幼なじみは女の子になぁれ(1) (イブニングコミックス) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 妖精からの贈り物は、女心と空気を染めるには最適です。

    2024年1月現在『異世界で全裸勇者と呼ばないで』を連載中の漫画家「森下真央」先生の押しも押されぬ代表作、それが本作『幼なじみは女の子になぁれ(通称:おさなぁれ)』です。発表から十年が経過し、少しは古びているかと思いましたが改めて読み通してみるとそんなことはまったくありませんでした。

    タイトルからもお察しの通り「TSF(後天的性転換を題材としたフィクション)」に属する作品であり、コメディという枠に絞りさえすれば私が見知ってきた同ジャンルの作品群の中でも最上位に位置するでしょう。
    なんでしたら、TSFというジャンルに対して興味を持った方にオススメする入門編にもいいかもしれません。
    なお極力全体的な方向性について論を振りますが、少々ネタバレ成分も含みますのでご注意ください。

    ともあれ全三巻とコンパクトにまとまっていることもあって、手に取りやすいのも魅力かと。
    話の構造上、まだまだエピソードと巻数は積み重ねられそうでしたがやるべきことはやりつくしている印象です。舞台が高校生活ということもあって今はまだ変わらない日常を送っていくことを示唆しているものの、最後のエピソードでは作品のテーマを謳い上げた上できっちり締めくくってくれました。

    未来はどう転ぶかわからないとして想像の余地と余韻を持たせてくれたので、個人的な満足感も高かったですね。もっとシリアスな作品なら未来は確定させるべきだと思いますが、本作はあくまでコメディですから。

    そんな本作の導入は簡潔で、ノリが軽いメガネ男子「刑部秀一」が魔法の妖精「シルフィ」を助けます。
    ならばとシルフィは恩に報いるべく、秀一の願い「かわいい女の子の幼なじみ」を魔法で実現させるのです。すると、なぜかその役割が回ってきたのは元からいた男の幼なじみにして主人公「小山内伊織」なのでした。

    元が男な伊織がそんな話に「はいそうですか」と頷くわけもなく、魔法を意志力で跳ね返してしまいます。
    すると対するシルフィも妖精の掟と己のプライドに賭けて負けてられないと、隙あらば伊織のことを魔法で女の子にしようとするのでした……、というのが大まかな流れです。

    男女行ったり来たりのイタチごっこで、時折シルフィを追い回してのドタバタコメディ――。シナリオのコンセプトが極めて明瞭で、作品を支配するルールが直感的にわかるところも本作の魅力でもあるのでしょう。

    また、変身に付属して髪型の変更や着せ替えもできるので、個々のシチュエーションに合わせて伊織はコスプレさせられたりします。さっそく、この一巻からしてファッションショーを繰り広げてくれますからね。
    読者への配慮を欠かしていません。その辺などもエンターテイメントとして百点の対応だと思いますよ。

    ただし、本作がある程度人を選ぶ作風になっていることも事実です。
    巻き込まれる伊織が嫌がっているのも確かなのでその辺が受け付けない読者もいるでしょうね。
    いたいけな手乗りサイズの妖精のやることだからと笑って見過ごすか、それとも「んんんんー、許るさーん!!」とばかりにキレてしまうか、その辺は読者個人の裁量次第なので私には干渉できません。

    基本的には一巻の路線のまま最後まで突っ走るので一巻を読んでみて「あ、自分には合わないな、これ」と感じた方は心の中で「(妖精なんていない)」と思うだけ思って、本作のことは忘れてください。
    心の中だけなのは、ティンカー・ベルとその仲間たちへの配慮ということでどうかよろしく。

    もっとも、人の悪さはこの種の「TSF」ジャンルにとっては宿命なのかもしれません。
    毒抜きは必要ですが、一定の毒は持たないと無味乾燥な物語になりかねませんからね。難しいところです。
    私自身、元が男の子だからといってあんまりやり過ぎたらマズいんじゃない? 下手したら「セクハラだよね、それ」って私の中の冷静な部分が警鐘を鳴らすのでこの辺は課題として持っておきたいところです。

    まぁ、そんな伊織は嫌がりつつも女の子な自分を受け入れる部分や瞬間もあるわけで。
    それと伊織が現実に女の子になってしまったらで発生する、現実的でシリアスな部分を茶化さずしっかり描いていたりもしますので、不思議とバランスは取れているのではないでしょうか。
    結果、意地を張る伊織と、魔法を成就させたいシルフィとの知恵比べを微笑みながら追っていけます。

    あと、作品の立役者であるシルフィがほどほどの範囲で邪険にされることが多かったりするのも重要です。
    妖精に善悪はなく、読者を楽しませてくれるのは事実としても分別を付けないといけないのも確かなので。
    マスコット枠だからって何をしても許されるわけじゃないってのは、それこそ真理ですからね。

    伊織が周りの空気に流されたり、自分の可愛さに魅了されるなりして、なし崩し的にでも自分が女の子であることを認めたら魔法は解けなくなるという、シルフィの勝利条件がストーリーと合致しているのもグッド。
    実際、女性化した伊織のデザインは実にかわいらしく描かれていますし女性らしさもきっちり要所で主張するスタイルなのでこれは揺らぐのもわかるな……ってぐっと来てます。元の面影を残しているのもグレート。

    また、シルフィは気を張っている伊織の隙を見つけては魔法をかけるスタンスです。
    必然女の子が無防備な姿になっているシーンを繰り返し、テンポよく見せてもらえるのもフェチ心をくすぐるポイントであったりも。いやはや、この前提設定ってピンチを演出する上でもよくできてますね。

    以上。
    インディーズ時代から「森下真央」先生の作品を追ってきていたレビュアーたる私ですが、連載開始早々に絵柄を完成させたあたり元からの地力の高さを証明した感があります。
    くわえて男心をくすぐる仕草がてんこ盛りで、ジャンルへの理解の深さを裏付けてますね。女体にメリハリは付いているのに、要所のデフォルメで生臭さを消しているところは万人向け要素として見逃せないところ。

    さてここで余談です。気に入ったサブキャラを紹介しておくと。
    主人公のクラスの副担任の「すみれ先生」がなんか好きです。
    そもそもお肌の曲がり角が気になるからって「教師が生徒をライバル視するんじゃない!」という当たり前すぎるツッコミが常に付きまとう人なわけですが、大人げない一方で、大人の魅力を共存させています。

    よくいる、とうが立ったタイプかと思いきや貶められるキャラに陥っておらず、ふたを開けてみれば可愛らしい印象を受ける。そんなところがこの作品、延いては森下先生の作風を象徴しているようでなんか好きです。
    伊織とすみれ先生の関係は口では説明しづらくてとてもいいですよ。一読すれば簡単にわかるんですけどね。

    と。作品について語るべきところは一巻分のレビューでは語り尽くせる気はしませんでした。
    ああそうそう、本作がTSFである以上は鏡を見て現状を認識したり、男女の身体能力の差が男の子として意地を張る女の子を演出したり、前述した通りに充実したコスプレなどお約束を踏まえてはいます。

    いるのですが……、この場合はもっと物語の構造として重要なことが本作から読み取れそうなのですね。
    そちらについては続刊に回すということでよろしくお願いします。では、もし機会がありましたら二巻で!

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著者プロフィール

7月9日生まれ。千葉県出身。2013年、講談社イブニング誌上にて「幼なじみは女の子になぁれ」で連載デビュー。その後BookLive NINOにて「ただし俺はヒロインとして」を連載。得意ジャンルはコミカルなTSF(性転換モノ)。好物はクリームソーダ。趣味はYouTube配信。

「2022年 『異世界で全裸勇者と呼ばないで(1)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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