夜廻 [Kindle]

著者 :
制作 : 日本一ソフトウェア 
  • PHP研究所
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感想 : 1
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感想・レビュー・書評

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  • お姉ちゃん視点も読めると知って購入。
    やっぱり冒頭のポロのシーンがつらい。冒頭に限らずポロのシーンがどれもつらい。ポロがどれだけ姉妹の心の支えになっていたかが詳細にわかってしまっただけにつらさが一塩です。

    ゲーム内でなぜ両親が登場しなかったのか、なぜ夜の街に人っ子一人いなかったのかも説明されていました。
    暴力を振るったり罵倒したりといったことこそないものの、父親があまりにも無責任で、作中で一番現実から逃げているのは父親だろうということが感じられて、個人的にこの小説内で最も胸糞悪い部分は父親の存在でした。登場もしゃべりもしていませんが。

    ゲームではおばけに対してわりと淡白なイメージの女の子でしたが、やはり普通に驚いて怖がって悲鳴を上げていたのですね。石で引き付ける、マッチでおびき寄せる、ミイラとか変な物を大量に拾って持ち帰るといったゲーム的行動が一切ないので、訳ありの環境で育っているいい子、といった雰囲気。
    しかし読み進めていく内に、彼女のメンタルの強さと底なしの優しさに驚かされます。何度も理不尽に襲われているというのに、なぜおばけはそうするのか、どんな気持ちなのかをいちいち考えて同情して、攻撃されないように逃げはしても恨んだり怒ったりはしない。よまわりさんに対して怒りを覚えている描写はありますが、結局心の底から憎んでいる風でもない。うさぎのポシェットとクレヨンを宝物にしているような年齢なのに、襲ってくるおばけは寂しいのだと結論付ける大人以上の慈悲深さに震えてしまいます。数え切れないほどゲームオーバーにされた田んぼの女性に対してはプレイヤーの方が余程憎しみが深いかもしれません。ホラー原作ですがそれほど重苦しく感じないのは、女の子の優しい優しい考え方のおかげもあると思います。
    自分のせいで愛犬が死んで、唯一の家族と言っていいお姉ちゃんも攫われてしまって、怖いおばけには何度も襲われて、それでも心が折れない幼女が強過ぎる。それどころか最終的には全てから目をそらさずに立ち向かおうと前に進み続ける不屈の精神が、動画サイト等で呼ばれている通りまさに『伝説の幼兵』でした。片目を失い常時おばけが見えるようになってしまったようですが、この子ならきっと自分で幸せを掴み取ってくれるだろうと思わせてくれます。

    さて、購入の動機となったお姉ちゃん視点ですが、かなり精神的に過酷な環境に置かれていました。自分のせいで母親がいなくなり、まだ中学生か高校生なのに幼い妹の母親代わりをやらざるを得ない。父親はまったくあてにならないどころか主張を信じてすらもらえない。いつ生贄として連れて行かれるかもわからないし妹を巻き込んでしまうかもしれない。街は廃れていく一方なのでいつまでも住んでいられるわけじゃない。という何重苦だといった状況です。全てが嫌になって人生をリタイアしても仕方がないような状態だと思いますが、妹を大切に想う気持ちが完全に母親のそれで、ポロの支えもあったとはいえお姉ちゃんもかなり精神がタフです。
    いくらタフでもやっぱり怖くて動けなくなっているところを若い男に励まされるシーンがあるので、恋愛的な要素を盛り込んできたのかと思ったら全然違いました。どこまでもホラーです。
    田んぼの女性はどうして死んだのか、工場にお姉ちゃんのお守りが落ちていた理由、よまわりさんが渡してきた黒いクレヨンのメモの出どころが判明します。
    母親も妹も犠牲にして、ポロも失ったというのに自分だけはいつも無傷というお姉ちゃんの罪悪感を思うとかなり苦しい。いっそ身体的に消えない傷を負った方がまだ心が軽くなっただろうに、自分を助けに来た妹だけが片目を失い常時おばけを見続けるはめになったなんて私だったら気が狂いそうです。お姉ちゃんは生涯妹に罪悪感を抱き続けることになり、妹はお姉ちゃんさえいれば他に何もいらないという結論に達するという共依存姉妹が完成しました。

    ホラーゲームらしくハッピーな物語ではありませんが、姉妹の命が無事なだけマシなはず。なんやかんやでタフな姉と強靭な精神力を持つ妹だし二人とも優しいので、この先に待ち受ける困難もなんとかできるだろうと希望は持てます。
    結局よまわりさんや手のおばけは何なのか、なぜ街がおばけだらけなのかは明記されていないので考察するしかありませんが、ゲームをプレイした人であればいろいろと補完ができて満足できる内容だと思います。逆にゲームをまったく知らない状態で読むと説明が少なくてわけがわからないかもしれません。

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著者プロフィール

小説家


「2017年 『夜廻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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