破局 [Kindle]

著者 :
  • 河出書房新社
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感想・レビュー・書評

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  • 話自体は簡単に言ってしまえば、大学生のカップルが破局するまでの話。淡々と話が進みます。
    大学4年生の主人公。体を鍛え、母校でラグビーを教え、公務員試験を受け、それなりに性欲もあり、健全な大学生です。
    公務員試験が終わり、付き合い始めた子。最初は上手くいっていましたが、その子の性欲が異常に強くなっていき、最後は唐突に終わりを迎えます。冷静に合理的に物事を見ていたはずの主人公が急に壊れた印象です。

    帯や背表紙を見ないで読み始めたので、冒頭の描写から何のスポーツなのかサッパリわからず。帯を見てラグビーだったのかとわかりました。本書にラグビーという言葉が全然出てこなかったような、、、。
    感情の起伏を伴わない主人公目線の多くの描写にも感情移入ができず、だからなのか若干の読みづらさがありました。

    ただ、話自体はわかりやすく、重厚さもなく、数時間で読めます。
    若い作家さんの芥川賞受賞作。
    これが新しい感覚なのか、、、。

  • 空虚な小説を書くのはたやすいけれど、空虚を小説で書くのは非常に難しい。
    本作は、空虚を小説で書くという困難を果敢に引き受け、しかもほぼ達成しているように見受けられます。
    本書に出てくる主人公の大学生の内面は、空虚です。
    その空っぽな内面に、「常識」や「マナー」が満ち満ちているのですから恐ろしい。
    書名が示す通り、破局へと向かうのもむべなるかな。
    これは実に恐ろしい小説です。
    ストーリー自体は単純。
    主人公の大学生が、出身校のラグビー部での指導と、恋人とのセックスに明け暮れる。
    それだけ。
    ただ、当初は主人公がリードしていたセックスが、徐々に恋人主導になり、やがて支配されていく過程の描き方は見事というほかありません。
    この本筋に、ほとんどスパルタとしか言いようのない主人公のラグビー部での指導が重なりますから、読者は胸を搔き乱されます。
    著者がお気に入りという恋人との相合傘の場面や、かくれんぼの場面など、読みどころも満載。
    芥川賞にふさわしい傑作と言えましょう。
    それに、ここは是が非でも強調しておきたいのですが、文章が実に実に読みやすい。
    簡潔・平明なのはもちろん、リズムが心地良いから、すいすい読めるのです。
    難解な文章こそ高等なものと勘違いしている向きが意外に多いので、この際、はっきり申し上げたいのですが、そんなことは決してありません。
    だいたい読みやすい文章というのは、書こうと思って書けるものではないのです。
    自覚的な書き手は、読みやすい文章を書くために、地道に努力しています。
    本書の著者である遠野遥さんも、読みやすい文章を身に付けるため、夏目漱石を手本にしたそうです。
    「漱石の文体をコピーした後に、ちょっとずつ自分の個性を出していこうと。」
    と、文藝春秋の芥川賞受賞インタビューで語っています。
    恐らく、漱石の作品をひたすら写経したのではないでしょうか。
    努力の甲斐があったというものでしょう。
    自分も「こころ」とか「吾輩は猫である」をひたすら写経した時期がうんと若い時分にありますが、それでも読みやすい文章が身に付かなかったな。
    余計な話はいいとして、とにかく、本書は一部で論評されているような「軽い」小説ではありません。
    あまりに読みやすいため、一見、「軽い」小説に見えますが、そう感じる読者は、まんまと著者の術中にはまっているのではないでしょうか。
    この点、芥川賞選評で山田詠美が、遠野さんについて「この作者は、きっと、手練に見えない手練になる。」と指摘していたのが印象に残りました。
    ご一読あれ。

  • 本年の芥川賞受賞作。「新時代の虚無」という帯のコメントと筆者のビジュアルに興味を持って購入。読みやすいし、なんか芥川賞より直木賞の候補になりそうなお話。僕は古市憲寿の小説を読んだことがないからよくわからないけど、なんか主人公のキャラが古市さんその人にも似てる気がした。好きか嫌いかで言えば、まあ好きではない。もう世代が違うなあ、という印象もある。内面の苦悩を吐露する純文学の歴史からすると、とても遠いところにいる主人公に見える。でも、時代も設定も違うけれど、村上春樹のノルウェイの森を読んだときの感覚にも似ている。そうすると僕らの世代にもあったような話にも思う。主人公と膝のキャラクター設定は割と共感することも多かったけど、どうしても女性2人のキャラクターがよくわからなかった。どういう人物像なのかが想像できなかった。それがこの主人公を取り巻くこの小説の虚無といえばそうなのかもしれないが。同世代の人はどう読むのか、そこに興味はある。私はこの小説が芥川賞であることに対して、自分が小説に求めるものとはずれてきたんだなあとわかった。

  • 膝くんには共感できた。
    最後まで一気読み、させるよね。
    共感感動は別として。

  • 若い人の作品が読みたいと思って手を出し3時間で読み終わった。
    主人公が公務員を目指してる慶応大のラガーマンなのだと分かった辺りで。う、ぅーん…と遠い気持ちのまま読み進め、脈略の繋がりにあれ?とページを戻ったりしつつ、どのキャラのどの描写にも引き込まれる事なくあれ?と思ったら終わってしまい虚しい読了感。文章や構成が稚拙とかそういう問題ではない。何を読まされてるのかよく分からない気持ち、これが新時代なのか、参ったな。

  • この人は前作から注目していて、なんとなくタダモノではない空気を感じ、いつか世間的に大きな賞でもとるのかなと思っていたらもう二作目で芥川賞を獲ってしまった。
    ただ、個人的には前作『改良』の方が長さに見合ったテーマ性みたいなものがはっきり感じられて好みかな。
    今後にも期待です。

  • 主人公の男性の表情が最後まで想像できなかった。
    反対に、表情がちゃんと見えたのは漫才をやっていた友人。
    主人公は真面目で、公務員を目指し、ラグビー部の指導に熱を入れ、恋愛をし、自分なりの倫理観に基づき生きているように見える。
    でも、どうしても表情が見えないのだ。

  • P20
    インスタにカフェの写真を
    載せているような雰囲気の女
    --------
    新聞で読んだ
    作者の乾いた感じや
    受賞後の寄稿が川上未映子みたいに
    トボけた感があって
    興味が湧き読んでみた。
    評者も言っていたが
    主人公のいろんなものへの距離感が
    今風だと思う。
    芥川賞ということで
    読んでる最中、村上龍の
    『限りなく透明に近いブルー』を想起した。
    『限りなくの』の方がインパクトも
    質感もある。レベルも高い。
    読んでいて面白い。
    改めてすごい作品だと思った。
    でも先に書いたように感情の高まりは
    今の空気では無いのだろうと思う

    2023年10月25日追記
    朝刊でBACK-TICK櫻井の死を知る。
    いろんなことが頭をよぎるが
    記事の最後で目を見張った。
    長男は「芥川賞作家の遠野遥」。
    『文学キョーダイ‼』の奈倉と逢坂、
    姉弟と知らずラジオ出演を依頼した
    高橋源一郎の驚きもこのようだったろう。

  • もとラグビー部。いま公務員志望のストイックで合理的な男子大学生が語り手。
    どこまで意図的なのかわからない。
    ともかく、1ページに1回は笑った。

    その後じわじわと追いかけてくる、何か琴線に触れるものの正体をつかみかねている。例えば昆虫。

    単純な生き物ほど論理的である(新自由主義とか聞くと、虫を思い出してしかたがない)。ある面から見れば愚かかもしれないが、別の面から見れば、ひとつの原理に愚直に従う孤高の生き物である。
    そう、本書の主人公はそういう意味での論理的な生き物を連想させる。そしてそうした一つの原理をもった愚直な存在に、つまならい世間に埋もれた私たちは、しばしば心動かされるのかもしれない。

  • 初めてAudibleで聞き終えました。
    でもやっぱり文章で読んだ方が良かったかも…

    ただ音声でも伝わってくる、主人公の違和感。
    全て常識的な行動にも理由を後付けでつけようとしたり、自分の感情をすごく第三者的に語ったり。

    その違和感がどう”破局”に繋がっていくのか聞き進めるのがゾクゾクしました。

    うまく違和感の正体を言語化してくださっていたので↓
    https://m.youtube.com/watch?v=rIYFvvy5G3U

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著者プロフィール

1991年生まれ。2019年『改良』で第56回文藝賞を受賞しデビュー。2020年『破局』で第163回芥川龍之介賞を受賞。他の著書に『教育』がある。

「2023年 『浮遊』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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