感染症はぼくらの社会をいかに変えてきたのか ― 世界史のなかの病原体 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • これまでの歴史の中で、感染症は人間の習慣をいろいろと変えてきましたが、変わらなかったものもあります。今回のコロナウイルスは、どう社会のあり方を変えていくのでしょうか。これからの社会、ビジネスを考えていく上で、ヒントを得られるかもしれない1冊だと思います。

    【特に印象に残ったフレーズ】
    「人間は社会的な動物なので、孤立に耐えられない。感染症に対する恐怖には、社会から孤立することへの恐怖が含まれている。加えて、感染症は、社会のあり方が変化すればその影響を受け、一方で、社会に対してもインパクトを与えてきた。感染症は、社会と相互作用の関係を取り結んできた。」
    「キーワードは『分散』と『バーチャル』。これまで社会は『集合』を重視してきたが、社会が『分断されたバーチャル世界』に変わる契機になるかもしれない。」
    「一方で、人間が日常的な行動や思考について無意識に持っている志向性(ハビトゥス)は変化せず、社会は変わらないという可能性もある。」
    →感染症の影響で、社会の中で変わるもの、変わらないものがこれまでもありました。歴史は繰り返すと言いますが、今回のコロナウイルスではどうなるのか、見極めていく必要があります。

    【本のハイライト】

    ・ネクタイが信頼のシグナルとして機能するのは、社会を構成する多くの人々が「ネクタイをしている人は信用できる」という判断を共有しているから。マスクも同じ。マスクが感染症予防のシグナルとして有効に機能するのは、世間の人々が「感染症には注意を払わなければならない。うつすことも、うつることも、ともに好ましくない」という判断を共有しているから。この判断の背景には「感染症は怖いものだ」という共通認識が存在する。
    ・人間は社会的な動物なので、孤立に耐えられない。感染症に対する恐怖には、社会から孤立することへの恐怖が含まれている。加えて、感染症は、社会のあり方が変化すればその影響を受け、一方で、社会に対してもインパクトを与えてきた。感染症は、社会と相互作用の関係を取り結んできた。

    〇社会のあり方が感染症を変え、感染症もまた社会を変える
    ・感染症はヒトからヒトへの感染をもたらすため、社会のあり方に変化をもたらさざるをえない。感染症の存在、とりわけ感染爆発の発生は、人々に強い印象と影響を与え、それが社会のあり方と関連していると判断された場合には、社会を変化させようとする試みをもたらす。

    〇感染症が民衆に力を与えた
    ・さまざまな感染症の流行を経験していくうちに、人間は、「なにか伝染をもたらす物体がある」と考えるようになった。そして、「その機能を停止させるためには、ヒトやモノの移動や、ヒトとヒトとの直接あるいは間接の接触をとめることが有効」であることを学んでいった。「隔離、閉鎖、廃棄」は、今も変わらず感染拡大予防措置の基本である。
    ・感染症は社会的な存在で、社会と密接に結びつき、人間が社会を構成するからこそ存在しうる。
    ・感染爆発が終息してしばらく経つと、家族や友人関係、隣人関係といった紐帯は、前と違う形かもしれないが復活している。それどころか、公共部門は肥大化していく。

    〇医学にイノベーションをもたらす
    ・ワクチンの予防接種による天然痘の感染予防という、新しいアプローチがジェンナーにより考察された。これは大きなイノベーションといってよい。
    ・仮説の正誤を判定するために適切な手続きを用いた実験をデザインするというのは、今日の自然科学の基礎をなす方法論であるが、ジェンナーがそれを実践した。
    ・感染症を根絶するには、それがグローバルになされる必要がある。

    〇蒸気機関が運んだ「野蛮な病」が都市改造を促進
    ・19世紀は、科学の発展、国民国家の成立、都市の拡大など、今日「近代化」と総称されるプロセスが進行する時期だったが、コレラは19世紀に感染爆発を繰り返したことから、近代化を体現する病気となった。コレラは、近代化した社会がかかえこむ多様な問題をうつしだす鏡としても機能した。
    ・感染症が広がる原因、理由、メカニズムを明らかにするためには、だれが感染したか、感染した理由はなにか、という2つの問題を解くことが必要となる。そのためには、感染事例の時期、場所、感染者の人間関係などをとりまとめ、感染ルートを空間的に把握しなければならない。大量のデータを処理する統計学と、感染事例を地図上にプロットしたマッピングが必要。疫学という新たな学問領域が、コレラの感染爆発で誕生した。
    ・都市インフラ整備の必要性の根拠となり、各地で都市改造が進行する事態を生んだのは、コレラの原因を瘴気とみなす環境学だった。正解は接触説であり、誤った所説に基づいて政策がすすめられたが、「結果オーライ」となった。

    〇第1次世界大戦が拡散した「冬の風物詩」がナチス台頭を準備
    ・予防接種があるのに毎年インフルエンザが流行するのは、ウイルスが変異して別のタイプになることが多く、その場合、予防接種の効果が低下するから。
    ・感染爆発の多くが中国を発生地としているのは、水鳥、鶏、豚、人間が生活空間を共にしており、ウイルスの変異がたやすく生じるためと考えられる。
    ・感染予防のためのマスク着用というささやかに思えるかもしれないことでも、それまで人びとが親しんできたライフスタイルを変容させ、新しいものを定着させるのは簡単ではないことがわかる。

    〇病原体と人類の進化は続く
    ・人間は抗菌剤とワクチン接種によって感染症を制圧できるだろうという楽観的な見通しは、耐性菌の出現で、はやくも1950年代から足元を崩された。科学の勝利と思われた期間は短時間で幕を下ろし、ふたたび病気、とりわけ感染症と正面から取り組まなければならない時代が到来した。この時代は今も続いている。
    ・耐性菌の出現を阻止するにはどうすればいいか。細菌側から見れば、耐性の獲得=「進化」。進化は突然変異と自然選択(自然淘汰)でなされる。人間にとっては、突然変異のコントロールは大変なので、自然選択のプロセスになる。方法としては、抗菌剤を使わないことになる。一切停止するのは現実的ではないので、必要最小限の使用にとどめる。まず問題とすべきは、家畜への利用である。

    〇「ポスト・コロナの時代」は来るか
    ・キーワードは「分散」と「バーチャル」。これまで社会は「集合」を重視してきたが、社会が「分断されたバーチャル世界」に変わる契機になるかもしれない。
    ・一方で、人間が日常的な行動や思考について無意識に持っている志向性(ハビトゥス)は変化せず、社会は変わらないという可能性もある。

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著者プロフィール

1963年生まれ。東京大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科単位取得退学、博士(経済学、東京大学)。東京大学社会科学研究所助手などを経て、現在、東北大学大学院経済学研究科教授。専門はフランス社会経済史、歴史関連諸科学。著書に『フランス7つの謎』(文春新書)、『フランス現代史』(岩波新書)『歴史学ってなんだ?』(PHP新書) 『歴史学のアポリア――ヨーロッパ近代社会史再読』(山川出版社)などがある。

「2022年 『歴史学のトリセツ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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