宿命 習近平闘争秘史 (文春文庫) [Kindle]

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  • 2023/9/19 Amazonより文藝春秋電子書籍フェアにて1019円(306pt)でDL購入。

  • 2015年3月アメリカの月子中心、中国人の出産ツアー向け施設の摘発が相次いだ。2013年には2万人以上が利用している。そして8万人が投資移民制度を利用しアメリカ国籍を取得した。朝日新聞の北京特派員だった峯村氏が突撃取材したのはこのころだろう。いずれもすでに警戒が厳重になっており取材はお断りだったが月子中心の見学に来た中国人カップルに頼み込んで同行し、ついで愛人村にも入り込んだ。愛人が住む豪邸の主人は滅多に顔を出さない。党、政府、国有企業の幹部は一人中国に残り、家族や愛人をアメリカに住まわせ資金を移しておき、いざとなったら本人も逃げる算段だ。さらに1章を割いてハーバードに留学中の習の娘にまで接近する。ドラマとしては面白いが習の権力闘争とはあまり繋がらない。留学は習夫妻の反対を押し切った本人の強い意志によるものらしい。

    2012年11月第18回共産党大会で習近平はトラもハエも叩くと反腐敗運動を本格化させた。2013年に規律違反で処分された党員は18万人に登り、薄熙来、周永康、徐才厚など習を追い落そうとするトラが失脚した。江沢民の院政に苦しんだ胡錦濤は自らの完全引退と引き換えに長老の影響を排除した。一見大英断に見えるがこれも胡錦濤が敗れた結果だった。そして習近平は権力闘争に圧勝した。

    1993年に大連市長になった薄熙来は「いつか天子になる」と大連出身の徐才厚とともに党や軍の高官や若手実力差を接待し薄グループを作り上げていた。この時幼なじみの習に対しては軽んじたのか相手にしていない。1997年習近平は中央委員入りを逃した。党内序列344位は候補者の中では最下位だ。李克強は2002年に43才で最年少の河南省書記になりポスト胡錦濤の最有力候補だった。この頃習よりも李や薄の方が最高指導部には近い位置にいた。しかし2007年の常務委員の序列は習が6位で李が7位と逆転し薄は常務委員に入れなかった。

    出自も仕事ぶりも薄熙来が上回っていたが父親の威光に頼りすぎまた多くの恨みも買った。李克強は高い能力で胡錦濤に買われていたが天安門事件の中心人物が大学時代の同窓だったことから難癖をつけられた。また胡錦濤が秘密裡に主催した民主的な党員投票で胡ー李を警戒した上海閥と太子党が習に投票したため圧倒的1位となり皮肉な事に民主的な投票の結果習が逆転した。引退した幹部や部下の話をよく聞く習は敵を作らず、江沢民からは扱いやすいと見られたのだろう。党内の団結という点からは習が上回っていると見られた。江沢民と胡錦濤の抗争で習近平はいずれからも敵視されてはいない。漁夫の利を得た習は主席に選ばれてからは露骨に江沢民の影響を排除している。

    2012年軍高官が絡んだ汚職の捜査を胡と習が進める中、王立軍事件が起こった。軍の最高幹部徐才厚、常務委員周永康、胡錦濤後のことを考え薄熙来に接近する令計画などが2007年に常務委員になれなかった薄熙来を習近平に代わって主席にしようとするクーデター計画が進んでいた。この情報を握っていたのが盗聴を実行した王だ。2012年3月19日薄熙来を擁護する周永康が北京で武装警察を動かし薄熙来に資金を提供した大連の企業家の身元を確保しようとした。薄熙来を調査する指導部も軍を動かしにらみ合いが続いた。薄への調査を妨害し、逆に盗聴で習の汚職などの証拠を探し引きずり下ろすというのがクーデターの計画だった。

    長老の影響力を排除し、敵対派閥を一掃した習近平の仕上げは次の主席候補を白紙に戻したことだ。孫政才は排除され、次期主席候補NO1の胡春華は常務委員入りを逃した。胡の常務委員については胡錦濤だけでなく江沢民も支持していたが、自らの側近の陳敏爾 を常務委員に推薦した習は胡錦濤流の民主選挙は採らず、長老57名との個別面談の結果批判が多かったという理由で陳とともに胡の常務委員入りを阻止することに成功した。後継者を決めなかったことで次期主席を選ぶ際には習の影響力が際立つ。

    クーデター計画などは峯村氏が足で稼いだ情報だ。中国ではいろいろな噂が実しやかに流れるとはいえ外国人記者にクーデターの話をするのはリスクが大きい。思惑はともかく話をしたがる人はいる。強すぎる習近平に対し次に流れる噂はどんなものになるのか。

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著者プロフィール

峯村健司(みねむらけんじ)一九七四年生まれ。青山学院大学客員教授。北海道大学公共政策学研究センター上席研究員。ジャーナリスト。元ハーバード大学フェアバンクセンター中国研究所客員研究員。朝日新聞で北京、ワシントン特派員を歴任。「LINEの個人情報管理問題のスクープと関連報道」で二〇二一年度新聞協会賞受賞。二〇一〇年度「ボーン・上田記念国際記者賞」受賞。著書に『宿命 習近平闘争秘史』(文春文庫)、『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新書)がある。

「2022年 『ウクライナ戦争と米中対立』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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