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感想・レビュー・書評
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『#ふしぎな君が代』
ほぼ日書評 Day581
タイトル通り、不思議な『君が代』に関する本である。著者は1984年生まれ、まさに国旗国歌法制化の中、思春期を過ごした世代であり、イデオロギーに感化された当時のクラス担任を、極めて冷めた目で見ていたという回想シーンが後半に紹介される。
そうした目線を持つ著者が、右でも左でもなく、元々は"読み人知らず"の古歌であったものが、明治以降から、大東亜戦争時代、そして戦後、平成、令和と、様々な障害や紆余曲折を乗り越えつつ、本書中では消極的な賛成という表現が用いられるが、我が国の「国歌」としての地位を確立してきたかを、新書版としては類を見ない量の参考資料にあたりつつ、極めて科学的に分析した一冊だ。
盛り上がる中盤以降のネタバレは避け、前半の「へー!」ネタをいくつか拾っておこう。
日本における国歌の扱い。そもそもが、明治になり、諸外国には「国歌」なるものがある…ということで、急遽、かなりやっつけ仕事で作られたのが、バージョン違いの『君が代』。
歌詞自体は、古くから人口に膾炙した古歌で、時代が降ると、「君」(明治以前は将軍)を讃えるためにも用いられた古歌であった。
ただ、よく知られたと言いつつも、古い歌であるため、写本により微妙に表現が異なるものもあり、現在に伝わる歌詞は、必ずしもメジャーなものではなかったらしい。
初版とされるメロディは、お抱え外国人の手になるもので、文節の切れ目などを全く無視した、現代に伝わるものとは著しく異なるものだった。
これを現代に伝わる形に収斂させたのが海軍が式典などで演奏したバージョンだが、さらにその曲が「国家」として広く定着するには長い道のりがあった。
最大の障害は、お役所の派閥争いである。(戦前のことであるから)海軍に対抗する陸軍や、学童を人質に取った形の文部省等が、独自の国家、あるいは別バージョンの君が代を創作・定着させることを試みたのだという。
当時は日清日露戦争に勝利し、富国強兵を強く推し進めていた時代、勇ましさや躍動感といった要素をモリモリに盛り込もうとした結果、シンプル・イズ・ザ・ベストの『君が代』に叶うことはなかった。
そして、ひとつの『君が代』のピークが、紀元2600年の式典、皇居前で5万とも言われる人たちが国歌を斉唱する様は、えも言われぬものがある(Youtubeで"日本ニュース第23号"と検索すると、当時のニュース映像が見られる。国歌斉唱は4'30"あたりから)。
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我々、日本人は国歌である「君が代」のことについて無知と言っていいかもしれない。左派対右派の論争になることはある。しかし、個人的には、そのような論争も冷めた目で見てしまっている。要は、「君が代」の何が問題なのかわからないのだ。
「君が代」は千年前の古歌を起源とした32文字の世界最短の国歌。当然、「君が代」そのものにはイデオロギーもナショナリズムもない。でも大阪市の条例に見るように忘れた頃、問題になる。
本書は、そんな「君が代」について、歌詞の意味、国歌としての選択、変遷に関する疑問を種明かしすることにより、何となくスッキリしない「君が代」の問題点を整理してくれる。
扱っている題材は堅苦しいが、面白い本。「君が代」が、急場しのぎで選ばれた国歌であること、国歌コンクールの顛末、「君が代」の対抗歌など面白いエピソードも多い。また、資料も豊富。
著者の辻田真佐憲さんは、娯楽と政治の関係を研究する若い学者さん。本書では、「君が代」を数々の困難を乗り越えた文化的遺産と断定する。本書を読むと素直に納得できる。
気楽に読める学術書としてお勧めの★4つ。