ハーバード・ビジネス・レビュー デザインシンキング論文ベスト10 デザイン思考の教科書 [Kindle]

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感想・レビュー・書評

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  • 毎朝目を覚ますたびに、世界が変わりつつあるという健全な不安を抱きます。そして「競争に勝ち抜くには誰よりも早く変化を遂げ、機敏にならなければならない」という信念を胸に刻み込むのです。

            ペプシコ会長兼CEO インドラ・ヌーイ

    (引用)ハーバード・ビジネス・レビュー デザインシンキング論文ベスト10 「デザイン思考の教科書」、編者:ハーバード・ビジネス・レビュー編集部、訳者:DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部、発行所:ダイヤモンド社、2020年、214

    この「デザイン思考の教科書」の表紙カバーには、「デザイン・シンキングの真髄を『ハーバード・ビジネス・レビュー』の名著論文で習得する!」と書いてある。本書を読み終えて、そのとおりだと実感した。本書には、IDEOのデイビッド&トム・ケリー、「Jobs to Be Done」の論文を書き上げたクレイトン・M・クレイトン・M・クリステンセン、ペプシコ 会長兼CEOのインドラ・ヌーイなど、錚々たるメンバーが登場する。

    クリステンセンといえば、「イノベーションのジレンマ」が有名だ。先日、拝読させていただいた「両利きの経営」にもクリステンセンが登場する。イノベーションのジレンマとは、巨大企業が新興企業の前に力を失う理由を説明した企業理論である。1)この「デザイン思考の教科書」では、偉大な企業は、すべて正しく行うがゆえに失敗する」と提唱したクリステンセンによる「Jobs to Be Done」という論文を拝読することができる。このクリステンセンの論文と接することができるだけでも、私にとって、大変刺激的なことだった。何十年にもわたり、いわゆる”大企業病”を観察してきたクリステンセンらは、本当に狙いを定めるべきこととして、ある状況下で顧客が進歩を遂げようとしていること、つまり、彼らが達成したいと望んでいることとしている。これをクリステンセンらは、”Jobs to Be Done”(片付けるべき用事)と呼んでいる(本書、107-108)。この、「片付けるべき用事」というキーワードは、非常に的を得ているものだと感じた。人々は商品などを購入する際、その動機として「片付けるべき用事」がある。この「片付けるべき用事があるか」ということを問い続け、「顧客が求める進歩を支援する」ことを実践していく。そうすることによって、真のイノベーションが生まれる。クリステンセンは、「片付けるべき用事」が万能のキャッチフレーズではないとしながらも、”大企業病”に立ち向かうべく武器を与えてくれる。その武器を使いこなすためには、デザイン思考が大いに有効だということが理解できた。

    そもそも、「デザイン思考」とはなんだろうか。うん十年前、当時、大学の商学部に在籍してた私は、デザインといえば、商品のパッケージングの一部ぐらいしか考えられていなかった。しかし、近年、「デザイン思考」なるものが流行ってきた。この「デザイン思考の教科書」に掲載されている、IDEOによる「デザインシンキング」、「創造性を取り戻す4つの方法」、「実行する組織のつくりかた」などの論文を拝読すると、おぼろげながら「デザイン思考」の輪郭がはっきりしてくる。私は、「デザイン思考」の必要性として、大きく3つあげれると思う。まず、現代は、あらゆる商品やサービスの市場が飽和状態になりつつあり、人々はモノやコトに満たされ、豊かな生活を享受できつつある。そのような状況下において、いかに人々の感性に訴えることが必要かが問われる。その感性に訴えることは、まさにデザインの力を駆使した「デザイン思考」が有効であると言えるだろう。2点目は、機能や性能だけでは、顧客に選んでもらえなくなったということだ。これは、ペプシコの会長兼CEOのインドラ・ヌーイ氏も言われている。より「顧客の視点に迫る」ことは、デザイン的要素が必要不可欠なものになる。3点目は、従業員や職員の働き方にもデザイン思考は有効だということだ。働く人たちも、当然ながら人間である。非効率的でルール化されていなかった仕事の仕組みがデザイン思考によって効率的なものになる。そこには、新しいサービスやプロセス、IT技術などを駆使した総合的なデザイン力によって、全体最適化を目指し、働く人達に快適さをもたらす。本書を読んで、私はデザインについて、従来の”戦術的”な一つの役割に過ぎなかったものではなく、もはや”戦略的”な役割を果たす、その戦略的なポジションの中でも、さらに上位に位置づけられるものだと感じた。

    今回の論文では、HBSのエドモンドソン教授による「失敗に学ぶ経営」も掲載されている。少し、デザイン思考とかけ離れている気もしたが、この”失敗学”に触れるとき、いつも私は、松下幸之助氏の次の言葉を思い出す。

    「失敗したところでやめてしまうから失敗になる。」

    それよりもひどいのは、最初から”チャレンジ”しないことである。私の尊敬する武田信玄は次のようにいう。

    「為せば成る 為さねば成らぬ 成る業(わざ)を成らぬと捨つる 人の儚(はかな)き」

    デザイン思考では、プロトタイプ(試作)という言葉がよく登場する。「片付けるべき用事」をプロトタイプしていくことで、関係者同士の具体的なイメージがしやすく、モチベーションを上げていくという。ただ、気をつけなければならないのは、本書では触れていないが、集団の意思決定は、極端な方向に振れやすいということだ。集団が堅実さを忘れてリスクをとる方に大きく振れるときは、リスキー・シフトが起きたといわれる。2)リスキー・シフトが起きる原因の代表的なものが「責任の分散」である。事業の規模が大きくなればなるほど、集団での意思決定がなされ、責任の分散がなされ(集団でいるとリスクに鈍感になる)、リスキー・シフトが起きやすくなる。事業化には、健全な失敗が必要だが、リスキー・シフトに注意しつつ、エドモンドソン教授がいわれる「フロンティア領域での知的失敗」を繰り返していくことこそが、偉大なイノベーションの誕生につながっていくのだと感じた。

    その意味では、冒頭に紹介したペプシコ会長兼CEO インドラ・ヌーイの言葉を胸に刻みたい。「両利きの経営」では、進化論を唱えたダーウィンの言葉、「唯一生き残ることができるのは、変化できるものである」が紹介されていた。インドラ・ヌーイも同じことをいわれている。生物の進化と深化、そして企業等の深化と探索は、スピードが勝負だ。変化を遂げるには、誰よりも早く着手することだ。そこには、失敗がつきものである。その失敗を乗り越えるため、私達が従来より考えていた「デザイン」が持つ潜在的な能力を最大限に生かし、顧客や従業員のために変化を遂げ、イノベーションを生み出して行く必要があると感じた。

    1)出典:フリー百科事典「ウィキベディア(Wikipedia)」

    2)2021年1月21日 朝日新聞「経済季評」危機の時代の意思決定 責任の分散が招く鈍感さ 竹内幹

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著者プロフィール

『Harvard Business Review』(HBR)は1922年、ハーバード・ビジネス・スクールの教育理念に基づき創刊されたマネジメント誌です。現在、英語以外にも、日本、中国、ドイツ、イタリア、フランス、ロシアなど11の言語で翻訳され、世界中のビジネスリーダーやプロフェッショナルに愛読されています。

『DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー』は、HBR誌の日本語版。米国以外では世界でもっとも早く、1976年に創刊しました。以来、「優れたリーダー人材に貢献する」という編集方針の下、学術誌や学会誌のような無用な難解さを排し、実学に資する論文を提供し、グローバル企業の企業内大学や管理職研修、ビジネススクールの教材としても利用されています。
現在は「グローバル・リーダーを目指す人の総合マネジメント誌」として、毎号、HBR論文と日本版オリジナルの論文を組み合わせ、時宜に合ったテーマを特集として掲載しています。

「2021年 『ハーバード・ビジネス・レビュー リーダーシップ論文ベスト11 リーダーシップの教科書2 実践編』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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