日本型組織の病を考える (角川新書) [Kindle]

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  • KADOKAWA
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  • 本人に全く身に覚えのない罪(虚偽公文書作成、同行使罪)で突然逮捕、勾留され、検察による厳しい取り調べを受けた著者。6ヶ月にも及ぶ勾留の後、起訴され、裁判で罪に問われた著者が語る、怖い体験の顛末と、その根本たる日本型組織の病を語った書。読みどころは、結論ありきの執拗な誘導尋問で調書をでっち上げようとする検事と著者の激しい攻防。これぞ結論ありきの "ザ国策捜査" だな。

    弁護人の「誰もうそなんかついていない。検事が勝手にストーリーに合った調書を作って、そこからバーゲニング(交渉)が始まるんだ」という言葉、実に恐ろしい。「調書とはそういうもので、弱みを突かれた人は交渉に負けてサインしてしまう」というが、これでは、検察の胸先三寸で無実の者をいくらでも罪に陥れられるということになる。 今は戦前ではないというのになあ。

    カルロス・ゴーン事件で話題となった、検察の主張を否認していると保釈がなかなか認められない「人質司法」という問題も、記憶に新しい。

    さて著者は、問題の根本は、日本の組織(特に官僚組織)の「本音」と「建前」が大きく乖離してしまっていることにあるのだという。そして、本音と建前のズレを点検するポイントについて、「「必要悪」という言葉です。冷静に見れば「悪」なのに、「これは仕方なかった」とか「このためにはこうする必要があった」など、自分たちの行為を正当化しようとする時に使われやすいこの言葉や考え方が出てきたら、要注意です。」と語っている。そして、問題を起こさないために「一番重要なことは、勇気を持って、建前と本音の使い分けをやめて、「コンプライ・オア・エクスプレイン」へと転換を図っていくこと」なのだと。

    国策捜査によって窮地に陥れられようとした著者の言葉だけに、重みがある。

    なお、著者の女性活躍に捧げた官僚人生や退官後の弱者救済活動を紹介した後半部分、立派過ぎてちょっと引いてしまった。また、昨今の強引な女性登用に違和感を感じていることもあって、共感できない部分もあった。

  • 日本型組織の病を考える。村木 厚子先生の著書。パワハラにセクハラに不祥事の数々。パワハラをする加害者、セクハラをする加害者、不祥事をする人を非難したり罵詈雑言を浴びせるのは簡単なこと。だけれど非難したり罵詈雑言を浴びせたところで問題は何も解決しない。パワハラにセクハラに不祥事の数々が起きてしまう日本型組織の病を治療しないと解決しない。日本型組織の病を治療することが村木 厚子先生のような被害にあってしまう被害者を減らすことにつながるから。

  • 村木さんの人となりが知れてよかった。
    しかしながら、今日のタイミングだとWBPC問題に注目せざるを得なくなってしまう。当初の理念は良かったが、組織の現場が勝手に暴走したのか?都の精査がずさんだったのか?など。
    検察に対する「建前」と「本音」について書かれてあったが、それがまるまるWBPCや都の問題に繋がっているのではないか。ものすごく皮肉でブーメランなタイトルにしか見えなくなってしまった……

  • 前半は冤罪事件について。

    身に覚えの無い罪で突然逮捕され、半年間の勾留、検察による不可解な取り調べの中、無罪を勝ち取るまでの話。

    「検察はこんなにひどい!」で終わることなく「なぜこのようなことになってしまうのか」「再発防止のためにはどうすればよいのか」を視点を広げて「日本型組織の病」として考えられるのが凄い。

    拘置所で出会った若い女性たちや障害者にも目を向け、助けを必要とする人々が公的支援にたどり着けず、悪い人たちにカモにされてしまうことも知って、支援団体を立ち上げたりもされている。

    コナンやミステリーが好きで、どこかに穴があるはずだ、無罪を証明できる証拠を見つけようと丁寧に書類を調べて検察の改ざんを見つけるなど、万が一冤罪事件に巻き込まれた時に約に立ちそうなお話も多数。(もちろん一生使いたくない知識だけど)
    自分の行動を日記や記録で残しておくことも大事。(もちろん一生以下略)

    後半は自分のキャリア全体の振り返り。

    「女性が働くということ」を考えさせられた。

    男性と同じ条件で入社しても「女性だから」という理由だけで最初の仕事として「お茶くみ」を言い渡されたこと。(朝と15時に30人分のお茶を入れる)
    それでも「新人のうちから色々な人と話をする機会になった」とポジティブに捉え、でも「後に続く女性達の悪いモデルにならないように」と考え(決して喧嘩腰にはならずに)お茶汲みポジションを手放されていったこともユーモラスに描かれている。

    女性のための椅子がない社会の中で、彼女のような先輩方が血の滲む努力で獲得していってくれた椅子のお陰で、私達は「能力があれば男性と同等に扱われる」ようになってきた。(ただし業界による)

    まだまだ管理職の椅子は少なく、おじいちゃん世代の「女は家庭」「女性の社会進出が少子化の原因」という認識も根強い。妊娠・出産によるマミートラックも当たり前に存在する。令和になっても医学部の点差問題などが出てくるのが現在の日本。

    行き過ぎたフェミ発言を見かけて辟易とすることは私にもある。それでも私達が声を上げるのは「後に続く後輩に、自分と同じ思いをさせたくない」からだと思う。

  • 詳しく知らなかった筆者の冤罪事件について、前半に書かれている。後半は若干筆者の主観や伝聞が多いものの、誠実で納得の内容である。

  • 完璧を求める→スピード感☓
    閉鎖的な社会→外の状況に鈍感

    仕事の意義や目標を見失いがち→仕事の全体像を知る必要

  • 前半は郵便不正冤罪事件について、後半はキャリア官僚としてのの半生が書かれた自伝的な著作

    文章、構成がとても分かりやすく、著者がいろんな意味でとてもできた方であることがうかがわれる。こんな人が上司だったらいいなぁ。

    検察捜査のあり方の問題点、組織に属するが故の視野狭窄、ジェンダーの問題、障害者の問題幅広く書かれていている。

    ただ、厚生労働省の問題点についてはほとんど触れられていない。統計不正などが明らかになる前の著作ではあるものの、少し物足りなさは感じた。

  • この人は偉いわ。
    それにしても検察は酷すぎ。他の本でも検察の低能化がよく分かる。ここまでダメとは。

  • 元官僚の村木厚子さんが自身にふりかかったえん罪事件の経験を通して、繰り返される組織の不祥事や社会の歪みについて語った本。

    ミスを許さず、そしてミスを恐れて改善もせず突っ走ろうとする状況。これは硬直した組織に起こりやすい現象です。その行き着いた果てが昨今大きなニュースとなった不祥事の数々と言えます。

    本書は、検察の暴走によりえん罪にあった村木厚子さんが、えん罪事件での経験を通して組織の問題点を考察しています。

    また、えん罪事件の過程で見たり退官した後に知ったりした「社会の歪み」にどう対処すべきかについて、村木厚子さんなりの見解が書かれています。

  • ラジオで村木さんのインタビューを聞いたのが切っ掛けで読んだ本。なんというか、気負うところがなく自然体でいながら国家権力に屈っすることなく自分を貫く、真に強い人。多くの人が結果的にできていないのに。なんと言うか、本物。

    しかも、その後も自身の経験を前向きに捉え、単に評論家的に批判するのでなく、課題解決に向け行動される。

    官僚についての一章もあり、興味深い。官僚不祥事が相次ぐ中で、やはり国にとって官僚は大切であり、今後とも多くの有為な若者がこの道を目指すべく、多くの若者達に読んでほしい一冊です。

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著者プロフィール

村木厚子(むらき・あつこ)
1955年高知県生まれ。土佐高校、高知大学卒業。78年労働省(現厚生労働省)入省。女性政策、障がい者政策、働き方改革や子ども政策などに携わる。郵便不正事件で有印公文書偽造等の罪に問われ、逮捕・起訴されるも、2010年無罪が確定、復職。2013年から15年まで厚生労働事務次官を務め退官。現在は、津田塾大学や社会事業大学専門職大学院で客員教授を務めるほか、伊藤忠商事(株)、SOMPOホールディングス(株)および住友化学(株)の社外取締役を務める。また、累犯障がい者を支援する「共生社会を創る愛の基金」の顧問や、生きづらさを抱える少女・若年女性を支援する「若草プロジェクト」の代表呼びかけ人として、NPO活動に携わるとともに、住宅確保に困難を抱える者のための居住支援や農福連携の普及に携わっている。著書に、『日本型組織の病を考える』(角川新書)『あきらめない』(日経BP)などがある。

「2019年 『かっこいい福祉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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