳ではないだけに、酷さ、悲しさが際立っている。

    戦時中の生活についてもよく調べられていて、庶民の戦中の生活がよくわかる

    未来への希望も感じさせられる作品。

  • 我々は戦時というのを異常で悲惨な暗黒時代のように思いがちだが、配給や焼夷弾や原爆や8月15日や悔しさや諦めとともに生きた普通の人々が確かに存在したのだな、と、この漫画を読んで実感しました。

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著者プロフィール

こうの史代:1995年デビュー。広島市生まれ。代表作は「さんさん録」や、文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞作「夕凪の街 桜の国」、アニメーション映画のヒットも記憶に新しい「この世界の片隅に」など。

「2022年 『ぴっぴら帳【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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