この国の冷たさの正体

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  • Audible Studios (2018年8月26日発売)
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  • 精神科医・和田秀樹が日本社会に日本社会に蔓延する自己責任論の問題点とその背景について書きつづったもの。とはいえ専門的な調査に基づく体系的な分析などはなく、ほぼエッセイに近い。以前読み始めながらも冒頭、政治家が悪い地上波テレビが悪いと文化人にありがちな凡庸な批判ばかりだっためリタイア。

    しかし直近のニュースでのヤフコメで、生活保護のシンママに「もっと切り詰めろ」とか、ホス狂いでツケを返すために路上売春を繰り返す未成年の少女に「売る女がいるから買う男がいることの何が悪い」などあまりにもひどい自己責任論を多く目にしたため、この問題をもう一度考えたいと思い読み直してみた。

    日本ではパチンコ業界やソシャゲ業界を野放しにしておきながら、依存症に追いやられ食い物にされた人々を自己責任として切り捨てている。振り込め詐欺や闇バイトでも「だまされるほうが悪い」「引っかかるほうが悪い」と被害者に責を負わせようとする。また被害者も自分が悪かったと思い口を閉じてしまう。

    日本では生活保護要件水準にある人の受給率は20%を下回る。アメリカやドイツの60%以上と比較するとあまりにも低すぎる。自治体の担当者が渋っているのもあるが、貧困者が生活保護を受けることを恥と考え、周囲からも白眼視される風潮が強いためと考えられる。

    著者は自殺や過労死の多さに象徴される、日本人が自己を責め追い込むメンタリティが、社会的弱者の窮状を自己責任と冷たく突き放すことに繋がっていると考察する。そして読者に自分を責めるな、もっとゆるく生きていこうと呼びかける。

    いっぽうで日本はもっと子供のころから競争させ、エリート教育も積極的に行うべきとも主張する。人間は本来平等ではないのに平等意識を無理に植え付けるせいで、「自分はがんばっているんだから、あいつだってがんばれるはず」などと考えてしまうようになる。それでは持てる者こそ社会に貢献すべきという意識(ノブレス・オブリージュ)が醸成されない。

    昨今、ようやく世間でも「自己責任は思考停止ワードだ」というような批判も少しずつではあるが見かけるようになった。
    自分の言動も日々省みつつ、自己責任を声高に叫ぶ人こそ恥ずかしいと思われるような社会に日本が移行しつつあることに希望を持ちたい。

  •  ここ10数年で日本社会は一変。企業が年功序列や終身雇用をやめ、福祉の一翼を担っていた役割を放棄し、非正規雇用は4割を超えた。小泉純一郎の悪政の結果と思います。これほどの悪政は自民党の歴史でかつてなかったのでは。それが、この国のえもいわれぬ冷たさを。弱者を見ても、見て見ぬふりを。「助けて」と言えない社会に。おかしな自己責任がまかり通る社会に。なんとか、日本人らしい「あたたかみ」のある社会に戻って欲しいです。観光の観点では、日本の清潔さ、几帳面さ、思いやりなどが評価されているようですが!

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著者プロフィール

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、高齢者専門の総合病院である浴風会病院の精神科を経て、高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わっている。
主な著書に、『80代から認知症はフツー』(興陽館)、『病気の壁』(興陽館)、『70代で死ぬ人、80代でも元気な人』(マガジンハウス)、『80歳の壁』(幻冬舎)、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社)、『老いの品格』(PHP)などがある。

「2024年 『死ぬまでひとり暮らし』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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