日経サイエンス 2017年12月号

  • 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・雑誌
  • / ISBN・EAN: 4910071151272

感想・レビュー・書評

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  • 冒頭のニューススキャンでノーベル賞のおさらい。
    物理学賞はLIGO(The Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)による重力波観測。観測成功自体は2015年と新しいが、その元になったアインシュタインの予言は実に1世紀前のことになる。アインシュタインは、1915年、一般相対性理論を提唱、その翌年に、この理論から考察して、重力波の存在を予言した。大質量天体の周囲では時空が歪むため、近くを通る光や物質は直進できず、飛行コースが曲がる。天体が揺れ動くと時空の歪みに揺らぎが生じ、波として光速で周囲に伝わる。これを重力波と呼ぶ。ただしこの揺らぎは非常に小さく、実際に、初めて観測された重力波の場合、太陽地球間の距離(約1億5000万km)を基準とすると水素原子1個分程度の空間の伸び縮みに相当するという。
    これほど微小のものをとらえるため、超大規模なレーザー干渉計を用いる。また、LIGOの場合は同じ施設を3000km離れた2箇所に建設し、ほぼ同時刻に同じ伸び縮み振動パターンを捉えた場合に、重力波信号候補として解析を進めることになっている。
    日本ではKAGRA(神岡(建設地)の「KA」+Gravitational-Waveの「GRA」)が整備中。レーザー干渉計ではノイズを除くことが重要になるが、KAGRAは世界でも最高精度レベルという。アメリカのLIGO、イタリアのVIRGOと国際的に協力することで、全天をカバーし、重力波の到来方向を高精度で決定することが可能になる。
    素粒子・宇宙物理として、やはり注力されているものにニュートリノ研究がある。本号ではそちらの特集もあるので後ほど簡単に触れる。

    生理学・医学賞は時計遺伝子。
    人間や哺乳類、昆虫、植物、細菌も、地球上の生物は、ほぼ24時間の周期で体を変化させている。終日暗い環境下においても、夜に葉を閉じる植物は夜の時間に葉を閉じ、ヒトもほぼ24時間で睡眠と覚醒を繰り返す。このリズムを生み出す機構を解明する糸口は、ショウジョウバエ研究から得られた。多くの個体では羽化のタイミングが非常に規則的であるのに、そうでないものがいたのだ。これらを調べていくと、per(period)と呼ばれる遺伝子に異常があることがわかった。これが時計遺伝子の最初の例である。
    per遺伝子の発現を調べると、遺伝子産物であるタンパク質がある程度たまると、遺伝子の発現が抑制されることがわかってきた。「転写翻訳ネガティブフィードバック」と呼ばれる機構で、これにより、タンパク質発現が周期的に増減する。活性が24時間周期で振動することで、体内時計として作用していたのだ。こうした時計遺伝子はperだけではなく、複数が知られており、これらが協調して概日リズムを創り出している。
    時計遺伝子がうまく働かなくなると、睡眠障害や肥満、癌や代謝異常など、さまざまな病気のリスクが高まると見られている。
    地球上の多くの生物が時計遺伝子を持つことがわかってきているが、遺伝子やメカニズムはそれぞれ異なり、進化の過程で独立に獲得されてきたと考えられている。生物にとってはそれだけ重要な機構であったということだろう。

    化学賞はクライオ電子顕微鏡。クライオ(cryo)とは、低温や凍結を意味する接頭語。
    電子顕微鏡は、非常に解像度が高く、原理的には対象をほぼ原子レベルで見ることが可能である。だが実のところ、生体分子向きではない。生体を作る炭素・酸素・窒素は、電子線の透過率が水とほとんど代わらない。電子線はエネルギーが高く、生体分子に当てると分子が破壊されてしまう。また電子顕微鏡の内部は真空で、通常は水に溶けているタンパク質は、真空中で水が蒸発すると形状が変わってしまう。
    従来の技術では、生体分子の表面を、重金属を含む染色剤で固める方法を使用していた。染色剤が鎧のように分子の形を守り、電子線を散乱する。これによって外部の形状はわかるようになったが、これでは内部構造は見えない。また、染色剤よりも小さいものはよく見えないことになる。
    クライオ電子顕微鏡法では、零下196℃の液体窒素で冷却した液体エタンで試料を急冷して凍結する。急冷することで水の結晶化を防ぎ、生体分子は破壊されることなく固まる。氷に封じ込めることで、真空中での蒸発も回避できる。
    多数の二次元画像を三次元画像に再構成するアルゴリズムが開発されたことで、大量の分子画像を統計的に処理して、分解能の高い鮮明な画像を得ることが可能になった。
    分子構造解析はX線解析が主流だったが、クライオ電子顕微鏡の開発により、ある程度大きいタンパク質複合体ではこちらが中心になっていいきそうな勢いという。

    本号の特集は2本立て。
    1つは「ニュートリノの物理学」である。
    ニュートリノは素粒子の1つで、素粒子の中でも最も解明が進んでいない粒子である。電荷がなく、捕捉しにくい上、他の粒子とほとんど相互作用しない。このニュートリノが太陽系外で自然発生したのが観測したのが小柴昌俊、そして質量があることを示したのが梶田隆章両博士で、いずれもノーベル賞を受賞している。
    素粒子観測には巨大施設が必要となるが、これまでのカミオカンデ、スーパーカミオカンデに続き、さらに大きなハイパーカミオカンデが計画されている。

    本号のもう1つの特集は、「性とジェンダーの科学」。男脳・女脳ってほんとなの? トランスジェンダーってどういう状態?といった疑問を科学的に見ていく。なかなかおもしろいのだが、前後編に分かれているため、後編が出る次号で一緒にまとめる予定。

  • 宇宙資源と国際法
     「大西洋はどこの国の領有でもないが、誰でも魚を捕って構わない」
    いやいや、資源採取はダメでしょう。

    変わる原子炉地図
     この「世界の原子炉」図は面白い。
     加圧水型が世界の大半を占め(ロシア・米国・中国・韓国・フランス・ドイツ)、沸騰水型は日本(日立・GE)のみ。
    インドは高速増殖炉と加圧重水炉、
    と分かれてる枝葉の幹が違う。

  • 本年のノーベル賞3つの解説。あとニュートリノ。

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