巨龍の苦闘 中国、GDP世界一位の幻想 (角川新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 中国の今後についての著者の見解が書いてある。


    中国は飛ぶ鳥を落とす勢いで成長したが、今後はうまく着地しないといけないよ。あまり中国を過大評価せず、過小評価せず、数字だけによらず、現実目線で対処しないといけないよ。まとめるとそんな感じか。


    個人的には、中国に将来性とかはあまり感じないが、実際の影響力は無視できないので、うまく立ち回りたいという感じ。


    中国に対する論調は右か左かどちらかによりすぎのものが多いが、これは非常に普通の論調になっている。習近平がどういう意図で政治的発言をするのかについて、少し興味を持ってきけるようになるかなw

  • 中国経済はかなり悪いがまだまだしぶとくすぐに崩壊することはない。個人的な感覚とかなり近い解説だった。

    例えば中国の不動産投資は明らかに過剰でバブルと言って良いだろう。上海の一等地は東京より高く平均賃金からすると明らかに高すぎる。しかし、すぐに中国バブル崩壊と行かないのは土地の供給元が地方政府だから。塩漬けになり地方政府のバランスシートは毀損するが供給量が絞られその代わりに調整は長期化する。

    リーマンショック後の4兆元の公共投資と同時に銀行には金融緩和の指令が下り2009年の銀行貸出残高は前年比30%、その後4年で倍増した。これが現在の過剰設備の元になっており収益性が低下し原本の返済に回らず、借り換えを繰り返すうちに銀行貸出残高の中身は真水の投資では無くなっていく。銀行も過剰設備業種や不動産への投資を絞り、投資と資金需要の収縮により金利が低下するデレバレッジが進んでいる。政策金利はそれを追って下げているのだろう。

    過去の中国のGDPデフレーターを用いて実質金利を計算すると預金は-5-8%、貸し出しも-1-3%と何もマイナスで、つまり家計は富を剥奪され、企業にプレゼントされこの結果GDPに占める消費の比率が低く抑えられてきた。そして本来儲からないはずの企業投資が続けられていた。ただし直近ではこのギャップは解消されてきている。

    「十三五」第13次5ヶ年計画では成長率を6.5%に置く見込みだという。2000年代の中国の経済成長は資本投入に加え1億人以上の農民工が加わる労働投入に、インフラ整備や外国からの技術導入による全要素生産性も向上した。それが2013年にはほぼ資本投入の寄与だけになっている。

    中国のGDPは当てにならないと言われるのは他の指標と整合性が取れないからだ。著者の分析で電力消費量、関節税収および国有企業売上高の伸びとGDPとを比較したところその割合である弾性値は2013年には1を超えていたのが2014年には大きく低下した。これを逆に弾性値が1近辺になるように補正したところ3Q以降のGDPは3.3%となった。国家統計局の発表では不動産投資と相関の高いセメントの伸びが2.4%、鋼材が4%で有り消費は堅調とは言えこの数字の方が実感に近い。

    この本の主張する内容ではこのような経済状態に危機感を持った習近平政権は経済開放よりに軸足を移している。ただその際左派や国民に対してケアをする必要があるということだ。国民に対しては反腐敗闘争を徹底することで、これは必ずしも権力闘争だけが目的ではない。例えば司法体制改革では地方法院や検察院の予算と人事権を市から上級の省に移し、地方政府がこれまでのようなやりたい放題はやりにくくした。

    もう一つは対外的な強硬姿勢で国民特にすぐに暴れる農民工のガス抜きの意味合いもあるのだろうがそれ以上に左派への補償の意味合いがある。尖閣諸島に対しても紛争が存在することを認めれば実力行使は控えるというのが見立てだ。習近平としては内政に集中したいが、大国意識を持ってしまった国民は、外国特に日本に対する弱腰を許さない。9/3の軍事パレードを大々的にやりながら、8/14の安倍談話には反応しなかったり、日中間首脳会談の後北京、東京と続けて経済交流を進めようとしてる辺り平仄は会う。

    結局日本同様経済を立て直すにはイノベーションしかないのだが、中国のe-コマースの発展ぶりは日本よりも速度が速く日本とは違う発展を目指すのだろう。ただし著者の予測ではピンチが去ると左への揺り戻しが来る。それは、習近平の権力にほころびが出たときなのかそれとも経済大国として自信を持ったときなのか。

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著者プロフィール

日本国際問題研究所客員研究員、現代中国研究家
1958年生まれ。1980年、東京大学法学部卒業、通商産業省入省。通商政策局公正貿易推進室長、在中国日本大使館 経済部参事官、通商政策局北東アジア課長を歴任。2002年、経済産業研究所上席研究員。東亜キャピタル取締役社長を経て、2012年より津上工作室代表。2018年より現職。

「2022年 『米中対立の先に待つもの』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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