ヴェニスの商人の資本論 (ちくま学芸文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 岩井克人はずいぶん前に「会社は誰のものか」を読んで、つまらなかったという印象しかないのだけど、これはすごく面白いじゃないですか。
    ヴェニスの商人を題材に、共同体内部の非貨幣的取引と共同体を超えたところに成立する貨幣的取引とを考察していく。シャイロックもアントニオーニもいち個人ではなくある特定の共同体の象徴として位置づけ、そのやりとりを貨幣的流通になぞらえる。純粋に文学的な考察でもなく、あるいは純粋に経済学的な分析でもないが、そうして立ち現れる貨幣という魔術、そしてその動的な働きは市場や法、共同体のあり方といったさまざまな事象に新たな視点、新たな補助線を提供してくれる。
    その一方で、これらの著作が書かれた時代背景を良くも悪くも表していて、ニューアカ的なお定まりのパターンにとどまっているということもまた事実。分析で全面的に依拠するのはマルクスであり、そのほかソシュールとかなんとかを引用することで、価値の転倒やら逆説やら流通やら表象やらを語るというというあれ。延々と言説の上に言説を重ねることで気がつけば話題の核心からどんどん遊離して、言説ための言説が際限なく再生産されていう。そういうものこそかっこ良かったのが80年代の空気だったのだろうが、その反動としての90年代、80年代90年代を逆手にとった言説ゲームとしてのゼロ年代を考えるなら、この岩井克人の作品も手放しでは賞賛できない。

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著者プロフィール

国際基督教大学客員教授、東京財団上席研究員
東京大学卒業、マサチューセッツ工科大学経済学博士(Ph.d.)。イェール大学経済学部助教授、プリンストン大学客員準教授、ペンシルバニア大学客員教授、東京大学経済学部教授など歴任。2007年4月紫綬褒章を受章。

「2021年 『経済学の宇宙』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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