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感想・レビュー・書評
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本書を手に取るような人にとっては、「アルゴリズム」というとまずはアルゴリズム取引が頭に浮かぶのかもしれないが、扱っている範囲は金融取引よりも広く、一般的である。
本書の冒頭を飾る章での、市場取引が徐々に「アルゴリズム」に引き取られていく様子は、トーマス・ピーターフィーという一人の特徴のある人物に焦点を当て、しっかりとした取材に基づいていて面白い。この辺りの米国のノンフィクションの伝統とも言える構成は、読み手にとってはとても好ましい。取材などにお金と時間がかかることはわかるが、日本でもこういった手法でどんどんとノンフィクションが書かれてほしいと思うところである。とにかくここでは詳しく書かないが、取材から得られた小ネタがたくさん詰まっていて面白い。現在、反主流派としてピータフィーが端緒を付けたアルゴリズム取引は太い流れとなり、現在では全米の60%を超えるものがアルゴリズムによってなされた取引になっているという。
金融取引だけではなく、本書ではアルゴリズムによる作曲、アルゴリズムによる人物評価、コールセンター業務効率化などが取り上げられる。
アルゴリズムによる作曲について、デイヴィッド・コープという人物に焦点を当てた語りは素晴らしい。
アルゴリズムによって作曲された曲に対する業界の拒否反応は、ブラインドコンテストでアルゴリズムによる作曲が優った結果が出た後でも根強いものがあったのは印象的である。
アルゴリズムによる人物評価、コールセンター業務におけるアルゴリズムによるマッチングや予測に関しても、それぞれテリー・マグワイアとテイヴィ・ケーラー、ケリー・コンウェイとヘッジス・ケイパーズの物語として描かれていて読み手の興味を誘う。
この本を読んで改めて、アルゴリズムが届く範囲は今の自分たちが想像するよりも広いのかもしれない。それは、シンギュラリティという言葉で想像されるような人工知能型ロボットではなく、それよりも見えない形で裏で動く実効的なアルゴリズムだ。
ベストセラーとなった『ホモ・デウス』が、結局生物とは「アルゴリズム」であり、生物である人間もまたアルゴリズムであると指摘する。そしてアルゴリズムに関していえば、いずれAIの方がうまく扱うことができるようになるのだから、将来はアルゴリズムに多くを委ねる方が優位に立つことになり、それが引いてはアルゴリズムが支配する世界になるといった未来像を描いていて話題だ。同書の書評などを読むと、どうやらアルゴリズムによる支配を否定的に取る人が多いようだが、『ホモ・デウス』の著者であるユヴァル・ノア・ハラリは必ずしもそのことに否定的ではない。少なくともニュートラルだ。いずれにせよ、すでに人間自身が不完全なりにもアルゴリズムによって動いているのである、というものだ。
そして本書の著者も、そのことに気が付いている。
「人間を模倣し、徐々に人間に取って代わっていくようなアルゴリズムを作り出せる能力が、これからの百年を支配するためのスキルだ」
本書は次の言葉で締めくくられる。
「プログラムを書ける人間にとって、未来の可能性は無限にある。複雑なアルゴリズムを理解し組み立てることができればなお良い - 世界を征服できる可能性がある。ただし、ボットが先にやっていなければの話だが」
問題は、日本の理系の学生やこれから理系の学部を選ぼうとする高校生がこう考えているかどうか、だろう。
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『ホモ・デウス(上) テクノロジーとサピエンスの未来』のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4309227368詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
すごく多くの事例を詳しく取材し、アルゴリズムの活用という観点でまとめた労作。ただ、元々の構想だったというとおりに、金融取引のアルゴリズム利用に絞った方が、焦点もくっきりして手に取りやすい本になったのではないかと思う。
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ちょっと行き過ぎている感がある。
少なくとも日本はこうなっていない(幸か不幸か。不幸だな) -
1章 ドミノの最初の1牌目、ウォールストリート
アルゴリズム取引
2章 人類とアルゴリズムの歴史
アルゴリズムは古くから存在していた。アルゴリズムに必要な数学要素 確率論、ブルー代数、プログラム言語の発明
3章 ボット トップ40
音楽の良しあし判定する
4章 ボットの秘密のハイウェイ
株取引を高速で行うためシカゴとニューヨークの間を直線で光ファイバーを使って接続する。
5章 システムをゲーム化しろ
チェスなどをコンピュータでやらせるアルゴリズム
6章 ドクター・ボットを呼べ
医者の代わりをするアルゴリズム
7章 人類をカテゴライズする
コールセンターのボット
8章 ウォールストリートVSシリコンバレー
クオンツの台頭
9章 ウォールストリートが損をすれば他のみんなが儲かる
10章 未来はアルゴリズムとそのクリエイターのもの
プログラムが書けるスキル -
金融業界でこれほど前からアルゴリズムを使っている人がいるとは知らなかった。またその他の分野でも、自分の思っている以上にアルゴリズムが使われていて、自分の認識不足を痛感させられた。
本書では金融業界を中心に、アルゴリズムの歴史をインタビューを用いて紐解いていっているため、知らないことも多く非常にためになった。 -
古代から存在はしたが、2000年代、ウォール街で金融商品の開発に活用されたことで一気に進歩したアルゴリズム。映画や音楽のヒット予測に限らない、今や私たちの生活のあらゆる場面に進出しているのだ――。
未来はAlgorithmから逃れられない―ボットに支配される社会で成功する道はどこにあるのか。 -
アルゴリズムが世界を支配する
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人工知能=アルゴリズムという印象。アルゴリズムの可能性を金融を中心にあらゆる分野に広がっている状況を解説。リーマンショックによって金融系からIT系に理数系SEがシリコンバレーに待機して転職したことが、アルゴリズムを一気に普及うさせた要因というのが面白い。
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5年前に出された原書の邦訳をKindleで読了。
今でこそ、人工知能だ、ディープラーニングだ、とこの領域が俄然騒がしい。その人工知能が作り出すアルゴリズムで物事を判断し、そして人間の一部代用として機能する(させる)ことを考えると、アルゴリズムの事例を多く引用しながら綿密に解説した本書が既に2012年に出されているという事実は、頭に留めておくべきと思い、冒頭で敢えて「5年前に」と書いた。
ウォール街の金融取引で、早くからこのアルゴリズムが暗躍(?)していたことはある程度認識していたが、その深層まで生々しく描いた第1章で、まず自分の認識の浅さを痛感すると同時に、本書を読む手が止められなくなった。邦訳のタイトルからは、近未来のことを書いているように思われるかもしれないが、ここに出てくるのは今まさに起きていることであり、既に過去に起きたこと。医療やコールセンターへの応用は、深度はともかく、想像の範囲内と言えるかもしれないが、映画批評や作曲への応用などはただ驚く、いや、おののくばかり。中でも、ビートルズの”A Hard Day’s Night”のイントロに潜む謎をアルゴリズムで解き明かす下りは圧巻としか言いようがない。
多くの変数を抱えた複雑なアナログ事象をビット化して、最終的には二者択一のデジタルなレベルにまで分解してアウトプットを出し続けてゆくアルゴリズム。アナログ的存在の典型である人間も、既にその対象だ。人間はどこまで分解されるのか。それは、デジタルなアルゴリズムを作り出す人間の、極めてアナログ的な欲望と(場合によっては執念とも言える)熱意次第。本書を手にしたことで、人間のアナログさを再認識してしまったのは思わぬ発見だった。 -
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