[まとめ買い] アリストテレス 生物学の創造 [Kindle]

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  • 「科学道100冊2020」の1冊。

    原題は"The Lagoon - How Aristotle Invented Science"
    lagoonとは潟湖(狭い水道によって外界と切り離された内海)を指す。
    アリストテレスは、紀元前344年にレスボス島に移り住み、この地で2年暮らした。レスボス島の中央部には現在カロニ湾と呼ばれる潟湖があり、多数の生物が住んでいた。栄養豊富な水辺には多くのプランクトンが漂い、さまざまな魚介が集まり、それを餌とする鳥類も集った。
    アリストテレスが生物に学問的興味を抱くようになったのは、この地で暮らしたことが大きい。

    本書の著者は進化発生生物学者である。
    進化・発生の研究者の視点から、アリストテレスがどのように生物学を構想し、形作ってきたのかを紐解いていく。
    『動物誌』を中心に、アリストテレスの記述にも触れ、解説を加える。
    それはさながら、アリストテレスの眼を通して生き物を見詰めなおし、タイムスリップして生物学が産声を上げた場に立ち会うかのような試みである。

    『動物誌』では数多くの動物が取り上げられる。外見の観察に加え、解剖学的な知見も記載される。そのすべてが正しいわけではなく、明らかな誤りもある。アリストテレス自らが観察し、記録したものばかりでもなく、伝聞と考えられるものも混じる。玉石混淆ではあるのだが、幅広く、さまざまな生物種を学問的に記述しようとした姿勢には圧倒される。

    アリストテレスの生物学は、その哲学と地続きである。その背後には「神」の存在がちらつく。
    アリストテレスが捉えた生物学的プロセスは、(i)栄養システム、(ii)体温調節サイクル、(iii)知覚・反応システム、(iv)エピジェネティック過程、(v)遺伝システムと個々の事象自体は機械論的だ。だがこれらを総合すると動的構造となり、「霊魂」を宿すものとなる。うーん、霊魂かぁ・・・と唸ってしまうところだが、しかし、現在もなお、認知機能はブラックボックスのままなのである。

    近現代の実験生物学は、どちらかといえば、1つの遺伝子の働きや、複数の遺伝子が次々に働くカスケードの解析を個々に行ってきた。だがビッグデータの時代となり、こうしたスタイルではもはやデータの数に追いつかない。大量のデータを包括的に解析するオミクス(ome(網羅的)+-ics(学問))(ゲノムを解析するゲノミクス、タンパク質を解析するプロテオミクスなど)の時代に入ってきている。
    手に入るデータをことごとく集め、それらを何らかの分類によって整理し、その構造を可視化する。そして因果モデルを推論する。
    著者によれば、これはまさにアリストテレスの手法なのだという。
    生物学は、1周回って、アリストテレスの生物学に戻りつつあるのか。アリストテレスがそれだけ大きな思想家であったということか。

    アリストテレスは異種交配から新種が生まれる可能性についても述べており、進化論の萌芽のようなものもあったようである。
    科学革命以来、忘れ去られていたに近いアリストテレスだが、著者はダーウィンやリンネにも比肩する存在と論じる。

    表紙絵は伊藤若冲<動植綵絵>の「貝甲図」。絶妙な選択である。

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著者プロフィール

インペリアル・カレッジ・ロンドン、進化発生生物学教授。1964年、ニュージーランド、ウェリントン生まれ。国籍はオランダ。ニュージーランド、南アフリカ、カナダで幼少年期を過ごす。ダルハウジー大学(ハリファックス、カナダ)で学士号を取得後、カリフォルニア大学アーバイン校(アメリカ)で博士号を取得。マイケル・ローズ博士のもとでショウジョウバエを対象に老化の進化生物学研究に携わる。ついでアルバート・アインシュタイン医科大学のスコット・エモンズ博士のもとでポストドクトラル・フェローを勤め、線虫の成長の研究を始める。1996年からインペリアル・カレッジ・ロンドンで講師、2001年から進化発生生物学部門リーダーを務める。

「2019年 『アリストテレス 生物学の創造 下』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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