レンタル家族 [Kindle]

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  • 2017年4月17日発売
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感想・レビュー・書評

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  • 彼は、父親でありたかった。

    この短編『レンタル家族』は同じく電子配信された『送り犬』『寄姫転生』同様に『四八(仮)』に収録予定でしたが、お蔵入りになったプロットのひとつが元になっています。

    元は2007年5月、『四八(仮)』発売前に頒布されたものですが、ゲーム用に調整されたシナリオではなくあくまで書き下ろし小説という体を取っています。

    後に本作は原作者提供のプロットから書き下ろされた連作短編・一本道のビジュアルノベルという形で世に出ることになりました。
    「アパシー・シリーズ」に組み込まれ『アパシー レンタル家族』というタイトルとなった同作は、商業的に売れ行きは芳しくなかったものの、完成度に関しては「七転び八転がり」屈指のものと断じます。
    納得の感動作なのでお時間が許せばどうぞ遊んでみてください。

    ちなみに2019年5月現在は無料フリーソフトとして配信中です。もちろんこの短編も「家族写真」と名付けられ収録されています。

    ここであえてネタバレをしましょう。
    かのゲーム『四八(仮)』は47都道府県に散った短編と登場人物を48番目の謎の「あなた」シナリオが認識の狂いを利用したサイコホラーでまとめるという構造を取っていました。

    ゆえにテーマ上重要になっていたのですが、「夢オチ」スレスレの反則を乱用したことで、実際のゲームがいささか陳腐になってしまった感もあります。
    話をわかりやすくするために劇中劇と評しますが、ゲーム中の通常シナリオでもその伏線というか雰囲気づくりとして自分を見失って錯乱する登場人物が頻出したわけです。

    もし、当のゲームを遊んだ方で、倦怠期に陥った夫婦を取り扱った「仮面夫婦」という、直接この短編を連想させるシナリオをご存じの方にはいささか悪い前情報を残したかもしれません。
    あまり関係ないですが、本作の接待で出張サラリーマンの「神田堤造」さんを思い出した人も多いはず。

    とは言え『送り犬』や『寄姫転生』同様、なんでゲーム本編とここまで感触が違うんだろうと思わないでもないですが。
    自分で振っといてなんですが、この際、かのゲームのことは忘れて単独で読みましょう。

    主人公の篠田さんの一人称視点をじっくり追っていくうちに段々と追い詰められ、おかしくなっていく感覚を共有できると思います。

    淡々と事実を連ねる形で綴られる篠田さんの心情は、常識的なんですがどうも義務的なようにも感じられるのがポイントです。
    この辺、しっかり種明かしに絡んだものになっているんですが、オチのあとで場当たり的な狂気に逃げなかった辺り評価できます。

    娘役の「規子」ちゃんとの生活も嬉しさの中に、受け身の内になし崩し的に現状を受け入れてしまう怖さがじんわり染み込んできます。
    それでも、どうしても噛み合わない現実を無理やり引き寄せるように、一気に論理を飛躍させ暴挙を働き「!?」となるように畳み掛けてきます。

    なので、結末が意外と腑に落ちました。
    それに加えて渦中の事実だけ見ると、篠田さんの考えもそう間違いではないように思われ、解釈の余地を残している辺りが上手い。

    分岐を含まない一本道の小説でありながら、「選ぶ」ゲーム的な感覚を残している辺り、やはり飯島多紀哉さんはゲーム畑の人間なのでしょうね。

    ところで「レンタル家族」という言葉について。
    作中で触れられている通り、イベントの数合わせのピンチヒッターとしては発表当初から現実に存在していました。

    それから十数年、この名の付いた制度は最近では巷のニュースにも上がる通り、知名度を増してきています。
    それこそ「レンタル何もしない人」という傍から聞いただけではなにがなんだかよくわからないサービスまで出てきてるくらいですし。

    ただし、フルタイムで雇われた赤の他人同士が家族として日常を演じる、そんなSF的なシステムは幸か不幸かまだ現れていません。
    本作最大の特色であり、立法上真っ先に挙げられる問題点であろう「子役」については上記ゲーム中でも注目されていたりします。

    しつこいようですが、気になる方はプレイをおススメします。

    ちなみに著者の飯島多紀哉氏が子を持つ父親になったからこそ生まれた作品として他に『小学校であった怖い話』が挙げられます。
    「家族」という概念は答えは早々出ず、だからこそに書き続けるに値するテーマなのでしょうね。

    なんにせよプレイヤーに考える余地を与えた時点で作品としては成功です。
    結論は急がずとも、不器用ながら前に向かって進んでいけるならその歩みこそが貴い。
    私が感じるに、そのことに今も昔も変わりないと思うわけですから。

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