人体六〇〇万年史 下──科学が明かす進化・健康・疾病 (早川書房) [Kindle]

  • 早川書房
4.26
  • (13)
  • (8)
  • (6)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 133
感想 : 8
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍 (374ページ)

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 雑学的には上巻の方がいいが、役に立つのは下巻。こちらは現代病についての解説がひたすら続き、読んでいて気が滅入る。だからと言って見なかったことにするわけにはいかない。

  • 面白く読んだ。現在、食塩不使用のナッツを摘まみながらこれを書いているが、結論から、「今後、自分の生き方は自分で考えなければならない」という話なのだろう。結論で、もう少し具体的な内容が書き込まれているかと期待していたがそうではなかった。訳者のあとがきにもあったが、「フルーツジュースはジャンクフードである。」というのは知らなかった。自分も「ミスマッチ病」の一つを患っているので、生活を変えていきたい。

    〇農業は古くさい生活様式だと思われがちだが、進化論的な観点から言えば、これは比較的最近の、独特で、どちらかというと奇妙な生活様式である。
    〇農業は、氷河期が終わってからわずか数千年のうちに、アジアからアンデス山脈までの複数のところで、それぞれ独自に興っている。
    〇そもそも採取から植物の栽培を始めたのは食物を増やすためで、それは大家族に食料を供給するための補助的な行為だった。しかし食わせなければならない子供がますます増えるうえに、環境条件が優しくなったこともあいまって、しだいに植物を育てることの費用に対する便益の割合が高まっていく。
    〇農業はいくぶん違った経緯で、少なくとも七回は別々の場所で起こった。南西アジア、中国、メソアメリカ、アンデス山脈、合衆国南東部、サハラ以南のアフリカ、およびニューギニア高地である。最も研究が進んでいる農業革新の中心地は、南西アジアだ。
    〇初期の農民の人口成長率は狩猟採集民の二倍にはなる。
    〇なぜ農業はこんなにも急速に、こんなにも徹底的に広まったのだろう。最大の理由は、農民が狩猟採集民よりも速いペースでつぎつぎと子供を産めたことである。農業の広まりを促進するもう一つの要因は、農業が付近の生態を変えてしまうことだ。その変化によって、もう狩猟採集ができなくなるとまではいかなくとも、やりにくくはなるのである。
    〇農業の先駆者たちの生活はもちろん楽ではなかったが、骨の折れる単調な仕事を絶え間なく続ける、泥にまみれた悲惨な農民という一般的なイメージは、おそらく初期新石器時代の農民よりも、もっとあとの封建時代の小作農に当てはめられるものだ。
    〇農産物による食生活はミスマッチ病の引き金ともなりうる。最大の問題の一つは、栄養の多様性と質が損なわれることだ。
    〇主食作物の大きな欠点の一つは、狩猟採集民やほかの霊長類が摂取する野生の植物の大半に比べ、たいていビタミンとミネラルが圧倒的に少ないことだ。
    〇農民は、狩猟採集民と違って、ある種の病気にかかりやすい。たとえば 壊血病(ビタミンCの不足による)、ペラグラ(ビタミンの不足による)、 脚気(ビタミンの不足による)、甲状腺腫(ヨウ素の不足による)、貧血(鉄分の不足による)といった病気である。
    〇農民は狩猟採集民よりずっと多くのカロリーを得ることができるが、その反面、旱魃や洪水や植物を枯らす疫病や戦争など、作物を根こそぎ、ときには瞬時にして壊滅させる定期的な災厄にずっと弱いのである。
    〇農民の食生活が原因で生じうる、また別の種類のミスマッチ病は、栄養不良だ。コメやコムギなどの穀物を栄養豊富で健康的なスタミナ食にしている分子の多くは、種子の中心部分の大半をなす澱粉質ではなく、その外側を覆っている 糠(ふすま)や胚芽に含まれた油脂やビタミンやミネラルである。残念ながら、これらの栄養豊富な部分は劣化も早い。
    〇食物繊維は食物と排泄物が腸を通過していくペースを速めるとともに、消化と吸収のペースを遅くするうえできわめて重要な働きもする。
    〇抗生物質と近代歯科医療が発明される前の虫歯は、決して些細な問題ではなかった。歯冠の奥の象牙質まで達した虫歯は、身もだえするような痛みをもたらすだけでなく、場合によっては命にもかかわるような深刻な感染症を引き起こし、顎から頭部全体に転移することもあるのだ。
    〇狩猟や採集の仕事も楽ではないが、サン族やハッザ族のような非農業集団の労働時間は、総じて一日あたり5時間から6時間だ。
    〇身体活動レベルとは、ある人が摂氏25度の快適な気温のもとで一日中眠っているのに必要となるエネルギー量に対して、どれだけのエネルギー量を消費するかの割合ということになる。あなたがオフィスで座業をしている人なら、あなたの身体活動レベルはおよそ1.6といったところだが、もしあなたが病院のベッドで一日中安静にしている人なら、身体活動レベルはおよそ1.2に下がり、逆に、もしあなたがマラソンの大会やツール・ド・フランスに出るためにトレーニングをしているところだったら、あなたの身体活動レベルは2.5ぐらいか、それ以上に上がる。そしてさまざまな調査の結果から、アフリカ、アジア、南米の自給自足農民の身体活動レベルの数値は、男性平均2.1、女性平均1.9全体の幅は1.6から2.4)となっており、一方、ほとんどの狩猟採集民の身体活動レベルは男性平均1.9、女性平均1.8(全体の幅は1.6から2.2)だから、農民の身体活動レベルは狩猟採集民よりほんの少し高いだけ、ということになる。
    〇一つの前提条件として、疫病が広まるには大集団がなくてはならないが、それは農業以前にはありえないことだった。疫病のもう一つの前提条件は、人口密度の高い永住集落である。村や町は、多数の潜在的な宿主たちが密接に寄り集まっているために、感染症が栄えるのに理想的な場所となっている。感染症を広めてくれるもう一つのありがたい要素は、通商である。農民は生産物の余剰を持つため、定期的に品物を交換する。そしてその際に、微生物も交換するため、病原菌の微生物がある共同体から別の共同体へと一足飛びに移動できるのだ。
    〇農業は文明を可能にした。農業経済に移行した当初、人々はその切り替えからなにがしかの恩恵を受けたが、以後、この新しい生活様式は多くのミスマッチ病や、その他さまざまな問題を生み出しもした。
    〇過去数百世代のあいだに世界中のさまざまな集団内で生じた新しい遺伝的変異が100万以上も同定されてきた。しかし恐ろしいことに、こんなにも存在する最近の突然変異の多くは、じつは有害なものなのである。
    〇文化的革新の多くは、農業が潜在的に持っている危険と欠点から農民を切り離したり、さらに踏み込んで保護したりする文化的緩衝材としての役目を果たしてきたのであり、もしこの緩衝材がなかったら、現在わかっているよりもはるかに強い自然選択が働いていたことだろう。
    〇過去数百万年のあいだに人類の生活には多くの深遠な変化があったが、それらのペースと比較にならないほど急激にたくさんの変化が起こったのは、この250年のことである。
    〇今日の人間は、2型糖尿病、心臓病、 骨粗鬆症、結腸がんなど、農業時代の大半を含めて過去の人類の進化史にはほとんど、あるいはまったく存在しなかった新しい種類のミスマッチ病にかかる確率が格段に高まっているのだ。
    〇産業革命とは、人類が化石燃料を使って動力を生み出し、その動力によって機械に大量の物質の製造や輸送をさせるようになりはじめた、経済上、技術上の一大変革であった。
    〇いろいろなことが変えられた。家族や共同体の構造も、社会の統治も、子供の教育も、娯楽の種類も、情報の取得も、睡眠や排便といった生体機能の働きもだ。
    〇この革命のおおもとには三つの根本的な変化がある。その第一は、製造をそもそもの目的として、産業革命の先駆者たちが新しいエネルギー源を利用したことだ。産業革命を支えた第二の大きな変化は、経済と社会機構が再編成されたことだった。産業化が勢いづくとともに、個人にモノやサービスの生産による利益競争をさせる資本主義が世界の支配的な経済システムとなり、それがさらなる産業化の発達と社会的変化に拍車をかけた。最後の要素として、産業革命とちょうど同じころ、それまでは哲学の一部門とされ、楽しいものではあるが絶対に必要というわけでもなかった科学が、人に収入をもたらせる刺激的な職業に変貌した。
    〇産業革命というのは実際のところ、技術的、経済的、科学的、社会的な変革の総体であって、それが歴史の流れを急速かつ根本的に変え、わずか10世代もしないうちに、すなわち進化的な時間尺度で言えば、それこそ瞬きするあいだに全世界の様相を変えてしまったのだ。
    〇産業革命によって、人々が何を食べ、どのようにものを噛み、どのように働き、どのように歩いたり走ったりするかだけでなく、どのように体温を調節し、出産し、病気になり、成熟し、繁殖し、老いていくかも、どのように社会に適合するかも変わった。
    黄色のハイライト | 位置: 883
    平均的な狩猟採集民は毎日九キロメートルから一五キロメートル歩いていた
    〇全体的なエネルギー支出を測る単純な指標は、身体活動レベル(PAL)である。これは一日あたりに消費するエネルギーと、一日中ベッドに横たわって何もしないでいる場合の消費エネルギーとの比率だ。
    〇食の産業革命によってもたらされた最大の変化は、食品生産者(これはもはや農民とは呼べない)が、何百万年ものあいだずっと人々が欲してきたもの──すなわち脂肪、澱粉、糖、塩を、できるだけ安上がりに、できるだけ効率的に、栽培したり製造したりするすべを見つけたことである。
    〇人間は何百万年もの昔から、おそらくほかの何よりも肉を欲してきたから(例外があるとすれば蜂蜜ぐらいか)、牛、豚、鶏、七面鳥などの肉を、安く豊富に生産することには強いインセンティブがある。
    〇初期の農民は総じて狩猟採集民よりも肉を食べることが少なかった。なぜなら殺して肉を得ることよりも、生かしておいて乳を得ることにこそ動物の価値はあるのだし、家畜を飼うには広い土地とたくさんの手間が必要になる。
    〇ウシなどの種は、穀物よりも草を食べるように消化器系ができている。結果として、動物たちの慢性的な下痢を抑えて死なせないようにするために、抗生物質などの薬剤を果てしなく投与しなければならなくなる。
    〇ステーキ肉を挽いてハンバーガーにしたり、1山のピーナツを砕いてピーナツバターに変えたりすれば、あなたの身体は食品1グラムあたりから、より多くのカロリーを、より少ないコストで取り入れられる。
    〇狩猟採集民に比べ、工業製品化した食物を食べている人々は、炭水化物──とりわけ糖と精製澱粉──を比較的高い割合で摂取している。また、工業製品化した食物はタンパク質が比較的少なく、飽和脂肪が多く、繊維質が格段に少ない。そして最後に、食品製造者は製品にカロリーを満載させられるにもかかわらず、できあがった食品におけるビタミンとミネラルの含有量は非常に低く、塩分だけが明らかな例外となっている。
    〇いまではトイレを使ったあとに石鹸で手を洗うのも普通のことだが、自分の身体を簡単に、安上がりに、効果的に洗浄する能力を大いに上げたのは、19世紀の屋内トイレ設備と石鹸製造の発展である。
    〇人類は最近まで、自分一人で孤立した状態で寝ることはめったになく、たいてい親子兄弟でベッドをともにしており、昼寝も毎日していたし、全体の睡眠時間も長かった。
    〇かつては夜から朝までぶっ通しで眠るのも一般的ではなく、いったん夜中に目を覚まして、それから「二度寝」するのが普通とされていた。
    〇肥満は、一般に「肥満指数」や「体格指数」などとも呼ばれるBMI(body mass index)という尺度で、各人の体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割った値であらわされる。
    〇エネルギー収支がプラスになっている人々は、身長が伸び、体重が増えるだけでなく、より長命になり、より多くの子供が持てて、その子供が無事に生き残れる見込みも高くなる。
    〇栄養失調や感染のせいで病に倒れる人──とくに若くして病死する人──が少なくなるにつれ、これまでより多くの人が、非伝染性のさまざまな病気を加齢とともに発症するようになっている。
    〇心臓発作を起こして数分、ないしは数時間のうちに死亡する人もいないではないが、心臓疾患を抱えた高齢者のほとんどは、高血圧、鬱血性心不全、全身の脱力感、末梢血管疾患といった合併症に対処しながら、何年も生きる。多くのがん患者も、化学療法や放射線療法や外科手術などの治療法のおかげで、最初にがんと診断されてから何年も生きられる。加えて、ほかの今日の主要な死因の多くは、 喘息、アルツハイマー病、2型糖尿病、腎臓病などの慢性疾患であり、変形性関節症、痛風、認知症、難聴といった、命にはかかわらないが慢性的な疾患も、あるときから急激に発生率が上がった。
    〇多くの人にとって、いまや年をとるということは、さまざまな障害(および高額な医療出費)を抱えることと同義なのである。
    〇近年の狩猟採集民は必ずしも一般に想像されているような不潔で野蛮な生活をしてはおらず、短命でもない。幼児期を無事に生き延びられた狩猟採集民は、概して長生きする。
    〇前立腺がんなどのように、診断が容易になったためにかつてより一般的になっているように感じられる病気もあるが、現在の先進国の医師は、かつてはきわめてまれだった、そして現在でも非産業化世界にはほとんど見られない、さまざまな病気の治療に追われている。
    〇先進国の罹病率のとくに重要な原因として、以下の因子が挙げられている。おおよその順位で、上から高血圧、喫煙、過度な飲酒、環境汚染、果実の少ない食事、高BMI、高い空腹時血糖値、身体活動の少なさ、塩分の 摂りすぎ、木の実や種子の少ない食事、そして高コレステロールである。
    〇最も広くはびこっているのが、肥満に関連した病である。
    〇問題を理解するための第一歩は、さまざまな種類の食物を身体がどうエネルギーに変換するか、そして変換されたエネルギーがどう燃焼されたり貯蔵されたりするかを把握することだ。
    〇タンパク質というのは多数のアミノ酸が鎖状に結合したもので、炭水化物は糖の分子が長く連なったもの、そして脂肪は、脂肪酸という三個の長い分子がグリセリンという無色無臭の一個の分子でつなぎあわされてできている(結果として、脂肪は化学的にはトリグリセリドと呼ばれる)。
    〇炭水化物のほうが脂肪よりもはるかに容易に、急速に燃焼されるが、エネルギーを脂肪ほど濃密には蓄えていない。腹部の過剰な脂肪は、肥満に関連する多くの病気にとって、単なる過体重よりもはるかに深刻な危険因子となるのである。
    〇人間の身体が第1に燃やすグリコーゲンを、人間の身体はささやかな量しか貯蔵していない。そこで、人間は余剰エネルギーの大半を脂肪として蓄える。これをゆっくりと燃やして、維持されていた大量のエネルギーを得るのである。
    〇霊長類の視点から見れば、人間はみな──痩せている人でさえ──比較的、太っている。
    〇内臓脂肪(腹部脂肪)の細胞は、おもに二つの重要な点で、身体のほかのところにある脂肪細胞とは異なるふるまいをする。第1に、内臓脂肪細胞はホルモンに対する感受性が数倍高く、したがって代謝も活発になりやすい。つまり体内のほかの部分の脂肪細胞よりも、迅速に脂肪を蓄積したり放出したりすることができるのだ。そして第2に、内臓脂肪細胞は脂肪酸を放出するときに(脂肪細胞は常時これをやっている)、その分子をほぼまっすぐ肝臓に送り込む。そうして肝臓に脂肪が蓄積すると、やがて、血中へのグルコース放出を調整する機能が損なわれるようになる。
    〇私たちの祖先が食べていたほぼすべての果物は、ニンジンと同じぐらいの甘さで、とうてい肥満を促進するような食物ではなかったのだ。
    〇人々が太ってきた理由、とりわけ腹部に脂肪を貯めこむようになった理由の最たるものは、加工食品が過剰なカロリーを供給していて、そのカロリーの多くが、私たちの受け継いでいる消化器系では対応しきれないほどの量とペースで、糖──グルコースとフルクトースの両方──からもたらされていることにある。
    〇フルーツジュースはしょせんジャンクフードだ。
    〇加工していない果物や野菜をふんだんに使った昔ながらの常識的な食事から炭水化物を得るようにしていれば、なかなか過体重にはならないし、容易に体重を増やさずにいられるのである。
    〇そこそこ激しい運動を定期的に行なっても、体重はそこそこしか減らない(だいたいは1、2キロ程度)。しかし、活発な身体活動は容易に体重を削ぎ落とす役には立たないかもしれないが、体重を増加させない役には立つ。
    〇人間はたっぷり脂肪を蓄えることに適応している。ただし、その脂肪はおおむね皮下脂肪だ。
    〇2型糖尿病はたしかに糖の摂りすぎによって生じるが、そのほか多すぎる内臓脂肪と少なすぎる身体活動も発症の原因となる。
    〇異性化糖やグラニュー糖(スクロース)の摂りすぎは大問題だということだ。その意味で、炭酸飲料やジュースなど、フルクトースをたっぷり含んでいながら食物繊維をまったく含んでいない甘い飲食物は、とくに危険な存在である。
    〇最も安くて最も出回っている食物は、食物繊維が少なくて、糖類──とりわけ異性化糖──が多い食物であり、それらはすべて肥満──とりわけ内臓肥満──を促進し、ひいてはインスリン抵抗性を促進する。
    〇脳卒中や心臓発作は、突然の出来事のように思われているかもしれないが、たいていの場合、この二つはアテローム性動脈硬化という長い漸進的なプロセスの最終段階としてあらわれる。
    〇心臓発作がいたるところで起こっている。それは新しい環境的条件が加わったせいであり、具体的に言うなら2型糖尿病の悪化を促しているのと同様の、身体活動の少なさと、偏った食生活と、肥満のせいだ。さらにここでは、飲酒、喫煙、感情的ストレスを主とする新しい危険因子も加わっている。
    〇身体によいとされるのが、魚油や亜麻仁や木の実に含まれるオメガ3脂肪酸でできた不飽和脂肪だ。不飽和脂肪酸を豊富に含むそれらの食物を中心にした食生活は、たしかにHDLの値を高め、LDLとトリグリセリドの値を低めて、心臓血管疾患にかかわる危険因子を減らすことが確認されている。
    〇アテローム性動脈硬化を引き起こす原因が、高いLDLと低いHDL、高いトリグリセリドの組み合わせである
    〇新鮮な野菜と果物を豊富に取り入れた食事は、炭水化物を含んではいても、食物繊維やほかの栄養素もたっぷり含まれ、なおかつ糖質がわずかしか含まれていないので、疑いなく健康的なものだと言える。こうした食物は内臓脂肪の蓄積を予防するだけでなく、炎症の軽減につながる抗酸化剤を提供してもいるのである。
    〇心臓発作と脳卒中はおもに進化的ミスマッチの一例であって、農業以降の(とくに産業化以降の)食事と座ってばかりの生活様式との複合作用によって引き起こされるということだ。
    〇がんには多くのタイプがあり、それぞれで原因が異なるという点で、がんは理解するのも治療するのも厄介な病気だ。
    〇なんらかの要因で突然変異細胞が生物の体内で繁栄できるようになったとしても、その要因はいずれ宿主を死なせてしまうので、突然変異細胞がある世代から次の世代へと受け継がれることはめったにない。ウィルスによって生じる少数のがんを別にすれば、がんはそれぞれの患者に別個にあらわれる病気であり、ほぼ例外なく、そのあらわれかたは患者によってわずかずつ異なっている。
    〇長期にわたるプラスのエネルギー収支と肥満によって引き起こされるがんがある。そのような裕福病の一種であるがんは、生殖器官──とくに女性では乳房、子宮、卵巣、男性では前立腺──に生じることが最も多いが、ときどきは結腸などほかの器官でも、やはり慢性的なエネルギー過多が原因でがんが生じる。
    〇男性の主要生殖ホルモンであるテストステロンには多くの機能があるが、その一つは、前立腺を刺激して、精子を保護する乳白色の液体を作らせることだ。生涯にわたって高濃度のテストステロンにさらされていると前立腺がんのリスクが高まることがわかっており、とりわけ先進国に住み、エネルギー収支がプラスになっていることの多い男性は、その傾向が顕著となっている。
    〇第1に、がんは意外と予防可能な病気である。第二に、がんというのは基本的に、突然変異細胞が体内で際限なく繁殖するという意味で、暴走した進化のようなものである。
    〇2型糖尿病、心臓疾患、生殖組織がん以外にも、裕福病はいろいろある。たとえば痛風や、肝脂肪症候群(その名が示すとおり)だ。過体重が原因で起こる悩ましい症状もたくさんあって、睡眠中に呼吸障害が起こったり(無呼吸)、腎臓や胆嚢の病気にかかったり、背中や腰や膝や足を痛めやすくなったりする。
    第1に、これらはたいてい慢性的な非感染性の病気で、相互関連する複数の原因から生じており、治療するのも予防するのも容易ではない。第2に、これらの病気は概して繁殖成功度にあまり影響を及ぼさないか、あるいは無視できる程度の影響しか及ぼさない。そして第3に、これらの病気を引き起こす要因には別の文化的価値があり、したがって、それらの費用と便益とのトレードオフがついてまわる。
    〇逆説的だが、いまや自分で努力してお金をかけないと、カロリーの少ない食品を摂取できないぐらいなのである。
    〇明白かつ根本的な解決策は、人々にもっと健康的な食事をとらせ、もっと運動するように働きかけることだが、それは人類が直面する最大の難事の一つだ。
    〇健康にとって最も重要な問題は、脂肪そのものではない。健康と長命のもっと重要な予測因子は、脂肪をどこに蓄えているか、どんなものを食べているか、そしてどれだけ身体活動をしているかだ。
    〇骨粗鬆症はおおむね現代のミスマッチ病であると言ってよく、私たちの受け継いだ遺伝子といくつかの危険因子との相互作用から生じている。
    〇高齢男性に閉経はないとはいえ、テストステロンの値が落ちるにつれてエストロゲンが作られなくなるから、やはり骨折の確率は高まることになる。
    〇現代の穀物中心の食生活は、そのカルシウムが悲惨なほど不足する傾向にある。典型的な狩猟採集民の食生活と比べると二分の一から五分の一であり、いまのアメリカで食物から十分なカルシウムを 摂れている成人は半分にも満たないありさまだ。
    〇数百万年にわたる自然選択は、たっぷり身体活動をして、たっぷりカルシウムを摂り、ビタミンDを摂り、タンパク質を摂らないと、骨格がしっかり成熟しないように仕向けてきた。
    〇無糖ガムで虫歯の発生率を減らせる
    〇身体と身体の触れるすべてのものを殺菌消毒しようとする昨今の傾向は異常であって、場合によっては有害な影響すらもたらすこともある。
    〇身体的に活発でいないと元気な身体でいられない。
    〇私たちは直近における費用と効果を、将来における費用と効果よりも高く見積もる癖がある(これを行動経済学では双曲割引という)。そのために、長期的な目標に関しては合理的であるようでも、すぐ先のことに関しては、あまり合理的でない欲求や行動や快楽に身を任せてしまう。
    〇大半の国家が賭博を後援しているのも、賭博関連の中毒や腐敗による社会的費用を考慮してもなお、賭博によって生まれる収入のほうに利があるからだ。
    〇とくに重要なのが、私たちは多くの新しい行動を、じつは潜在的に有害だとは思っていないということだ。
    〇普通の人は、通常なら考えられないような恐ろしい行為にも慣れることができる。哲学者のハンナ・アーレントは、これを称して「悪の凡庸さ」と言っている。
    〇ふだん私たちが普通にやっているほかの多くの行為も、それと同じ理由でやりすぎれば有害になるかもしれないなんて、ほとんどの人は寝耳に水なのではないだろうか。しかし実際、それらの行為に私たちの身体はうまく適応していないのである。
    〇そこで二つめの、人間がしばしば潜在的に有害な新しいことをしてしまう理由の進化論的説明が出てくる。私たちはえてして快適さを幸せと勘違いしてしまうのだ。日常的な普通の快適さでも度を越せば有害になる場合があることに、しばしば気づきそびれてしまうのだ。
    〇解決策はあきらめることではなく、何が正常であるかを進化論的な観点から見直して、身体のためにもっといい靴、もっといい本、もっといい椅子を作り出すのに活かすことなのである。
    〇武道家や多くのダンサーやヨガ実践者は裸足でいるのを好み、そうすることで知覚を高めているのだろう。皮革やプラスチックで一日中足を包んでいることは、一般には衛生的と思われているが、実際には酸素の通らない汗ばんだ高温の環境を生み出して、多くのカビや細菌の温床にしている。そしてそれらが水虫などの腹立たしい感染症を引き起こす。
    〇自分がどれだけの時間を椅子に座って過ごしているかを心配する必要はあるかもしれない。ストレッチ運動が効果的に筋肉の長さと柔軟性を伸ばしてくれるので、椅子に長時間座って過ごす人は定期的に立ち上がってストレッチ運動をするといいだろう。
    〇先進国の腰痛持ちの人はたいてい遅筋線維の割合が低くなっていて、そのため早く腰が疲れやすい。また、コアマッスルの強度も低く、股関節と脊椎の柔軟性も低く、運動パターンも異常なものが多い。身体への衝撃があまり強くないローインパクトエアロビクスなどは、腰の健康改善に有効であると思われるのがせめてもの救いだろうか。
    〇人々は、暑すぎることや寒すぎること、階段を昇ること、ものを持ち上げること、身体をひねること、立っていることなどを避けようとして、莫大なお金を支出する。
    〇アストロラーベ
    〇何が正常であるかに向き合うようにすべきだということである。靴を履くのを完全にやめる必要はないが、人々に──とりわけ子供に──もっと裸足でいる時間を長くしたり、もっと簡素な靴を履いたりするよう奨励することで、足に生じるいくつかの問題は避けられるのではなかろうか。座業が中心のオフィスワーカーにとっては、スタンディングデスクがもっと一般的になるといいのではなかろうか。
    〇自然選択のペースと影響力を、文化的進化のペースと影響力がはるかに上回ってしまったのが現在である。進化の最終製品として、私たちは脳の大きな、そこそこ脂肪のついた、繁殖のペースは比較的速いが成熟するには時間のかかる、二足歩行動物となっているわけだ。
    〇さらなる汚染や、ほかの潜在的に有害な環境変化(刺激が多すぎる、少なすぎる、新しすぎる)を避けるべきだ。
    〇二つのプロセスを進化の観点から考えることが必要となる。第一のプロセスは、ちょうどいま述べてきたことで、要するに、環境の変化がますます私たちを進化的ミスマッチによる病気にかかりやすくさせているということである。第二のプロセス、すなわちディスエボリューションという破滅的なフィードバックループの重要性をきわだたせる。たとえ多くのミスマッチ病が(すべてではないにしろ)予防可能だとしても、私たちはしばしばその病の環境的な原因を放置することで、その病をいつまでも蔓延させておいたり、場合によっては悪化させたりもする。
    〇古きよき食生活と運動は、万能薬でこそないけれども、いくつもの研究からはっきりわかっているように、一般的なミスマッチ病の大半の発生率を大幅に下げてはくれる。
    〇生活様式をあらゆる面で健康的なものに切り替えると──果実と野菜を豊富に摂る食事をし、喫煙を止め、適度に運動し、過度な飲酒を控えると──心臓疾患の発生率がおよそ50パーセントも低くなることが判明した。
    〇コミュニティ内部ではどうするか、広報活動や規制や税制といった政府としての方策ではどうするかを、別個に考えなくてはならない。
    〇全粒粉食品を選ぶ。
    〇人が誰でも本能的に好む食べ物は、それを切望するように人間が進化した食べ物(すなわち甘いもの、澱粉質のもの、塩辛いもの、脂肪たっぷりのもの)であり、加えて現代の採集民の取捨選択には、広告、選択の幅、周囲からの同調圧力、および費用が、強く影響を及ぼすのである。
    〇炭酸飲料、フルーツジュース、キャンディなど、糖がたっぷり入った食品はすべて禁止され、ポテトチップ、白米、白パンなど、単糖類が中心の食品も同じく禁止される。ファーストフード店のオーナーは刑務所に送られ、喫煙者も大酒飲みも、既知の発がん性物質や毒素で食品や空気や水を汚染する者もすべて同様に投獄される。トウモロコシを栽培する農家にはもはや助成金が支給されず、ウシは牧草か干し草で育てなければならない。国民全員が一定の養生法を義務づけられ、毎日の腕立て伏せと、週に150分間の激しい運動と、毎晩8時間の睡眠と、定期的な歯間掃除を順守しなくてはならない。
    〇最初に手をつけるべき明らかな部分の一つは、もっと体育を充実させることを学校に義務づけるとともに、スポーツよりもフィットネスに重点を置かせることだ。
    〇今日、私たちはまた新たな革新と協力を必要としている。それを頼りに食べすぎを避け、とくに糖分と加工食品の過剰摂取に気をつけながら、都市や郊外といった不自然な環境を生き延びていかなければならないのだ。
    〇寿命も人口規模も、そして慢性病の罹病率も右肩上がりに伸びつづけている現在、この軌道のコストをずっと許容しつづけられるかどうかは非常に疑わしい。
    〇自然選択は、完璧を生み出さない。不運にもほかのものより適応度が低かったものを排除するだけだ。
    〇私たちの進化の歴史は、私たちの骨格や心臓や腸や脳がどうしてこのように働いているのかを説明してくれる。また、たった600万年のあいだにどうして私たちがアフリカの森林に棲む類人猿から、直立して大股で歩く二足動物へと変わり、別のかたちの生命がいないかと遠い銀河を望遠鏡でのぞきこむような生き物になったかも説明してくれる。
    〇好むと好まざるとにかかわらず、私たちはやや太り気味の、柔毛のない、二足歩行の霊長類であり、糖と塩と脂肪と澱粉をひどく欲しがるが、食物繊維の多い果実や野菜、木の実、種子、塊茎、赤身肉など、雑多な食物を食べるようにいまでも適応している。ゆっくり休んでくつろぐのは大好きだが、いまでもその身体はかつてのとおり、一日に何キロも歩いたり、頻繁に走ったり、地面を掘ったり木に登ったり、ものを持ち運んだりするように進化した、持久力の高いアスリートの身体である。そしてたくさんの快適なものが大好きだが、毎日を室内で椅子に座って過ごしたり、サポート力の高い靴を履いたり、何時間も続けて本やスクリーンを凝視することにはあまりよく適応していない。
    〇地中海ダイエット(オリーブオイル、生野菜、魚を中心とする食事療法)

  • 便利や快適や楽さなどのイノベーションは必ずしも健康になるためのものではない。

    人間は、糖・澱粉・脂肪・塩・豊さ・楽さ・快適で便利を求めるが、
    身体は、食物繊維・種子・塊茎・肉・果物・野菜を摂る前提でできており、身体活動をする前提の構造に出来ている。

    病気の対策よりも、病気になる根本的原因、即ち人類が歩んできた生活と現代とのミスマッチに目を向けることで病気を予防すべきだと。

  • 人体六〇〇万年史 下──科学が明かす進化・健康・疾病 (早川書房) 自分の体がどうしてこんな反応をするのか色々と納得できる内容だった。体を動かすことの大切さや歩く姿勢というか歩き方など、色々と納得いく点が多かった。もっと若いころ読んでいたら、とも思うけど、その頃に読んでもあまり納得できなかったかも。

  • 人体600万年の進化を、化石的、解剖学的、遺伝子学的、文化的、それらの統合的推察により明らかにすることにより、現代の生活習慣病などについての結論を求めようとしている本。精製された食物、特に、コメ、麦が生活習慣病を引き起こすという平凡な結論を、数百ページに及ぶ論理展開から導き出すという極めて迂遠で非効率な手法を駆使した非凡な書籍といえよう。実践的ではないが、非常に興味深い内容で、科学とはこのようなものであるという意味を理解する上でも、非凡であると言える。

  • 進化生物学者が人体の進化の歴史を解き明かす。人間はいかに適応してきたのか?「適応」とはなにか?何に適応してきたかを明確に述べるのは難しいようだ。人類に歴史と進化の話題は興味深いものだ。現在も進化しているし、自然選択は起こっているのだが、文化的な進化の影響で、以前のようには明確に判明しない。

全8件中 1 - 8件を表示

ダニエルEリーバーマンの作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×