潔白 (幻冬舎文庫) [Kindle]

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  • 日本には、(真の意味での)三権分立は存在しない、とよく言われる。本来行政(内閣)を監視すべき立場にある立法府(国会)がその役割を果たしていないことは、日頃ニュースを見ているだけでも容易にわかるだろう。
    そして、さらに高い独立性を求められるのが、司法である。司法と言っても、その中には、検察があり裁判所がある。容疑者を取り調べ、起訴する権限を持つ検察当局は、ある意味で裁判官よりも高い独立性が求められるようにも思う。
    だが、現実には、うわべの独立性を取り繕うばかりで、「三権分立」は形式上存在はするが、正しく機能していない。そんな有様を、検察を中心として冤罪事件を扱うことで、みごとに描き出して見せたのが本作である。

    『潔白』はフィクションだが、リアリティにあふれている。時に有名な「袴田事件」など、実在の冤罪事件も物差しとして用いて、検察が決しておのが組織の誤りを認めることなく、ただただ自己保身に走るさまを鋭い筆致で浮き彫りにする。リアリティの源泉は実在の冤罪事件を織り込んでいるからでもあろうが、本作で描かれている物語が、日常見聞きするニュースの内容と肌感覚として合致する内容であるところにあるのではないだろうか。
    そう思いながら読むと、ひとたび保身に走りだした検察という組織が、瞬く間に遵法精神などかなぐり捨てて、自分たちの書いたシナリオに事実を歪曲させていく様子は、リアリティを伴っているだけに怒りが込み上げてくる。

    検察も官僚組織の一つとして、政治の影響を受ける。特捜と呼ばれる組織は、本来そうした政治の世界にいる人たちを捜査する権限を持ち、畢竟彼らを逮捕し、起訴することもできる。過去には、いくつかの有名な疑獄事件で検察が権限を揮ったこともあった。しかし、政治の側も(ある意味では検察以上に)自己保身に必死なので、人事権を掌握したりして圧力をかけ、検察の捜査権限の無効化を試みる。その成れの果ては「忖度」である。
    だが、そうしたスキームによって恩恵を蒙るのは、行政を牛耳っている政権与党ばかりである。一般市民が死刑判決を受けた事件において、再審請求をして冤罪を勝ち取るには、ゴジラに素手で立ち向かい倒すほどの覚悟と努力が必要である。もちろん、時間もかかる。
    そうした不条理が、わが身のすぐ近くでいつでも起こりうることを本作は教えてくれる。ひとたび有罪判決を受けてしまえば、その冤罪を晴らすことがいかに困難なことかを痛感させられることとなる。そこにあるのは、まさに日本の「闇」だ。
    冤罪事件を扱う作品ゆえに、真犯人は存在する。だが、本作が読者を牽引するのは、「いったい真の犯人は誰なのか?」といったことではない。きっと多くの読者は、共感してくれるであろう。
    一見してエリートばかりが集うと思われている検察組織において、日常的に行われている裏側を垣間見る「怖いもの見たさ」こそ、本作の読みどころだと思う。本作のような良作を、多くの人が読み、もはや形式でしかない「三権分立」の成れの果てを知り、行政(政治)とそれを監視するふりをして癒着する立法・行政という、日本式エセ民主主義の現実を知ることになれば良いのに、と願わずにいられない。

  • 面白くて一気読み。
    検察と裁判所の馴れ合いには、こんな事が実際にない事を願うばかりです。(実際はあるのか?)
    娘の亡き父の無罪を晴らそうとする執念と父の無念が、悔しすぎて涙が出た。最後の新犯人にはびっくりさせられた。

  • 『消された文書』がなかなか良かったので本書も手に取ってみる。北海道を舞台に、無実を訴えながら再審請求中に死刑が執行されてしまった父親の無実を証明すべく、再審など絶対に棄却したい司法(検察と裁判所)と戦う娘。検察側でも個人的には悩みつつも組織の論理に飲み込まれてしまう検察官が描かれる。焦点はDNA型鑑定の不確からしさ。検察(官僚)の態度が分かり易すぎて、非常に強い現実感。冤罪死刑が執行されてしまった後だけに、どうしたってハッピーエンドとは言い切れないけれど、主人公が新しい人生を踏み出せるようになって○。

  • 青木俊の作品を初めて読んだ。上智大学卒業後にテレビ東京に入社。55歳で独立し作家デビューをする。リアリティのある描写は圧巻である。
    人は、実際に起きてはいないが、起きうることを想定することがある。しかし、あくまで想定なので細かいところまでは想像力が及ばない。そこを見事に補ってくれるリアリティのある作品、まるで事実のように描かれた本作のようなミステリは傑作である。
    さらに、強いメッセージ性があると望ましい。それは「想像力の欠如への警鐘」となることが多い。
    本作への私の評価は以下の通り。
    ①ストーリー展開★5
    読者を引き込むストーリーと一気に読ませるテンポの良い文章が素晴らしい。
    ②メッセージ性★5
    司法や死刑に対する強いメッセージをその中に折り込む筆力は極めて高い。
    再び読みたい傑作であった。

  • 裁判や捜査に関する用語がおおいので、実際のページ数よりもボリューミーに感じましたが、結局260ページほどしかないので展開自体は早く、気付いたら終わっていました。

  • 無実を訴え続けていた死刑囚の刑が執行された。
    残された娘は父の無実を信じ続ける。

    有罪とされた証拠は捏造されたものだったのか???

    真実を明らかにしようとするけど
    何としても隠蔽しようとする検察側。

    この小説はフィクションだけど
    今の日本では、権力のもとにこういったことが行われているんだろうなと思わざるを得ない。
    と、現実と重ねて苦々しい思いで読んだ。

  • フィクションだけれど、ある日突然、自分が巻き込まれないという保証はないという恐怖と、
    そうなった場合に翻すことの難しさに、絶望を感じる……そんな怖さがじわじわきました。

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