人間がなぜ二足歩行になったかという根本的な問いを手と歯の形から解き明かしていくという本。異論もあるような気もするが、論理的に筋道建てられた仮説は非常に説得力を持っている。サルの仲間の手と歯の構造が主食とその取り方と関係しているという仮説をもとに、人間の手と歯の構造から原始人類の主食を推定。同じ地域内で同一の主食を持つ複数の動物は存在できないという事実(これをニッチと呼ぶ)をフィールドワークから導き出し、それを適用することにより原始人類が主食としてたのは骨であると推定し、骨を食べるのに適した手と歯の構造に人類は進化した。その証拠として、人間の親指が他のサルと比較しても不釣り合いな太さであり、かつ他の指と対向しているということを挙げる。これは骨を砕くために大きめの石をがっちりと掴むための構造である。また、歯は非常に硬いエナメル質で覆われており、かつ犬歯も含めて全ての歯が平坦でものを裂いたり葉をそいだりするようになっていないのは、骨を口内ですり潰すのに適している。このような推論により骨を主食と考えると、アフリカにおいて原始人類が他の肉食動物と主食を取り合う必要がなく共存することが可能となる。また、拾った骨と砕くための石を持ち歩くためには両手が自由である必要があり、結果的に二足歩行になった。しかしながら二足歩行は移動速度という点においては四足歩行よりはるかに遅く不利であるが、骨採集者(Bone hunting)は外敵があまり活動をしない昼間に堂々と骨を集めればよく、その不利を埋め合わせることができる。このような論理展開で人間が二足歩行になった原因を推論する。とても興味深い本であり、20年近く前にこのような説があるとは知らなかった。