百合な私と悪魔な彼女(?)(2) (角川コミックス・エース) [Kindle]

著者 :
  • KADOKAWA
3.00
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 4
感想 : 0
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・電子書籍

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 女の子が弱さであるとは思わないけれど、男の子が弱さを認めることは認めたい。

    「百合の間に挟まる男」という、近年にネットミームとしてささやかれるようにもなった概念があります。
    そのことからも女性同士の関係性「百合」を好むファンがこの概念をどれだけ警戒してきたのかわかろうもの。もっとも本作については百合かと思いきや、男女組み合わせなパターンなのですけどね。

    よってタイトルを裏切っているわけではなきにせよ、本作に対し拒絶反応を起こす読者も多かったのでしょう。ひとりの百合好きとして私もその感情を否定しません。もっとも私は本作を百合として捉えませんが。
    その辺については私自身も一巻のレビューでも申し上げてみましたが、口々に語られるレビューを見ていくとわりと惨憺としています。客層に合わせたラベリングの難しさについて思いを馳せてしまうようです。

    時に、百合とは肉体的なものだけを指すのか、精神もひっくるめて語らないと成り立たないのか。
    ……そういった高尚な話は今は置いときましょうか。話がズレて仕方がない。
    それと、このレビューにおける私の指摘なんてのも所詮は素人考えです。絶対に鵜呑みにされませんように。

    そんなわけで完結となる第二巻は、出し惜しみ抜きで締めくくられました。
    付随して、本レビューもネタバレありきで参りますので、どうかご容赦ください。
    まず、タイトルにもある悪魔な彼女(?)こと「みこと」がふたたび完全な男性に立ち戻るための手段および、彼がなぜそこまでして男性にこだわるのかの理由も明かされます。
    厳密にいえば後者は連載を早急にたたむためにちょっとズラした風でもありますが、許容範囲内かと。

    みことが主人公の女の子「野々山やしろ」と毎日キスをしないと完全な女性になってしまうという物語の前提要素についてもしっかり現実のものとなりました。
    さんざん不真面目な態度で主人公のことを振り回したのだから、それくらいのペナルティは甘んじて受けろというのもわからないでもない話で、そこからは評価を上向かせるには十分な急展開でしたね。

    顔かたちや声は女の子でも自分は男の子だって証明や腕力の保証がすべて崩され、自負をなくした元男の子が今まで気にならなかった周囲の男からの目線に大いに弱る。男性恐怖症の主人公と境遇をダブらせる。
    一定の客層がいる「TSF」なるジャンルのファンのひとりとして、ちょっとそそりました。合わせて今まで謎の多かったみことの内心も解禁されたことで、ようやくもうひとりの物語の主役に躍り出た感じもしました。

    そして最終話、一組の男女が試練を乗り越えて少しだけ前進したという風で物語は締めくくられています。
    男女というように、連載終了時点の「みこと」は見た目女子で実質男子な最初の状態に戻り、なんだかんだあったけど振り出しに戻っての再出発という王道のスタイルですね。
    この手の話はどちらかに決して決断の重みを引き受けろというのが私の好みですが、これはこれで好きです。

    一介の「TS(性転換)」好きとしてはここからみことが自分の女体に振り回されつつ、やっぱり元に戻りたいから手段を模索していくストーリーを続けていくことを期待していたので残念に思わないでもないです。
    それか、みことの体を人質にとって主人公の方から攻勢に出る展開を用意してもよかったのかもしれませんが、それも言っても詮無き事ですね。

    以上。
    商業的には「百合」と「男の娘」の取り合わせが悪く、仲介役になるハズの「TS(性転換)」要素が中途半端に終わったのが敗因かなとお察しします。
    まぁ、私は男の娘に執心するタイプの読者ではないので十中八九は的外れでしょうが。
    ただ、それほど複雑な作品の前提ではないはずなのに、一読者としては混乱したと思ったのも事実です。

    細かいところのアラはコメディとしてアクセントを添えることでクリアする路線だったのでしょうが、一巻のレビューで私が述べたように読者を混乱させる要素として働いた向きもあります。
    それと、みことが回想で思い浮かべた今はなき父の顔など、肝心なタイミングで作者の意図を疑わせる演出が入ったりもしました。個々の要素は悪くないものの、総じてちぐはぐさが目立った作品であったと思います。

    ただ、全体的な絵柄はさらっとした少女漫画のものですが、一話につき一回は挿入される濃密な舌も絡めたキスシーンについてはきっちり粘っこく描いてくれていた印象です。
    唇を始点として辿っていける肩のラインや表情はエロティシズムもたっぷりでした。

    かなり危うくて肉体関係一歩手前のキスばかりを求められた一方で、ジャンル上突き抜けることもできなかったためか、かなりもどかしい印象も受けたのですけれどね。
    その点、一巻の〆で顔を出し二巻から本格的に暴れてくれた「阿久津まりあ」さんからは百合的な欲望丸出しでほっといたら話を危ない角度に傾けてくれそうなパワーを感じたのでこの点についても惜しい。
    善悪は置いとくとして我が道を行く強い女がいてくれると話が進むこと進むこと――、はなはだしい。

    なので、もう少し早く弾ければよかったんだと思います。
    もう少し遠慮抜きにやしろではなく、みことの内面の体の秘密に分け入ってほしかったんだとも思います。
    ですが、クライマックスの完成度は悪くないのでそこは評価したいです。

    ちなみにラストページで「みこと」が完全な男子だった(戻った?)頃の写真が差し出されているのですが、曲者風吹かせるキャラデザインが良かったのでこの辺も本編に活かして欲しかったなと思ったりもしました。
    よって、みことが完全に男の子だった姿を描くか、もしくは完全に女の子になった後の姿を描き続ければ、物語のコンセプトはもっとはっきりとし、「みこと」という少年の像もくっきり結ばれたのかもしれません。

    ただし、中途半端な体だからこそ虚勢を張り嘘をつき女の子をダマして、不真面目に揺れ動く「みこと」という少年を描けたんだと思えば、それだって大いにアリかもしれません。
    一巻、二巻を通していささか何を語るべきかブレたレビューかと存じますが、私はこの漫画、嫌いじゃないんですよ。みことが男に戻りたい理由だって、弱さの裏返しだと思えば可愛いやつだなって思えましたから。

全1件中 1 - 1件を表示

もこやま仁の作品

最近本棚に登録した人

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×