甲の薬は乙の毒 薬剤師・毒島花織の名推理 (宝島社文庫) [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 薬剤師に対するイメージ――あるいは、調剤薬局へのイメージと言ってもよい――は、おそらく病院で出された処方箋にしたがって薬を出してくれるところという人が大半だろう。私もそうである。処方箋通り、誤りなく薬を揃えて渡してくれる場所としか考えていなかった。
    だから、『薬も過ぎれば毒となる』と題された一作目を読み始めたとき、本シリーズに冠された『薬剤師・毒島花織の名推理』というサブタイトルを見て、いったい何を推理するのだろう、と疑問を持った読者も多いのではないかと思う。
    私を含むそのような読者に、本作はある意味で重要な示唆を与えてくれる。一作目のタイトル然り、本作のタイトル『甲の薬は乙の毒』もまたそうであるが、薬とは毒にもなるし、元来治療の助けとして使われるべき薬が人を死に至らしめることもある。こうした様々な薬の効用が丁寧に説明されると同時に、その負の側面である副作用や使われるシーンによっては却って負の効果をもたらすということまで、本作は教えてくれる。

    小説を読む愉しみは、その物語自体から得られるカタルシスに由来する。この原則を満たしてない小説は、本質的に「面白くない」とか「つまらない」といった評価をされてしまう。だが、その物語が持つ面白さを備えていることを前提として、さらなる付加価値ともいうべきものを得られることがある。
    ときに、小説は、物語であると同時に百科事典としての側面を持つことがある。『薬剤師・毒島花織の名推理』シリーズもそうである。病気などで医師の世話になったことのない人はほぼいないだろう。まして、市販薬を含めれば、薬を飲んだことのない人など皆無である。これほど身近にありながら、実はよくその内容を知らないものの代表格こそ「薬」ではないだろうか。
    それを身近に起きた小さな事件や出来事、あるいは感じた違和感から、薬に対する博識を基に推理が展開される。読者は、その推理を楽しむと同時に、これまで知らなかった薬の作用も学ぶことができる仕掛けになっている。

    例えば、どうして認知症の治療薬がなくなるのか? その薬が持つ効用を知っていなければ、その謎には辿りつけない。そもそも、なぜ薬というものが、人間の体に生じるさまざまな症状を緩和したり、快癒させることができるのか? 風邪をひけば風邪薬を飲むし、頭が痛ければ頭痛薬を飲む。花粉症などの症状が出たら、鼻炎薬などを飲むだろう。けれども、それが体内でどのように作用して症状を緩和するのかなど考えない。市販薬の箱に「かぜ薬」と書いてあるとか、医師の処方箋に書かれていた薬だから、という程度の根拠しかない。しかし、そこに疑問を覚えることは、日常ではまずないだろう。
    本作で起きる事件は、日常にあるほんの小さな違和感をすくい上げたものに過ぎない。だが、薬というものを中心として、その事件が解決される様は、大きなドラマとなってゆく。薬が持つ作用について、科学的に分析し、その結果を踏まえて導き出される解決編は、知らなかった知識であるだけに、思わず「なるほど」と唸ってしまうほどドラマティックだ。そして、それゆえに、小さな事件は大きなカタルシスをもたらすことにもなる。

    『薬剤師・毒島花織の名推理』はこれまで長々と述べたように、様々な薬の効用や危険な側面を見事に説明してくれ、かつそれをささやかだがとても楽しい物語に昇華させている。同時に、この物語は、ともするとスポットライトなどまず当たらないであろう薬剤師や調剤薬局が置かれている現状にも言及する。
    調剤薬局で、「たかだか処方箋に書かれた薬を揃えるだけなのに、どうしてこうも待たされるのだ?」とイラついた経験はないであろうか? この物語は、ともすれば表から見える部分だけを見て、このようなことでイラついてしまう者(当然、私自身もここに含まれる)に薬剤師という職業のすべてを赤裸々に披歴する物語でもある。
    身近な題材で軽く読める小説であるが、得られるものは大きい。ときには、付け焼刃で得た知識が粉砕されることもある。薬に由来する物語であるだけに、根拠も科学的である。ゆえに、反論できる余地はなく、むしろ新たな知識に開眼することになる。こうして得た知識のいくつかは、きっといつか読んだ者の役に立つことだろう。

  • 今薬局では、眼科のでドライアイの目薬をもらうだけでも、とても丁寧な聞き取りをされる。ただ、それをこれまで不快に感じたことはない。
    そもそも処方箋に病名が記されていないことすら私は気づかなかった。でも、そういえば一度眼科で目のかゆみを訴えてアレルギーの目薬を追加で処方してもらった時に「目のかゆみがあるのですか?」と薬剤師さんに聞かれたなぁ…
    処方箋から病名を推察して、聞き取る必要のある症状を本人に確認しながら、薬の説明をする…そこまでしてもらっていたんだと、この小説を読まないと知らないままだった薬剤師さんの仕事に妙に感じ入った。

    どんな仕事にもさまざまな苦難があって、そうでない人から見たらそんな些細なこと…?と思うようなことにも、心を砕いて丁寧に取り組まれていることを知らなければいけないと感じた。

  • 水尾爽太は調剤薬局に勤める薬剤師の毒島さんと近づきたいと思っているが、毒島さんは爽太の気持ちに全然気が付いていない。薬に興味があるので自分に聞いてくると思っているようだ。爽太と毒島さんの仲はどうなるのだろうか?

  • 前作で問題になっていた近所の医師は悪行が報道され診療所を閉める
    馬場さんのアシストでデートにこぎ着け、ホテル代未払いの男がレイプドラッグをつかって同僚を手に掛けようとしていたところを止める
    方波見さんの旦那さんは胃がんを見逃して胃の大半を切除。専業主婦になる。

  • 甲乙つけがたい。。
    トリカブトとフグの毒を同時に摂取するとどうなるのかだけは実に興味深かった。。

  • 堅物薬剤師さんと岡惚れホテルマンの事件簿2
    なんとなく、作者の好みの女性なのかと邪推

  • 読み始めは「楽しいかも」と思いましたがだんだんダラけてきて、読む速度と集中力が低下しました。
    好みの小説ではなかったです。

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著者プロフィール

1962年、千葉県生まれ。第7回『このミステリーがすごい!』大賞・優秀賞を受賞、『毒殺魔の教室』にて2009年デビュー。

「2020年 『甲の薬は乙の毒 薬剤師・毒島花織の名推理』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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