昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実 [Kindle]

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  •  「暴君~新左翼・松崎明に支配されたJR秘史~」との2部作。本作は国労の暴走から中曽根内閣による国鉄の解体まで。
     自分は順番を前後して読んでしまったが、どちらも同じ感想「なぜ労組はここまで会社で権力をもったのか」を持った。
     権力掌握して組織ハックし、甘い汁を吸う。普通、資本主義市場ではこのような非効率な組織運営はやがて会社の倒産・退場というフィードバックをもたらす。しかし公的な組織(ここでは国鉄)ではいかに資本主義国とはいえ税金によって現金が補填され続けてこのような非効率性が長期間にわたって保存されてしまう。

  • 組合と国と企業と。今となってはもう想像つかないけど、超大企業の末路とはこんなものだったのか。

  • まずは本当に長かった。国鉄解体→昭和解体であり55年体制の崩壊。

  • 国鉄は明治39年以来国家の事業として日本経済の基盤を支えてきた。しかし昭和39年の新幹線開業と同時に赤字となると最終的には鉄建公団や年金を含めると37兆円の累積赤字に至った。田中角栄は47年度末に8千億の累積赤字となった国鉄を日本列島改造論でこう書いている。赤字線の撤去によって地域の産業が衰え人口が年に流出すれば鉄道の赤字額を超える国家の損失を招く怖れがあると。

    昭和42年国鉄の職員数は47万人、翌年のダイヤ改正では増発などで3万人が必要で、石炭時代の名残の機関助士を中心に5万人の合理化を計画していた。2014年の東洋経済の記事では世界最大のウォルマートが220万人、2位のマクドナルドが44万人だ。国鉄の巨大さがよくわかる。ちなみに現在では6社+貨物の本体で12万人ほどだ。国鉄の分割・民営化は巨大赤字企業の再建を図るとともに、国鉄労働組合(国労)ー総評ー社会党の解体を目的とした戦後最大の政治経済事件でもあった。労使共にいずれは国がなんとかしてくれると親方日の丸意識に安住し、労使の対立、派閥抗争、組合同士の争いに明け暮れ政治家に利用された。井手正敬、松田昌士、葛西敬之の「三人組」を中心とした若手キャリアの改革派が立ち上がり、中曽根内閣の土光臨調では行財政改革の目玉として国鉄解体と民営化による再建を手がけた。現在単体の営業利益は北海道と四国を除けば黒字化し合計では1兆円を超える。

    国鉄迷走の原因となったのが昭和43年に国労、機関士・運転士が中心の動労が勝ち取った現場協議制度だった。石炭をくべるため2人乗車だったのを1人乗車にして合理化をはかる当局に対し、反対した組合が代償として現場での団交権を手に入れたのだ。裏で絵を描いたのは国労中央執行委員の細井宗一、スト権の無い国鉄では違法ストを実施すると処罰が待っている。そこで「定められた運行手順を、ゆっくりと時間をかけて完全に実施する」順法闘争というサボタージュ戦術を編み出した国労きっての理論家だ。細井は国鉄は多少の赤字がいい、10万人きっても年間4千億、1兆円の赤字の有効打にはならないと語っている。同じようなことを言った田中角栄は同郷で満州へ赴任した騎兵連隊では士官候補生の細井が新兵の田中をかわいがると言う関係だった。

    国鉄は国家独占資本主義の機構で、労働者を搾取し国民から収奪している。その利益の源泉が現場だ。現場が止まるのが一番怖い当局に対し、現場が団結することで組合は力を持つ。この細井の理論は結果的には現場協議を駅長や助役を吊るし上げる場に変え、職場は荒廃した。例えば昭和57年に朝日がスクープしたブルートレインのカラ出張は組合員ののタレコミによるのだが、その内容は外から見れば非常識そのものだ。毎日故障は発生しないと合理化のため降ろされた設備要員に既得権として手当の継続があったが「手当を支給しておいて、さらに合理化を強行するというのはどういうことか」とタレ込んだのだ。

    国鉄当局の方も問題が多い。職場の管理権を取り戻そうと始めた生産性向上運動、略してマル生は労使協調して成果は配分されると言うものだ。しかしこの本では生産性向上の具体的な中身はない。マル生運動の実態は当局に賛同する組合員を取り込み組合を弱体化させるのが目的だったからだ。実際に国労からは1年半で5万人の組合員が脱退している。マル生に対するマスコミの風当たりも強く、昭和46年10月に不当労働行為の証拠テープが流れた。「いま騒がれているのは組合切り崩しの不当労働行為だ。しかし、やむにやまれずこれはやらなきゃいかん。知恵を絞った不当労働行為をやっていくというのだということがあるわけです。」

    昭和47年沖縄返還協定発効後に佐藤首相が6月に退陣を発表、その3日後に田中角栄の日本列島改造論が発刊された。目玉は全国新幹線網の整備であり国鉄の赤字は拡大する。マル生に勝利した組合は増長し、順法闘争がきっかけとなる乗客の暴動が同時多発的に発生した。昭和50年組合はスト権の奪回を目指しゼネストに突入するがトラック輸送が普及した結果国鉄離れが進んでいた。国鉄の運行はマヒしたが国民生活はマヒしなかった。そしてスト権問題を協議していた専門委員会はスト権を認めないのみならず国鉄分割・民営化にまで言及していた。

    この後政府、政治家、労使ともに権力闘争と一体となった国鉄対策が続く。成果は出た、今や日本の新幹線といえば定時運行、事故の少なさともに世界最高水準だろう。そこに向けた努力の積み重ねは評価すべきだが、国鉄を含め解体された昭和の世の中が今より良かったとはとても思えない。

  • さすが日経の記者。読み応えがある。国鉄分割民営化の話といっても、昭和40年代の組合問題までさかのぼった大作。昭和50年代後半の分割民営化の議論は、三塚さんや富塚さんの本も読んだりして、鉄道ファンの少年なりにいろいろ勉強したつもりだったけど、やっぱり奥が深すぎて子供には無理だったねぇ。三塚さんの本も実は改革3人組が書いていたと知ってびっくり。戦後からの経緯があまりにんもあんまりすぎて、仕方なかったんだろうけど、分割しなければ、今でも夜行列車は普通に残ってたんじゃないか?というだけは心残り。あと松田さんが北海道に行っていたら少しは変わっただろうか?やっぱり無理かな。

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著者プロフィール

ジャーナリスト。昭和16年(1941)、大分県生まれ。昭和39年(1964)早稲田大学第一政治経済学部政治学科卒業。同年、日本経済新聞社入社、東京本社編集局社会部に所属。サイゴン・シンガポール特派員、平成元年(1989)、東京・社会部長。その後代表取締役副社長を経て、テレビ大阪会長。著書に『サイゴンの火焔樹――もうひとつのベトナム戦争』、『「安南王国」の夢――ベトナム独立を支援した日本人』、『不屈の春雷――十河信二とその時代(上、下)』(すべてウェッジ)などがある。

「2017年 『昭和解体 国鉄分割・民営化30年目の真実』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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