13億人のトイレ 下から見た経済大国インド (角川新書) [Kindle]

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  • KADOKAWA
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  • 共同通信特派員として3年8月ニューデリーに滞在した著者が、トイレ・公衆衛生という切り口から経済発展著しいインドの負の面を描いたルポ。インド農村部の劣悪な衛生環境や最下層の人々(カーストからはみ出した不可触民「ダリット」)の悲惨な生活を赤裸々に描いている。コロナ禍当初の2020年5月執筆。

    「五億人がトイレのない生活を送っている」、「農村部を中心に野外排せつの習慣は根強く残る」、「二〇一一年の調査ではトイレを持たない世帯の割合は五三・一%にのぼっている」などなど、トイレ事情がなかなか衝撃的。しかも、その根底にはトイレ=不浄なものというヒンズー教の教えがあるとのこと(自分の敷地内に不浄なトイレを設けたくない)。そして、不浄な汚物・下水処理を押しつけられるダリッドの人々という構図になっている。

    著者は、見かけ倒しで実効性の上がっていないモディ政権の公衆衛生施策(「スワッチ・バラート」)や差別の温床であるカースト制度を強く批判するが、公衆衛生は改善に向かいつつあるし、ダリットの人々の仕事・生活環境も長い目で見れば改善してきているようだ。このこと、もっとプラスに見るべきじゃないかな。何しろインドは人口が多すぎるのだし、歴史に深く根ざしたカースト制度は一朝一夕には変えられないし、「遅刻やドタキャンが日常茶飯事」のビジネス慣行が改革の足かせになっていることも容易に想像できる。そんながんじがらめの状況の中で曲がりなりにも改善が図られていること自体、肯定的にみるべきかと。

    とはいえ、インドを知るには良い一冊だった。

  • インドに関する本は2冊目。
    トイレという切り口がとても面白かった。

    トイレ先進国の日本では考えられないことをたくさん知れた。
    あれだけ経済発展が著しいインドなのに、トイレの普及率はまだまだ低く、農村部にはトイレがない家がたくさんあるという事実。
    経済的な理由だけでなく、宗教的な考え方からも普及が進まない。
    そこから見えてくるカーストの闇。トイレ清掃に関わるダリットたちは、過酷な労働を強いられ、命を落とすこともある。
    トイレの設置が広まっても、それをどう処理するのかという問題もある。下水道の設備はまだまだ不十分だ。
    そこに問題意識を向け、組織を作って活動するバラモン(カーストの最上位)もいるし、先進技術によって解決しようと本気で取り組む若き技術者もいる。
    日本の企業も参入している。

    インドについて知れば知るほど、無知であることを痛感する。

  • インドのカーストや文化などいろんなことをトイレに焦点を当てて書かれた本。外国のトイレ全体的にあまり綺麗なイメージはもともとなかったけど、手で排泄物を回収したり、下水管を修理したりしているのは衝撃、今の時代でもカーストは残っているんだという発見もあった、インドについて全然知らなかったなあと学べた

  • インドのトイレ事情。トイレという設備を作っても、習慣が無いから、なかなか普及しない現状。三世代くらいは時間が必要か。

  • ■なぜトレイは「不浄なもの」とされてきたのか。
    ・インド社会に根深く定着しているカースト制度ではバラモンを最高位とした序列が作られ、ダリットはカーストの外に置かれた最下層の存在となっている。そうした考え方の基になっているヒンズー教はその源流であるバラモン教に様々な地方や民族の信仰を取り入れ徐々に形成されていった多神教である
    ・体系的な崇拝や信仰というよりも習慣的な側面が強くカースト制度をはじめ人々の生活全般を規定する制度や習俗を含んだ文化や生活様式を説いている
    ・ヒンズー教の教義の支柱として今日までインド社会の規範の礎となっているのが紀元前二世から紀元二世紀の間につくられたという「マヌ法典」でヒンズー教にとっての最も古くて権威のある「生活指導書」
    ・バラモンの特権的な身分が強調され、序列を規定して「浄」と「不浄」の概念も明確化した。マヌ法典では例えば「死」を不浄とするだけではなく死んだ人の身分やその人との関係をもとに不浄とされる期間や清めの儀式についても決まりが事細かく書かれている。また特定の行為ではなく体から出される12のものを「本来的に不浄とされるもの」と規定している。その12とは「脂肪」「血液」「ふけ」「耳垢」「痰」「涙」「目やに」「汗」「鼻汁」「精液」「小便」「大便」で体内から出された時点で「排泄物」のカテゴリーに入る点で共通している
    ■マヌ法典には次のような規定もある。
     「チャンダーラ、月経中の女、パティタ、出産後10日未満の女、したい、彼らに触れた者──これらのものに触れたときは沐浴によって清められる」(第五章八五節)。
    ・チャンダーラとは身分制度の最下層に位置付けられる存在で現在のダリットと同じような立場にあった
    ・パティタは規範を犯しコミュニティーから追放されたものを意味している
    ・最下層の身分とされた人たちは死体のほか月経や出産といった血に関する「不浄なもの」と同列に並べられ触れただけで穢れがうつるとみなされていた

  • 想像以上に深刻。お腹こわした時はどうするんだろう…

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著者プロフィール

共同通信社記者。1972年、北海道生まれ。明治学院大学法学部卒業後、毎日新聞社入社。長野支局、社会部を経て2002年、共同通信社入社。06年、外信部へ配属され、07年6月から1年間、韓国・延世大学に社命留学。09年3月から11年末までソウル特派員。帰国後、経済部で経済産業省を担当するなどし、16年9月から20年5月までニューデリー特派員。インド各地の都市や農村だけでなく、スリランカ、バングラデシュなどの周辺国も担当し、取材で現地をめぐってきた。同6月より外信部所属。著書に『オーディション社会 韓国』など。

「2020年 『13億人のトイレ 下から見た経済大国インド』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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