文豪の食彩 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 不思議な切り口での編集。6人の文豪の食をさぐっていく。
    毎朝新聞川中啓三は、食い道楽で、文豪と食を結びつける記事を企画し、書き始める。川中記者の好きなことをやらせる黒田デスク。二人の関係が実にいい。黒田デスクは、任せながら自分も楽しむ。
    6人の文豪が生きた時代(明治)の食や食堂を探り当てる。食がノスタルジック。その店に行きたくなるような描写が、ほのぼのとしていい。
    最初に、神田錦町の蕎麦屋、更科。「三つ葉と桜海老のかき揚げそば」を川中記者は食べる。美味しそうだ。
    夏目漱石(1867〜1916)
    坊ちゃんを読み込んで、マドンナを見かけたのは、作品中で2回だけ。マドンナはおそらく坊ちゃんを知らないのではないか。それよりも、坊ちゃんの惚れた女は、実家の下女の清(きよ)ではないかと推定する。坊ちゃんは、清に浅草、仲見世にある梅林堂の「紅梅焼」を子供の頃に買ってもらっていた。その梅林堂は店じまいしている。しかし、別の店が「紅梅焼」を出していて、それを食べながら夏目漱石の戦っていたものを明らかにする。マドンナは欧米風のニセモノ、清が日本の伝統を受け継ぐ本物だと推論する。なるほど、食べるものから、夏目漱石を組み立てる。夏目漱石は甘いものが好きだった。藤村の羊羹。「余はすべての菓子のうちでもっとも羊羹が好だ。あの肌合が滑らかに、緻密に、しかも半透明に光線を受ける具合は、どう見ても一個の美術品だ」(草枕)
    正岡子規(1867〜1902)
    「うつくしき 根岸の春や ささの雪」と詠む子規。笹雪は根岸にある豆富料理屋(食べるものに腐るという字を使うのは如何なものかといい、豆富とする)子規の『仰臥漫録』は、病気で寝たままの状態で書き綴った本であるが、子規が食ったものを克明に描いている。なぜそんなに綴ったか。「食えるとは生きている。生きているありがたみを綴っている」と川中記者は推理する。
    樋口一葉(1872〜1896)
    一葉の最後に住んだ丸山福山町(現在文京区西片)には、銘酒屋(銘酒を売るという看板をあげ、飲み屋を装いながら、ひそかに私娼を抱えて売春した店)と貧しい長屋が立ち並ぶ町。『にごりえ』の主人公お力は、娼婦だった。一葉は貧困に屈することなく「女がものを書くこと」の意味を問い続けた。お力は、「日の出屋のカステラ」を子供に買い与える。それは、風月堂の東京カステラか人形焼ではと推理する。それにしても、樋口一葉は24歳で短い生涯を閉じたのですね。貧乏な暮らしだった樋口一葉が、5000円札になっているのは不思議だ。
    永井荷風(1879〜1959)
    台東区浅草のアリゾナキッチンで、「チキンレバークレオール」か「ビーフシチュー」を定番のように食していた永井荷風。座る席はいつも決まっていたという。その頃70歳をすぎていたという。浅草のロック座などのストリップ劇場に入り浸り、ストリッパーたちを連れて一緒に食べたりした。なるほど、そういうのもいいなぁ。西浅草のどぜう飯田屋も行きつけの店。行ってみたい。
    芥川龍之介(1892〜1927)
    「僕の将来に対するただぼんやりした不安」という言葉を残し、35歳で服毒死。両国の「牛肉のほかにもイノシシやサルを食わせる豊田屋」が本の中に出てくる。芥川龍之介が食べたことが確認されるのが、亀戸にある船橋屋のくずもち。それは、子供の頃への哀愁だった。
    太宰治(1909〜1948)
    太宰は、こよなく津軽料理を愛した。そして、晩酌には、湯豆腐を肴にして食べた。三鷹の若松屋といううなぎ屋で、酒をよく飲んだ。太宰は「うまいと思って酒を飲んだことがない」と書いてある。つまり、酒が好きではなく、ただ酔いたかったのではないかと川中記者は推論する。
    ふーむ。食から見た文豪は、違った景色が見える。

  • 永井荷風が毎日同じ店の同じ席で同じメニューを食べていたという話は興味深い。
    その店を食べログで保存しておこうとしたら、近年閉店したばかりで、残念。チキンクレオール食べてみたかったな。

  • 文豪が何を食べたのか。実際に書かれたものから紐解いていく。正岡子規、夏目漱石、芥川龍之介などなど。「まだ喰えるってことは、生きているってことなんだ」正岡子規の食への執念は異常とも思えるが、案外、人としての純粋な欲望か。「取材の時はフォワードでも、読者に対しては謙虚に徹することだ」編集長もたまには編集長らしいことを言ってる。「同じ店の同じ席で黙って同じ料理を喰うのが良かったんじゃないでしょうか」すべての文豪がグルメとは思わないが永井荷風のこだわらないながらに、居心地の良い場所にこだわったであろう姿は好ましく思った。

  • 食は人間の素の部分を表す。
    文豪の人となりに近づく一冊。

    コミックである。
    文豪を題材にしたコミックはいろいろあるが
    この本は新聞記者が
    文豪が好きだった食を食べながら
    文豪の人間性に迫るというスタイルだ。

    食は人間の素の部分が出る。
    あるいは隠している部分が出る。
    それぞれの文豪の思いの一端に触れて
    食べ歩きに誘われる一冊だ。

    登場するのは
    夏目漱石、正岡子規、樋口一葉、
    永井荷風、芥川龍之介、太宰治。

    永井荷風の老いながらも
    若き日を思い出して
    死の前日にも食べていた“カツ丼”に
    心打たれた。

  • ちょっと想像と違ったけど面白かった。
    子規の「仰臥漫録」読みたい。
    青空文庫にあるだろーと探したらなかった。がびーん。

  • 思わず食べてみたくなるような、文豪御用達の店が紹介されている。行きたい。

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著者プロフィール

壬生 篤:作家・編集者。東京都出身、東京都立大学卒。雑誌編集者を経て、現在は江戸・東京の歴史案内・文芸評などを専門に、執筆、編集、劇画原作・シナリオなどを手掛ける。著書に『昭和の東京地図歩き』、『「鬼平」と江戸の町 作品の舞台を訪ねる』(共に廣済堂出版)、『TOWN MOOK 文豪・永井荷風 人生の旅路』『究極版 江戸古地図ガイド』(徳間書店)、コミックス『文豪の食彩』(原作)、『文豪の食彩ビジュアルBOOK』(日本文芸社)など。「文京区+早稲田 文豪ウィーク」を監修、フジテレビ主催「素敵なスマートライフ銀座校」にてセミナー「鬼平と江戸と食」講師を勤める。

「2016年 『池波正太郎を“江戸地図”で歩く』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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