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感想・レビュー・書評
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○基本情報
読了期間︰2020年7月
著者など︰諸富徹
ジャンル︰金融系
ページ数、時間︰普通サイズ文庫本。
○感想
目的:インプット
税制の近代史、特にアメリカでどのように直接税が巨大化し、そして80年代以降にそれをあきらめなければならなかったという話は非常に興味深かった。
国際的徴税の枠組みが有名無実化していることが、富の再分配のための徴税機能を制約している。そのためには様々な代案があるだろうが、通貨取引などに課税することが現実的か、というのが筆者の見解。何にせよ、現実を認識し、超国家的な枠組みを制定していくべし。
それにしても税制というのは非常に興味深く、二重課税からの逃れや節税のスキームのために、多くの専門家が従事していて、各種の法律が設定されていることを鑑みると、ある種「仕事のための仕事」のようなものが非常に肥大化していることがわかる。
○引用・まとめ
〇イギリス近代税制の始まり
・スペイン戦争から始まる戦費確保のため必要だったものの、議会の承認は下りづらかった
国王家の限定的な収入では、国防のための軍事費を全く賄えなかった。国王領主に懇願する形で借りれていたものの、徐々に既成事実化。
・ホップズとロックの社会契約論と、社会システム維持のための費用としての税金
⇒国家が市民のための機能を果たせない場合、税を納める必要もないし革命によって覆されるべき
・消費税の導入⇒所得税の導入へ。所得を補足するための方法は、当初の外形的基準から、源泉徴収などのより実態に即した方法へ転換
〇ドイツでの税制の始まり
・ヘーゲルの考える国家の概念。国家は普遍的な自由を保障するための器であり、国家と市民は不可分(という無条件の前提を持つ考え)。格差の問題も予見
・のちシュタインなどの考えはこの延長でもあるが明確に異なる点もある。国家は資本主義の持つ本質的な問題を、国家権力を行使して修正していく必要がある。
⇒ワグナーはさらに踏み込んで、国家による社会政策の実行の必要性を強く説く。「民間経済」のみでなく、「共同経済」のための最善を図るため、国家の介入が必要
租税論としても、単に財源の確保だけでなく、格差など諸問題への対処法としての政策の一種であると位置づけた
・しかし世界において実際のこのような政策として税制が顕著に活用されたのは、ニューディール政策のころからである
〇アメリカでの税制の始まり
・アメリカでは、主に関税と一部の消費税がほぼ唯一の税源であったが、南北戦争のころに臨時の財源として所得税が発生した
⇒南北戦争の頃に消費税が増税されて既成事実化。一方で所得税は、1872年には廃止された
・農民の不満と所得税導入要求の高まり。関税や所得税は庶民の生活に与える影響が大きすぎる
また当時は特に、巨大企業により市場の寡占が顕著であった一方、所得税も法人税もなかった。19世紀末には裁判所に妨害されて断念
⇒ついに1909年にようやく直接税の導入に踏み切れたが、党派の妥協の末、少額の法人税のみ導入サレ、所得税は後回しに
・第一次世界大戦時のウイルソン大統領のころに、ついに所得税が導入。
戦時中のみであるが、きわめて高い割合の所得税累進課税率を設定
法人に対しても、投資資本に対する割合で一定基準を上回る利潤には、当時としては高い率を設定。資本を寝かせ、価格操作で暴利を貪る巨大企業は相対的に負担増
⇒このころに、直接税が圧倒的メインの財源ともなる。同時に、対カルテルやそれを望む民衆迎合のためにも、制作としての一面が強まる
〇ニューディール政策
・ミーンズの指摘。巨大企業によってもたらされる価格の硬直性が、需給バランスによる価格決定メカニズムをゆがめる。価格が高止まりすることで需要の減衰や、設備投資や労働需要の減少をもたらす
ケインズの指摘。社会が豊かになるにつれて、多くが貯蓄に振り向けられる。また、カルテル問題などを背景にアメリカでは完全雇用が実現されておらず、貧富の格差が激しい。
⇒税制改革などをとっていかなければ、需要減による負のサイクルを止められない
・民衆は明らかに富裕層への増税を求めていた。ルーズヴェルトはついに、財界との協調をあきらめ、反トラスト政策へ大きく舵を取った
個人所得税の大幅な上限アップ。法人税の累進化と増額、相続性の増額がもたらされた。富の再配分の手段としての税制であることを明確に打ち出す。
内部留保税の導入の試みた。しかし不況や財界からの大バッシングにより、断念
⇐カルテルによる価格硬直は、生産量の意図的な縮小や、投資控えによる内部留保の増大をもたらし、社会全体における資金の効率的な利用を妨げた
〇国境を越えた課税 ー EUの金融課税
・ニクソンショックと為替取引市場の複雑化・巨大化
・ケインズの「美人投票の論理」:「このような市場の大衆化を踏まえると、職業投資家にとっての最適な行動は、群集心理に影響を与える諸要因を分析し、他人を素早く出し抜いて設けることになってしまう。」
・ジェームズ・トービンが1974年に提唱した、通貨取引に課する税金。高流動性市場がもたらす外部不経済を抑制する(例えば通貨危機など)
⇒グローバルに徴収し、グローバルの諸問題(環境対策や国際機関)への税源に充てる
・EUでは、金融市場における投機的取引を抑制するための取引税を2012年ごろから議論中
⇐実際の売買代金や主体の推移、他証券市場と比較してどうか?
・国家主権をどの程度保持し、またどの程度放棄しながら国際協調を進めるかということは、特に企業活動や税制の観点では喫緊のテーマである
〇グローバルタックスの可能性
・先述した通り、所得税などの富裕層課税は民意を受けてどんどん上昇したが、1980年代から一気に下がっていった。法人税も同様
⇒金融市場のグローバル化、およびそれを可能にするインフラやタックスヘイブンの勃興、法人や富裕層のそうした意識の高まり、などが理由だろう
・グローバル化は各国の税徴収プール自体を縮小はさせていなかったけれども、金融資産などの高流動性資産への課税や、所得税や法人税の高率維持は出来なくなっている
・法人・所得税制には、居住地原則の考え方と源泉地原則の考え方があり、各国によってルールが異なる(日米は前者だが、フランスは後者)。居住地とは本拠所在地。
⇒なので租税条約が締結されていれば、二重課税を防ぐべく調整できる。項目ごとにどちらの国に徴税権があるか定められている
・現状、各々の国家が税収の最大化を図るために、個別の企業は事案に対して調査を入れることで脱税の指摘が入ることは多々あるが、超国家的な規範や、脱税のモニタリング機関は機能していないようだ。
・通貨取引など国境を跨ぎかつ拿捕しやすいサービスに対する課税が一つの現実的な案であると筆者は考える
〇税制改革の歴史を振り返り、現代における論点は大きく二つある
1.行き過ぎた過当競争経済を修正しつつ、資本主義が抱える諸問題を解決する手法として税制を用いるべきであり、そのあるべき姿を都度考えていかなければならない
2.経済のグローバル化が進行した時代において、一国のルールと法治領域の中では政策が完結しない現実を認識し、公平に課税するために各国が協調していく方法を考えていかなければならない詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ヘーゲルの法哲学から始まってドイツ財政学の三巨星の一人、ローレンツ・フォン・シュタインについての記述は最も興味深かった。カール・マルクスとほぼ同世代であり、同じくヘーゲルから深い影響を受け、かつフランスでの社会主義・共産主義思想との出合いによって衝撃を受けたところまでは、後進ドイツ知識人が辿った、ある意味で典型的な道行きだったとも思える。この本で初めて知ったことだが、シュタインは社会主義・共産主義をイデオロギー的に断罪することなく、「ドイツ人としては稀にみる高い水準」での理解を示し、ヘーゲルから継承した有機体的国家の役割として、「社会改良」を位置づけたとのことだ。
言うまでもなく、ローレンツ・フォン・シュタインは伊藤博文が直接教えを請い、その国家観は明治憲法として結実化された。目の当たりにした先進資本主義国の階級間格差・階級対立に対する、後進日本的解決として提示された大日本帝国憲法。表向きには「天皇主権」を謳い、実は権力の中枢では通説としての「天皇機関」説を秘めていた。
後にその秘密を読み破り、若き北一輝は『国体論および純正社会主義』を書いた。
本書の主題である財政学の根幹をなす税金からは、話が大いにそれてしまった。けれどもこんな妄想を決して手放すことなく、国家とは何かを考えながら、本書を読み進めていきたい。