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感想・レビュー・書評
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昔話を読み返して、甦らせて。
この短編『寄姫転生』は同じく電子配信された『送り犬』『レンタル家族』同様に『四八(仮)』に収録予定でしたが、お蔵入りになったプロットのひとつが元になっています。
元の同人誌が頒布されたのは発売前と、期待を煽るには十分の出来でした。
多量の加筆による単独ゲームへの展開もあった他二つと比べ、この作品が最も元のゲームの色合いを残しているのかもしれません。
この短編クラスの佳作が全国に散ってさえいればかのゲームの評価が変わっていたことは想像に難くありません。
ネット越しでも狙って探さなければ発見が難しい知る人ぞ知る程度の知名度の伝承や史跡を舞台に、単に紹介で終わらない物語性を両立させることこそが「都道府県ミステリー」ってジャンルの目指すところだったんじゃないかなってしみじみ思います。
『四八(仮)』のごたごたはさておき、この物語は日の目を浴びずとも好奇の目に晒される謂れはない、そう言い切れるくらいには心に残りました。
改めて読み返してみると短編ゆえの急展開はあるものの、予定調和にちょっとした意外性が加わっていて余韻も残ります。
寄姫は退治されるだけの魔性に過ぎなかったのか? それとも人間性を纏った女であったのか?
そういった疑問を抱くことなく語られる伝承は、読んだ今人に憤りと悲しみを覚えさせます。
けれど、この物語が世に出ることで。
人がおよばぬ者としての妖しさや儚さ、美しさが、印象的な滝のシーンと共に強調され、只人を突き放しつつ「寄」り添うことを止められない人としての弱さと解釈が打たれました。
よって、転生にはふたつの意味があったのだと、あとがきを読んで思いました。
一方的に見染められながらも、一方的に見捨てられ顧みられなかった寄姫の伝承が、熊本県のみならず日本全国に向けて語られることで見事によみがえったのです。
ちなみに挿画を担当されたのは『四八(仮)』内では東京シナリオのひとつ「オンラインゲームの悪夢」の一部イラストを担当された芳ゐ(現:yos)氏。
彼女は初期の「七転び八転がり」を支えたスタッフであり、多くの『学校であった怖い話』のキャラクターを書き上げましたが、ともすればこの『寄姫転生』に向けた絵が最も彼女らしくて好きかな、と個人的には思ったりもしました。詳細をみるコメント0件をすべて表示