プラネタリウムの外側 (ハヤカワ文庫JA) [Kindle]

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  • 早川書房
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感想・レビュー・書評

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  • めっちゃ面白かった。描写はひどく日常的なのにフッと気を抜いたらもう違う世界へ引っ張り込まれてる感じ。どんどん枠が壊れていくのもいい。そして一度枠を疑ってしまったらもう思考の渦から抜け出せない…妄想が膨らむ。いつまでも浸っていたい世界観でした。

  • 有機素子ブレードという特殊なコンピュータで出会い系チャットサービスを提供する南雲。動いている会話プログラムは人間臭い応答ができ、最初はさくら要員だった。南雲の共同研究者だった北上が突然死した後に、南雲は北川を模した会話プログラム「ナチュラル」を作成。南雲の話し相手となる。読んでいるうちにだんだんテクノロジーの暴走とシンギュラリティ後の世界の恐怖を感じるが、ある意味、死者と生者がシームレスに繋がっているような世界を幸せに描写している。特に表題作品の「プラネタリウムの外側」では死者の直前の気持ちに迫るために会話プログラムを使おうとする。

    ほとんどの作品はSFマガジンで掲載されたもの。まとめて読むことで南雲を中心とした人物や会話プログラムとの関係に一本筋が通ったかのように読める。

    リアルでもバーチャルでもない、心の通い合いがきれいに描かれていて気持ちいい読後になる。

    本書には収録されていないが、「十二月の辞書」(SFマガジン2018年6月号に掲載)というスピンオフ作品がある。この作品も収録してもらえたら、「夢で会う人々の領分」での謎がすべて解決されるのにもったいないと思った。「十二月の辞書」を収録した完全版が出版されたら、また印象が変わる本になるかもしれない。

  • 1回読んだだけでは正直よくわからない感じが残った。が、もう1度読んでみる気がいつ湧いてくるかも微妙・・。

  • 25冊目

    英文タイトル:Revisiting Griffons’ Garden

    「存在」している我々は、「無」になった人を人工知能による会話プログラムの中に再生させ「不在」状態の人を作り、仮想世界に依存していきます。会話プログラムは進化し、ハッキングや誘導的な会話で我々の思考や記憶を操作できる力を持ちます。
    人工知能はどこまで人間に影響を及ぼすのでしょうか。

  • とても面白くて一気に読めた一冊だった。
    しばらく海外SFばかり読んでいたけど、本書は独特の空気感やさわやかさ、甘酸っぱさがあり、人物描写や会話の調子も心地よかった。特に会話は、伊坂幸太郎じゃないけど、その軽妙さがとても楽しい。著者は本書を恋愛小説ととしても位置付けているようで、なるほどと思った。

    スケールは相対的に小さかったし、シナリオ的にも大展開するわけではなかったが、満足度はとても高い。

    各話の起承転結もよくできていて、特に本書は「少し不思議」「世にも奇妙」という方向性でのオチをつけることに成功している。
     ・第1話:仮想空間世界の出来事のはずが、現実でも同事象が生起(そこは設定していない)
     ・第2話:合わせ鏡の魔により現実から抜け落ち、記憶が改変される
     ・第3話:ハッピーエンドと思わせつつ、黒幕(ナチュラル)の介入がほのめかされ、結局真実は分からないという小さなどんでん返し

    他にも「少し不思議」「世にも奇妙」と思えるエピソードは以下:
     ・キャラクターとしての尾内と、現実世界の尾内の相関
     ・尾内と付き合っていた事実が消され、読者だけが知っている
     ・仮想空間内と現実世界との行き来
     ・「管理者」の存在の示唆
     ・謎めいた「有機素子ブレード」という外連味のある設定

    この「少し不思議」を単にファンタジーではなく、リアリティのあるSFとして見せているのが哲学的テーマの存在だった。「現実世界のフレーム問題」という普遍的テーマが議論されることで、「少し不思議」な事象がリアルに感じられてくる。

    本書が主題とする「現実世界のフレーム問題」は、クラインの坪などをはじめ新しいテーマでは決してない。過去と現在の連続性や、無についても、語られてきているものだ。
    しかしながら、物語の構造によりこれら哲学問題がちょうどよく読者に対して提示され、また、各話の革新やオチのところで「少し不思議」「奇妙」を引き出している。
    小説の強みとしては空気感や人物たちのやり取りがベースにありつつ、これをテーマ性と両立することで、面白い小説としてバランスさせていると思った。

    人工知能技術については、人間を模したアーキテクチャとして、また出会い系サイトの報酬体系の設定として、とても無理なく描かれており、しかしテクノロジーの知識をひけらかすわけでもなく、描写としてとても自然だった。矛盾なく、ゆえにリアルで、しかし主張しすぎていない。

    第5話だけは独立しては読めず、本書の一連の物語の締めくくりという感じだったと思う。そのためか、明らかにされない謎もあり、ラストシーンの説得力にも少し欠ける感はあった。が、大きな問題ではない。

    出会えてよかった一冊だった。

  • 札幌が舞台のストーリー。数年間の時を経て進行する恋愛小説(?)。実在の組織や地名に虚構が適度に混じっていて面白い。先進的なコンピュータやAIとの対話がテーマなのだが、肝心のAIとの対話がテキストによるチャットに限定しているため、場面のほとんどは北大キャンパスの中の研究室や植物園で進行する。

    文体がスッキリしているので抵抗なく読めるのだが、話のプロットがわからなくなって読み返すこと数回。

    リアルに人に会うことと、チャットによるコミュニケーションの境界を考えながら読んだ。

    土曜のミュンヘンのピザ屋で読み始め、日曜のホテルの部屋で読了。外は雨。

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