錯視。
同じ色なのに、違って見える。
同じ長さなのに、違って見える。
不可避的で、不思議な知覚の錯覚。
同様に、人には認知の錯覚がある。
「部下(生徒)を褒めて伸ばすだなんてとんでもない!
あいつら、ちょっと褒めればつけあがって失敗するし、
ガツンと叱り飛ばしてやれば反省して成長するんですよ!」
「事実としてね、いつも60点の奴がいるとするでしょ。
こいつが90点取ったからって褒めたらどうなると思います?
すぐ60点に逆戻りですよ。
逆に、30点のときは、どやしつけてやれば反省して60点に持ち直すんですよ。」
「つまりね、事実として叱り飛ばす方が成果を出すし、奴らも成長できるんですよ。
罰に力をいれることがマネジメント(教育)では重要なんです!」
確かに。
実力以上の結果を褒めると、その次の成績は下落する可能性が高い。
実力以下の結果に対して罰を与えると、次は改善する可能性が高い。
だが、実はこの結果は賞罰とは関係がない。
いわゆる『平均への回帰(phenomenon of regression to mean)』と呼ばれるものだ。
つまり、実力が60点であろうとも、常に60点ジャストではなく、
実力以上(90点)や実力以下(30点)の結果がでることはある。
しかし、長期的に見れば、結果の平均値は実力(60点)へと収束していく。
ゆえに実力以下(30点)の次には点数が上がる可能性が高い。
同様に、実力以上(90点)の次は点数が下がる可能性が高い。
突出した結果の次であれば尚更である。
さらに、もう1例。
アメリカの高校生100万人を対象にした調査では、
自分のリーダーシップ能力が平均以上と思う生徒が約70万人(70%)だそうだ。
平均以下と答えた生徒に至っては、たった2%だという。
生徒はまだ未熟で、自分や世界のことがまだよくわかっていないからだろうか?
というわけで、教師の方に聞いてみたところ
自分は平均より仕事を立派にこなしているという人が94%に達したとか。
日々、私たちも似たような認識の錯覚をしているはず。。。(笑)
人は、このような認知上の錯覚によくおそわれる。
選好の逆転、時間選好、保有効果、アンカリング効果、現状維持バイアス、コンコルドの誤謬、勝者の呪い、利用可能性バイアス、少数の法則、後知恵バイアス、事前確率の無視、フレーミング、損失回避、後悔の回避、省略の誤り、確実性効果、支配の錯覚、、、枚挙に遑がない。
直感や感情は、人類が得た素晴らしい恵みであるが、いたるところに罠と限界も横たわっている。
結論があまりに瞬時かつ強い確信を持って得られるため、
理性的でより精巧な結論に対し、強い抵抗や嫌悪感を覚える
(一理あると思えど、身体は「そうじゃない!」と熱く叫んで抵抗する)ほどだ。
Economia Emotiva(感情的な経済)とは、つまり、そういうことなのだろう。