国語教育の危機 ──大学入学共通テストと新学習指導要領 (ちくま新書) [Kindle]

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  • 大いなる岩を穿【うが】ちて豊かなり水しんしんと滝壺【つぼ】に入る  
     小松カヅ子

     新型コロナウイルスの感染にかかわる情勢を考慮し、日本社会文学会春季大会が開催見合わせとなった。テーマは、「文学教育の未来―教育統制を問う―」というホットな話題であっただけに、残念である。

     まだまだ先の話と油断していたが、高校では、新学習指導要領のもと、2022年から新たな教科書が使われる。1年生の必修科目「現代の国語」と「言語文化」である。その学年が2年生に上がると、「論理国語」「文学国語」「国語表現」「古典探究」から複数選択することとなるが、「論理国語」か「文学国語」か、となると、おそらく多くの高校が「論理国語」を選択するのだろう。

     この国語教育改革や入試改革について、日本大教授の紅野謙介は、早くから警鐘を鳴らしてきた。若い世代が文学作品を「読む」機会が壊されてしまうのではないか、と。
    掲出歌は、新学習指導要領の課題に応えるために作られたサンプル問題から引いた。短歌をめぐる複合型の問題で、長い問題文は本書で確かめていただきたいが、斎藤茂吉の著名歌

     死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはづ天に聞ゆる
       斎藤茂吉

    の「しんしんと」との比較などが問われ、受験生には難問と思われた。私も、即答には自信がない。待ったなしの教育改革だが、「改悪」となることだけは避けてほしいと願う。
    (2020年7月12日掲載)

  •  現在進行形の国語教育改革に対するストレートな批判書である。大学共通テストにむけて行われた試行問題がいかに国語教育にふさわしくないものであるかをいちいち実例を挙げて述べている。かなり手厳しい批評がある。
     基本的に筆者の意見には賛成だ。今回の改革は深い学びをすることを目指したものと言いながら、実際は多くの資料を情報と位置づけ、それらを短時間で通覧して解答を見つけさせることを目指している。少なくとも共通テストを見る限りそう言える。そしてこうした能力はやがてAIなどによって代替される機械的作業である。
     いま求められる国語力とは、自分の考えを深めるために他人の意見を受け止める力であり、また自分の考えも多くある視点の一つであるということを見通す俯瞰的な能力ではないか。中学や高校の国語の授業が、そういう能力を目指すものにならなければ母語の真の実力は向上しない。大学入学試験はそれを促す内容でなくてはならない。
     筆者が危機という現状を我々は受け止め、情報処理ではない国語教育を目指す必要があると感じた。

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著者プロフィール

1956年東京都生まれ。早稲田大学大学院文学研究科博士課程中退。日本大学文理学部特任教授。専攻は日本近代文学。著書に『書物の近代』(ちくま学芸文庫、1999)、『投機としての文学』(新曜社、2003)、『検閲と文学』(河出ブックス、2009)、『物語岩波書店百年史1 「教養」の誕生』(岩波書店、2013)、『国語教育の危機 大学入学共通テストと新学習指導要領』(ちくま新書、2018)、『国語教育 混迷する改革』(ちくま新書、2020)など。

「2022年 『職業としての大学人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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