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感想・レビュー・書評
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昭和24年に戦後初めて警察キャリアとして採用された松橋忠光さんの著書。警察内部の不正に嫌気がさして昭和50年に退職する(最後の8年は内調勤務)が、昭和59年に入庁同期から初めて警察庁長官が出る(それまでは内務キャリアが就任)のを機に、長官への手紙という形で出版。
警察の裏金作りとルーズな公金使用や恣意的な人事、戦後になったのに天皇の官吏という内務官僚の特権意識を受け継ぐキャリア(資格者と呼ばれている)のねじ曲がった意識などへの批判が中心。
それはそれで面白い。他方、昭和20年代から40年代の世情や人のありようが垣間見えるのが面白い。昭和20年代後半の秋田県警警務部長としての赴任時に、停車駅毎に警察署長と夫人を始めとする警察官が駅で頭を下げるシーンは、昔の内務官僚の特権的地位が具現化したグロテスクな光景として非常に面白い。60年安保闘争や三井三池事件は、三丁目の夕日に描写される牧歌的な時代とほぼ同時代だと思うが、現在では想像できない荒ぶる国民と警察の対峙、労使の凄まじい対立が描かれている。CIAとの関係やアメリカとの超えられない溝の描写、出向先の防衛庁における制服と背広の対立、90年代の大蔵不祥事が可愛く見えるくらいの公金の濫用。と数え上げるとキリがないが、筆者のビビッドな描写を通じてこうした世情をしることが出来たのも本書から得た大きな収穫であった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
【「国民が主権者である」--この絶対的事実をお考えいただく上でこの「手紙」がお役に立つことができれば、「罪人である私」が「一粒の麦」としての役割を果たし得たことになると信じております】(文中より引用)
警視監と言われるまで昇進を続けてきた人物が、悔悟の念とともに組織内の「不義」について記した1984年の作品。著者は、1948年に警視庁警部補としてキャリアをスタートした松橋忠光。
警察組織について書かれた本ではありますが、一組織人として日々を営む者にとっても非常に考えさせられる一冊でもありました。組織の論理の中で個をどのように保つことができるかに苦心した跡がつぶさに伺える内容です。
行間から滲み出る感情がすごい☆5つ