宿借りの星 (創元日本SF叢書) [Kindle]

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  • 東京創元社
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感想・レビュー・書評

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  • 人類以外が住む完全な「異世界」を構築する小説はいくつかある。物理法則や数学すら、実在世界と異なる描写をしたイーガンのような作品もあれば、描くキャラを人類以外にした小説も多々ある。その中でも、同作はかなりの難物ともいえる作品ではないかなと思う。
    まず、造語の多さには面食らう。解説では「親切で意味が分からなくなるということはない」という趣旨のことが書いてある。漢字をベースとして、表意文字としての漢字の利点を使っているからということなのだけども……。
    これは、想定読者がSF読み、相当の活字読みであることをだけを想定しているのではないかと思う。冒頭から造語の密度が濃い。スキューバーの初心者がいきなり深い海(宇視)に引きずりこまれるようなもので、ここで、ギブッアップする人多数だろう。というか、読まない。読むのを諦める。試しに読書経験が少ないとはいえない弟に見せたけど読む気がしないという。それだけ壁が高い。
    ただ、面白くないということではない。面白い。抜群に面白い。だけでもその「面白さ」を感じる自分を一般化できるのか? という点で、素直に疑問を持てる作品で、絶対に普通に面白いと思う人は少ないだろうと思う。造語の雰囲気、固有名詞の雰囲気はどこか東洋哲学的であり、時代小説的である。
    既視感を得るのは、夢枕獏先生の作品にある造語に似た感じがあったからかもしれない。自分にそのような読書経験が無ければ、造語を受け容れられたかどうか分からない。
    解説に書いてあるような、親切で優しいという感じは自分にはもてない。
    しかし、凄まじい。世界設定が凄い。創造力が凄い。
    この作者の創造した世界、物語の先を見たくなり、読み通続けてしまう。でも、それは一部の狭い範囲の人ではないかと思う。
    読書が趣味ではなく、ほとんど「競技」のレベルで技術を求められるような高さでないと厳しいかもしれない。
    人のどんな行動にも技術の高低はある。
    で、読書技術、経験の低い人には、この本は厳しい。読書能力が高いといって自慢できるわけでもなく、単に「暇人」であるか、何にその人が時間を割いてきたことの割合の差にしかすぎない。
    でもって、この作品を面白いと感じる自分は、感性が袋小路に入っているのかもしれないと危惧を感じるくらいだた。創作するにあたり、影響を受けて、このような方向に進むこともあるかもしれない。でも、それは自分で架空世界を架空生物を架空社会を構築する面白さがあっても、読んで理解してもらうべく努力は、面白さになんら繋がらず、苦役になり放置してしまいそうになるだろうと思う。
    創作の麻薬だ。
    「SFがアカンことになった」という声があるけど、もろにその対象になるような、SF読みもその中の特にマニアックな層に向け書かれた様な物語であることは確か。
    ただ、使われているアイデアは古典的な物を上手く見せているので、それほど斬新ではないとは思う。ただ、世界構築の精緻さ、視覚的描写力が滅茶苦茶に迫力があり、嵌ってしまう人ははまってしまうだろう。けども、自分の創作でこの方向を目指してしまうとちょっとやばいという作品でした。

  • 視点が人じゃないだけに、正直出だしで挫けそうになる。。逆に言うと、人ではない者を主体にこれだけ色鮮やかに、そして、きめ細かく情景や挙動を表現できるものなのかと後になって感心してしまう。。何というか、アートとしての完成度はずば抜けてるな、、という印象を受けた。

    かといって、いつまでも小難しい繊細な書き方で進んでいくわけではなく、途中から徐々に読みやすさも増して、また、なぜか情景もイメージしやすくなる。
    それに伴って、ストーリーもすっと頭に入ってきて、主人公マガンダラの生活や変化、その後の展開がどうなるのだろう?と、素直に楽しめた物語だった。

    ただ、最後があまりにも急展開すぎたせいか、真実が明かされるところも理解が追いつかず、そうなると収束の仕方も、?となってしまうところが少し残念だと思った。

    おそらく人によって好き嫌いが別れやすいスタイルかな、と思うが個人的にはこんな話の作り方もあるのか、と新たな発見ができた作品だった。

  • 素晴らしい作品だった。

    冒頭で用語の難しさに面食らったものの、すぐ世界観に入ることができ、最後まで一気にページをめくることができた。

    異星系に異なる生態系と文化系を構築してしまうことの手法、しかもそれが文学的な(つまり文字ならではの効果を用いて)方法で行われていることに舌を巻く。とともに、単語の選び方とかにも可笑しみがあり、親しみやすい。

    やくざ組織的なモチーフなのも、しかしそれは社会集団の本質であることから、むしろこれこそが正解と思わされた。

    昆虫的というか、ある種グロテスクな種蘇具たちの描写が続き、人間世界とは決定的に異なる価値観体系であることがこれでもかと描写されつつ、過去に人間との構想があったことが描かれ、「人間はどうなってしまったのか?」という興味を惹かれる。

    その上で、種蘇具たちの世界が人間的文化、人間的常識に知らず侵食されていく様子は、冒頭の文化的差異があったからこそ、描写描写のリアリティを際立てていた。この描写が素晴らしかった。

    それは外形的な世界観描写に留まらず、自由意志や自己の成立性への自問自答も含めて、『るん(笑)』の著者ならではの深みがあった。

    中盤に挿入される「海」で、深海から気の遠くなるような生態系の連鎖を経てついに種蘇具にたどり着く様子も、長い進化を思わせるような壮大さがあり、かつ、それが過去の歴史と重畳して語られていて圧巻だった。この「海」だけでもものすごい読みごたえがある。

    こうしてみると相対的には、物語のプロットや「謎」はそこまで起伏のある者、スピード感のあるものではなかったかもしれないが、世界観描写だけで十分に最後まで楽しませてくれる一冊だった。

    最終版で惑星の秘密が明らかになるところは一気に宇宙SFになり、若干駆け足感はあったものの、圧倒的スケールがあり悪くはなかったと思う。

    ここまで圧倒的な「世界」を作れるのか、ということの参考になった。

  • 奇妙な造語の連発に面食らったが、独自の世界をゴリゴリと作っていく感じは良い。全体的に冗長で展開が遅いと感じた。虫が苦手な人にはオススメしない。

  • むちゃくちゃおもしろかった…!節足動物に似た(?)異質な系統樹の生物を視点に展開するアウトロー小説とでも言ったらいいのか、極彩色の生態系と文明の描写に目を奪われているうちに読み終わっていた。ファンタジーを読んでいる時の楽しみに近かった(無理にジャンル分けする必要もないんだろうけど)

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