アメリカの鏡・日本 完全版 (角川ソフィア文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 徳富蘇峰は東京裁判の法廷に提出して却下された供述書でこう喝破している。「若し日本の運動が、万一其中に帝国主義的の不純の分子がありとすれば、日本人民にそれをコーチした者は、誰れであるか。・・・模範を示した先進諸国は、日本人の伎倆の拙きを嘲り、若しくは笑う事は勝手であるが、之を責め、之を咎め、之を以て日本を罪せんとするが如きは、神の眼から見れば、決して公平の措置ではあるまい。」(『 東京裁判 幻の弁護側資料: 却下された日本の弁明 』)

    本書でミアーズが書いているのも同じことだ。欧米は条約の尊重や領土保全といった誰も否定できない原則に立って日本を非難するが、そうした原則は力の強い国が特権を拡大するための国際システムのテクニックであることを、日本は欧米列強の行動から学んだという。極めてリアルな国際政治認識だが、黒船に強姦されて以来日本は悲壮な思いで師に学び模範生となった。その優等生ぶりが「先生」には我慢ならないのだ。つまるところ「この戦争はアジア民族がアジアの支配勢力として台頭するのを阻止し、米英企業のために日本の貿易競争力を圧殺しようとする米英の政策が引き起こした」とミアーズはみる。

    もっとも日本を弁護するのがミアーズの意図ではない。彼女が伝えようとしたのは、日本という「鏡」を通して、ありのままの自己の姿を直視し、過ちを繰り返すなという母国アメリカへのメッセージだ。ただ「アメリカに日本を責める資格はない」この一点だけは蘇峰と全く同じだ。今日に至るまで何ら変わらぬアメリカという国の偽善の本質を鋭く抉った名著である。

    本書が最初に復刻されたのは二十年前だが、マッカーサーが日本での出版を禁じたという曰く付きの本で当時話題になった。今となっては類書も出回り、内容もそれほど目新しくはないかも知れないが、本書が書かれたのは終戦のわずか三年後である。熾烈な戦いの熱狂と興奮冷めやらぬ時期にしては、かつての敵国日本への透徹した理解と極めて公平な筆致には驚くばかりだ。ほぼ同時期に、一度も日本を訪れたことのないR・ベネディクトが書いた欧米の自尊心と人種的偏見に満ちた『菊と刀』はベストセラーとなり、今なお版を重ねているが、本書の原著は久しく絶版だ。英文でこそ復刻されることを強く望みたい。

  • 1948年に、アメリカで出版された本。著者は日本に滞在経験のある日本専門家。
    日本とアメリカの文化や考え方の違い、その理由が分かりやすく書かれていて興味深い。
    日本が強かったのは戦争初期だけで、以降は資材の輸入経路を断たれた上、優秀な兵士は皆戦死していた。軍事費もアメリカの数分の1しかなく、まともに戦える力は残ってなかった。
    アメリカはそれを知っていながら、空襲や沖縄戦を仕掛け、原爆を落とし、日本を支配下においた。

    戦時中の日米マスコミのプロパガンダについても書かれている。
    昔も今も、マスコミはろくなことせんな。
    原爆は日本に対してではなく、ソ連との政治戦争に使用された。日本が犠牲になったのは、たまたま戦略的に重要な位置にあったから。
    宗教をバックに他国に進出する、というやり方は欧米諸国が日本に教えたようなもの。
    自分らのしてきたことを棚に上げて、何を偉そうに日本を批判してるんやろ。
    読めば読むほど、日本が可哀想になってくる。

  • 明治維新から第二次世界大戦まで白人社会と日本ひいてはアジアとの関係を非常にわかりやすく、第三者的な視点で書かれた本でした。
    これまでの様々な読書体験で知りえた情報が、改めて体系的に歴史的に整理されているの事から既視感を覚える内容でしたが、日本の近代史に興味がある人ならば必ずや満足する内容だと思います。
    また歴史だけでなく「人類の普遍的にもつ欺瞞」について学ぶにも非常に良い材料ともいえます。

    読後にちょうどタリバンによるアフガニスタンの奪還のニュースが入っていたが、こういったニュースの見え方も全く変わってくると思います。

    ひとことでいうと、
    「主観的な正義を他国に押し付けるのは全くの筋違い。本音と建て前は人類共通の癖」
    といったところ。(・・・あっ、ふたことだ)

    「地政学的に重要な場所において、一般市民を無視した形で正義という名の大義名分で大騒ぎし収拾がつかなくなる」
    このパターンをあいも変わらず人類は繰り返している。
    少なくとも個々の人間はそう思っていなくても、組織の上層部になってくるとそのあたりの感覚が著しく欠如してゆき、不思議なジャッジを繰り返してしまう。
    そして、今後の人類は同じ過ちを繰り返していくことなのでしょう。

    その土地の生活はどうなっているのか?
    人々の普遍的な幸福とは?
    子孫に説明できるようなジャッジをしているのだろうか?

    色々考えさせられます。


    国家、戦争といった大きな枠組みの話でなくても
    同様の話は会社、学校、家族といった小規模のグループにおいてもあちこちで発生しており、ジャッジメント層の誠実さ、現場感覚へのリスペクト等々、常に自らの考えを疑う謙虚な姿勢が重要であることも気づかされます。

    役立たせる場面は各所にあり、
    おりしも終戦記念日のタイミングで読了した事に何かしらの縁を感じながら、今後の人生に生かしていきたいと思いました。

    最後に、ここまで客観的な観察眼を持った女性の研究者が当時の米国にいたことに驚きました。このあたりが国力の差なのでしょう。

  • 経済局の一員として来日した著者はもともと貧しかった日本が空襲で破壊され、引揚者もあいまって住宅が絶望的に不足。のうえに占領軍はインフレ退治と称して預金封鎖という略奪策をとって軍人の強姦多発とで人心を荒廃させるのを見た。「国家予算の43%が“占領経費”で、その中には6億2千万円の交通事故賠償金も含まれる」。一人50エイカーを持つ米国農民の百分の一の耕地で「農地解放」しても?出征者農家を不在地主として窮迫させただけ/欧米人が難癖をつけた満州国独立はオランダ支配から米国従属となった「インドネシア独立」に類似する

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著者プロフィール

1900年生まれ(1898年の説もあり)。20年代から日米が開戦する直前まで二度にわたって中国と日本を訪れ、東洋学を研究。戦争中はミシガン大学、ノースウエスタン大学などで日本社会について講義していた。46年に連合国最高司令官総司令部の諮問機関「労働諮問委員会」のメンバーとして来日、戦後日本の労働基本法の策定に携わった。48年、本書を著す。89年没。

「2015年 『アメリカの鏡・日本 完全版』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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