「公益」資本主義 (文春新書) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 今、日本企業は変な状況にあると思います。
    片方では、株主重視の経営をしろ!と言われて、ROEやらPBRやらといった指標が取り入れられ、企業は配当を増やし…
    もう片方では、日本企業の良さを思い出そう!と言われて「三方よし」やマルチステークホルダーといった考え方が推奨される、と。
    本著は、思いっきり後者寄り、と言うか、前者に真っ向から反対する姿勢の1冊です。

    著者の指摘はなかなか衝撃的で、素直に読むと公益資本主義になるべきだ!と思ってしまう説得力です。岸田内閣の「新しい資本主義」とも通じるものがあるなぁと。
    ・企業は、資金調達のために株式を上場したはずなのに、ニューヨーク証取に上場した企業が「調達した額」よりも「配当や自己株式取得で市場に払った額」の方が多いという矛盾。
    ・社外取締役を増やす等のコーポレートガバナンスが不祥事を防ぐことはなく(東芝はガバナンスの優等生だった)、むしろ一般株主の立場で社外取締役が株主還元等を主張することで悪影響が大きいという主張。
    ・経営陣と投機家(投資家ではないのがポイント)が手を組んで、会社というハコを吸い尽くし、従業員を疲弊させていくという主張。
    確かに、足元のボーイングの惨状なんかを見ると、経営陣は本当に必要な現場の改革ではなく、事業売却でお茶を濁そうとしている感もあり、それでも利益が出れば巨額の役員報酬に株主のお墨付きが出るんでしょう…。

    ただ、同時に本著を読んでいて少し疑問に感じた点も。
    ・投資家側も、著者が言うような村上ファンド的なアクティビストばかりではなく、中長期の投資家も確実にいるよなぁと。まぁ株主還元は要求してくるでしょうが。。
    ・アメリカ企業がR&Dに時間も予算もかけられない、ということですが、支出額が減ってる訳でもないような。。
    https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/9780.pdf
    ・日本企業がアメリカ企業と同じように多額の株主還元をした例として、NTTドコモを挙げるのはちょっと違う感が。アメリカには無い上場子会社で、この年はたまたま親会社からの自社株買いが3000億円分あった訳で。

    株主平等原則に反する配当の提言など、少し偏ったスタンスに感じられなくはないものの、それを補って余りある野心的な提言でした。
    本著を契機に様々な議論がなされるのなら、日本にとっても、日本で働くいち会社員としてもポジティブなコトなのかなと思いました。

  • 経営がよくわからない。
    会社の現場で働いている立場から見ると、会社は顧客と、働いている人と、協力してくれる会社や個人から成立している。株式会社なら株主がいることは知っているが、日頃なにか役に立つかと言われると別に立ってない。村上ファンドとか、「物言う株主」もよくわからない。彼らは会社や顧客に貢献しているの? なんであんなに偉そうに上から目線でものを言うの?
    汗水たらして働いている人より、机にふんぞり返って金を右から左に動かしている連中のほうがいい暮らししているってなんか変じゃね? 会社は株主のもの、らしいということは知識としては知っているが、連中何をしているの? 会社の「時価」って何? それっておいしいの?
    リストラして経営を立て直すと、従業員をクビにした経営陣がいっぱいボーナスもらえるってどう考えてもおかしくね? 

    とずっともやもやしているんだけど、世の中(日本)はそういう仕組になっているらしいし、誰も文句を言わないし、ぼくが経営と経済がわからないせいで、なにか見落としているのかなと思っていた。
    本書を読んで、ああやっぱり変なんだ、と思った。世界の8人の超金持ちの資産総額が、下から36億人分の資産総額と同じってのは、中世の王様時代よりひどくね?

    本書は経済用語が頻出して、ちゃんと理解できているかわからないのだけれど、経営、経済の素人であるぼくにはしごくまっとうなことを言っていると思える。ぜひこういう世の中になってほしいし、逆にならないのはなぜなんだろう? 誰か反対しているのか? なぜ反対なんだろう? 

  • NPOで働くようになって、資本主義において大いに稼ぐことの意義を知った。

    > 公益資本主義とは、「企業の事業を通じて、公益に貢献すること」。
    > 企業を支えるすべての関係者に貢献するため、大いに稼ぐ必要がある。

    これからの経営は、ステークホルダーに地球環境や構造的格差等も入る。すべての関係者に貢献するために移行していくべき在り方。

  • (目指す姿)それはすごい!そんなことが本当に可能なのか!
    (方法)
    「やり方はある、みんなそう言ってる」
    えっ

  • ”わたし”が前に出すぎておなか一杯ではあるが、英米型資本主義の問題点とベンチャーキャピタリストのありかたについてとてもわかりやすく書かれている。

    P36「上場時の株価は高いほうがよい」と一般に思われていますが、「むしろ低いほうがよい」、が私の持論です。

    P84 社外取締役は、「株主資本主義」「金融資本主義」の論理を取締役会に持ち込むだけの存在になりかねません。

    P104 投機家や監査法人の目から見れば、「投資は既に破綻状態で減損として計上するように」と迫られる状況でした。創業経営者は交代させられ、投資は撤回され、そうなれば開発はストップ。しかしこのような時でも「会社の現金が「価値のある技術」に姿を変えたのだ」と監査法人に説明し、自ら
    追加投資に応じるようなことができるのが、真のベンチャーキャピタリストなのです。

    P112 土地や他社の持ち株などの資産を減らせば、ROEが上がり、したがって株価が上がり、投機的な株主が喜ぶのです。要するに時価会計もまた、株主資本主義にとって都合のいい会計基準なのです。

    P150 環境保護団体やNPOは、「本気でやっている人」と「本気でやってはいるけれど実際には誰かに使われている人」と「初めから誰かに使われるためにやっている人」の3種類がいます。

    P151 少なくともアメリカでは「株主利益のための男性労働者の給与抑制」を「女性の社会進出」という言葉で美化したのが80年代の実態でした。

    P193 公益資本主義の理念に合致する新しい指標「ROC(return of company)」会社を支える社中全体への貢献度を測る指標です。

    P224 公益資本主義は豊饒性を大切にします。みんなの資本主義と置き換えてもいい。

  • 歴史鉄道オタクからアメリカのベンチャー最前線で大活躍というユニークな著者自身の経歴が面白い。

    スタンフォード、シリコンバレーとMBAとまばゆいような資本主義の中心にいて、会社とは、資本主義とは、本質について、また持続的成長や公益性といった道義的観点から一刀両断する様は、素敵な人柄だなぁと思う。


    こういう成熟した経済人が増えてほしい。

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著者プロフィール

アライアンス・フォーラム財団代表。27歳まで考古学研究を行い、光ファイバー事業会社を創業。90年代、シリコンバレーを代表するベンチャーキャピタリストに。米英Israelで情報通信、ライフサイエンス分野のベンチャー企業を世界的企業へと成長させた。デフタパートナーズ グループ会長、WAF@SFO再生医療会議議長、内閣府本府参与、大阪大学医学部招聘教授。

「2016年 『BIOCITY ビオシティ 65号 健康寿命を中心にすえたまちづくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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