[新訳]ローマ帝国衰亡史 (PHP文庫) [Kindle]

制作 : 中倉 玄喜 
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感想・レビュー・書評

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  • 世界の著名な政治家なども愛読したギボンの歴史的名著「ローマ帝国衰亡史」の抄訳本。その割に、文字数が多くて読破するにはかなり大変である。王政、共和政、帝政と変遷してゆくローマ史における皇帝の血塗られた歴史物語は、天皇制に馴染んだ日本人には想像し難いものがある。戦争に明け暮れた時代、周辺国や蛮族との領土問題もコーカソイドならではの攻撃性が見てとれる。登場人物も非常に多く、カタカナ名ばかりで理解が難しいところがあるかもしれないが読破すればそれなりにローマ史の知識は得られるはずだ。

  • ローマ史に触れたのは塩野七海氏の「ローマ人の物語」に触れて以来だが、件の作品もローマの終わりの始まりで中断していたのはあれだけ隆盛を極めたローマ帝国が亡びていく過程を個人的な受け入れ難かったのだと思う。年を経て本書にじっくりと向き合うにあたり地理や侵入部族の歴史も紐解きながらの読書になり、なかなかページを読み進めない中で高校の教科書ではわからなかった何故(動機・理由)がわかったことが数多くあり収穫が多かった。特にあれだけ効率的かつ機能的に設計されていた属州統治(安全保障を含む)がありながら東西のローマ帝国に分かれていった事情など改めて本書から教わることが多く学びになった。二世紀以上も前にこの書を記したギボンの卓越した調査、筆力には敬服しかない。

  • [普及版]と銘打っている割にはかなりの分量があり、社会人の教養としては十分すぎるほどの読み応えがあった。
    これがAmazon prime readingで無料で読めたのだから、素晴らしいというほかない。

    とくに第ⅩⅣ章、東ローマ帝国がオスマン軍に攻め込まれ、ついに滅亡する場面は圧巻だ。
    怯懦、蛮勇、打算のうずまく両軍幹部たちの人間模様も面白いし、ようやく救援にきた西欧艦隊が、往年の秘密兵器[ギリシアの火]でオスマン艦隊を蹴散らしつつ、ボスポラス海峡へ突入するシーンも迫力がある。
    不落の要塞を打ち破るべく編み出されるメフメトのひらめき。
    そして最後の皇帝コンスタンティノス11世が紫衣を脱ぎ捨て、一兵となって討ち死にするまで、コンスタンティノボリス市民として固唾をのんで見守っているような気になってくる。

    オスマン朝が市内へ侵入し、略奪されてほとんど廃墟と化した黄昏の市内の様子は、まさに兵どもが夢の跡で、はるかロムルスの建国時代からローマがたどってきた栄華と衰退の歴史に思いを馳せずにはいられない。

    プラトンやアリストテレス、セネカやマルクス・アウレリウスなどの哲学本を通してローマ・ギリシャの歴史を間接的に学んではいたが、五賢帝以降のローマのことはほとんど知らなかった。
    (映画「グラディエーター」でコモドゥスのことも知ってはいた……)

    それにしても、近衛隊をはじめとする軍隊の専横ぶりがすさまじい。
    かれらの機嫌をちょっと損ねると、皇帝といえどもすぐに暗殺されてしまう。これでも最高権力者なのか?と首をかしげるほどだ。
    実際、あまりにも危険すぎて皇帝になりたくないのに、無理やり担ぎ上げられてしぶしぶ名乗りを上げる人もいたりするのが面白い。

    皇帝の地位が競売にかけられるのも驚きである。

    ローマが栄華をきわめたのは初期の四世紀ほどにすぎず、大半は衰退しては少し盛り返してといった、延命を繰り返してきた歴史がよくわかった。
    戦が多すぎてローマ市に皇帝が不在になってしまい、東西に分割され、やがてローマというのは名ばかりの別の地域の国になってしまった。
    精強を誇った軍隊もやがて怠惰になり、いつ反逆するかもわからない危険な蛮族を傭兵として召し抱え、破滅の道をたどる。

    世界中で紛争が絶えないこと、世界全体の経済成長率が2.7%に鈍化してきたことを考えれば、いま「ローマ帝国衰亡史」を読むことは世界の今後を見通す一助になるといってもいい。
    しかし私はとくにアメリカの今後を占うのに良いとも感じた。
    歴史は繰り返さないが、かの国のたどる道は古代ローマの韻を踏んでいる。

    かつて古代ギリシャを凌駕したように、アメリカは二十世紀前半にイギリスを抜いて大国として名を馳せた。
    そして後半にちょっと追い上げてきた日本を退けて、いまは中印の脅威を感じつつ、いかに衰退をおくらせるかという延命段階に入っている。
    ローマでいえば五賢帝の時代が過ぎ、コモドゥスやカラカラのような暗君が登場し、ゴート・ヴァンダルなどの蛮族が領内へ侵入しはじめる頃か。

    米国は歴史の教訓をしっかり学んでおり、ローマよりも崩れにくい地盤をきずいてはいる。
    しかし両ローズベルトやレーガンのような中興の祖は去り、子ブッシュやトランプのような衆愚におもねる「暗君」があらわれはじめた。
    世界の警察を気取った結果、ベトナムやアフガンで失敗し、"領土"を失いつつある。
    このあたりは古代ローマと何も変わっていない。
    黒人大統領のオバマが誕生したがすぐにレームダック化したあたりも、アフリカ出身のセプテミウス・セウェルスを彷彿とさせる。

    各章に入る前に訳者の事前解説が挟まれているが、これも熱量がとても高い。
    かれがなぜ、二十一世紀の今「ローマ帝国衰亡史」を日本人に読んでもらいたいのか。
    巻末には読み終えた読者へのねぎらいと共に、その意図が明確に記されている。
    古典こそが最もあたらしいという言葉を確信した。

    こういう本にまた出会いたいものだ。

  • 訳者が「ローマ帝国衰亡史」の原著から脱線や余談を取捨選択し、編集してくれたおかげで自分のような浅学な者にもローマ帝国史を通読できた。自分のローマに関する知識は塩野七生氏の「ローマ人の物語」しかなかったが、それとはかなり異なる視点を持てるようになった。

  • 新約のローマ帝国衰亡史であるが、完全版ではない。
    ところどころ原著の和訳があり、その間は訳者が補完する、という形式。
    なので、通史をある程度理解しておかないと難しいところがあるかもしれない。

  • 原著『ローマ帝国衰亡史』の中から各時代の代表的な章を選び、翻訳、再編集して一冊にまとめた一冊になります。

    ほとんどの章の終わりに編訳者による解説がついていますし、各皇帝による波乱万丈の治世、蛮族の侵略や宗教問題などもわかりやすく描写されていると思います。

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