それでも、僕は前に進むことにした それでも、生きろ! (双葉文庫) [Kindle]

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  • p72
    セカンドオピニオンに期待して歩き回ることに疲れ果て、一人苦悩を抱え込むことに限界を感じた土曜日の夕刻、西日が射す一人暮らしのアパートでぼんやりと窓の外を眺めながら両親を思った。

    p80
    いつか、自分の顔さえ見ることができなくなる。自分の顔を見られなくなったとき、人はどうやって自分という存在を確認するのだろうか。考えだすとズルズルと深い闇に引きずり込まれ、自分で自分をコントロールできなくなってしまう。

    p90
    視力を失っても、豆を挽く音とコーヒーの香りまで奪われることはないんだよな。

    p128
    こうして、カフェでゆっくりコーヒーを飲むのも久しぶりだった。いつ、どこにいても、これからのことが不安過ぎて、時間の流れに身を任すことができなかった。

    p140
    光を失う恐怖と不安は一人で背負うには重すぎる。このままでは間違いなく精神的限界がやってくるだろう。強がっている場合ではないのかもしれない。
    迷いに迷うこと一週間、覚悟を決めて国立障害者リハビリテーションセンターに予約の電話を入れた。

    p143
    「岡本さん、大丈夫ですよ。生きたいように生きていけますから」

    p145
    「岡本さん、確かにあなたは視力を失うかもしれません。見えなくなれば、いままで当たり前にできていたことができなくなるでしょう。一人でできないことが増えていくのも事実です。それでも、あなたは、あなたの人生を生きるしかないんですよ。あなたのやり方で、あなたの生き方で」
    そう言いながら勘太郎の目を正面からしっかり見た。

    p147
    「はい。伴走者は、障害者がかわいそうだからとか、一人じゃ大変だから助けてあげようなんてことは、これっぽっちも思ってません。伴走者自身が一緒に走ることを楽しんでいますし、自身の可能性を伸ばすことができるとわかっているから多くの人が自ら伴走を買って出るんですよ」

    p150
    「自分の力ではどうにもならないことにエネルギーを使うより、自分の努力で変えられることにエネルギーを使った方がいいでしょ。岡本さん、あなたの周りには、自分の力で前に進もうとするあなたを支えてくれる人がいくらでもいるんじゃないですか?」

    「現実を受け入れるのは、そう簡単なことではありません。無理して受け入れる必要もないでしょう。ただ、厳しい現実から目を逸らないことはとっても大切です。それができなければ、はじめの一歩を踏み出すこともできませんからね。

    p160
    「できなくなることを数えて暮らしても切なくなるだけですから。見えなくても何とかなるくらいの気持ちでいることが大切だと思います。実際に、私も何とかなっていますしね。それから、もうひとつ。何でも自分一人でやろうと思わないことです。誰かに頼ればいいんですよ。できなことは」

    p161
    「〜でも、手を貸してください、サポートお願いしますって自分から声を掛けると、案外、喜んでた助けてくれるものですよ」

    「はい、自分からです。閉じられた扉の前で、開くまでじっと待っているのと、開けてくださいって叫ぶのと、どっちが早く中にはいれますか?」
    「早く入った方がいいでしょ。それに、正面からだろうが、裏口からだろうが、入ってしまえばこっちのものですから」
    そう言うと、大沢は、また可笑しそうに笑った。

    p162
    「見えなくても、できることは意外とありますから、自分で限界を決めないことです。決めつけてもいいことはありませんからね」

    p271
    「オレ、告知されるまで、白杖をついて歩いてる人に気づかなかったんだ。でも、最近、よく見かけるんだよね。駅でも、街の中でも、いろんなところで。いままでもいたんだろうけど、見ようとしていなかったから目に入らなかったんだと思うんだ」

    p298
    「もし、見えなくなったお前がすげーCM作ってみろよ。みんな驚くぞ。見えないのにCM作れるんですかって。そしたら、言ってやればいいんだ。見えませんけど、それがどうかしましたかって」

    p302
    「Ready?」のオンエアを観て、見える見えないで判断しようとしていた自分を恥じたことなど、オザワは、勘太郎に声を掛けるまでの経緯を包み隠さず話してくれた。

    p308
    「そっか。お前がいなくなるとさびしくなるな」

    p309
    「〜それより、お前さあ、目が見えなくなっても縮こまったりするなよ。お前らしいCMを作り続けるんだぞ。楽しみにしているからさ」

    p310
    「それから、何かあったら俺のこと思い出してくれてもいいから」

    p313
    オレは一生忘れないだろう。白杖を持ってはじめて街を歩いたこの日のことを。身も心もプライドも、何もかもがズタズタになるほどつらく悲しかったここの日のことを決して忘れることはないだろう。

  • CMのクリエイターをめざす勘太が、病気になり徐々に失明する運命を知らされる。
    所詮、私が失明の危機にさらされているわけではないので、勘太の気持ちを十分に理解することは無理かもしれないが、自分がガン宣告を受けたときを思い出した。
    「なんで自分が」と悔しかったり、友達や会社には報告できても、親に報告するときにつらかったりしたのは勘太と同じだった。
    勘太のように病に侵されるという大きな事件がなくとも、人はなんとか自分でもがいて頑張れるっていうことと、頑張っていれば必ず協力してくれる人が現れるということがテーマになっていると思う。元気をもらえるお話。

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著者プロフィール

こかじさら
1958年千葉県生まれ。中央大学専門職大学院国際会計研究科修士課程修了。
出版社勤務を経て2016年『アレー! 行け、ニッポンの女たち』講談社刊(『負けるな、届け!』として文庫化)でデビュー。著書に、『それでも、僕は前に進むことにした』『彼女が私を惑わせる』共に双葉文庫など。2019年9月、現代ビジネスに両親の介護生活を描いた記事を掲載し、大きな反響を呼んだ。

「2022年 『寿命が尽きるか、金が尽きるか、それが問題だ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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