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感想・レビュー・書評
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女体化と、洒落込む以前に意気込むトライ!
作者の「森下真央」先生の略歴については同じくインディーズ時代の作品『ひろみくす』のレビューにおいて軽く紹介させていただきました。
そちらが参考になるかはともかく、こちらでは『ひろみくす』から一年越しで発表された、森下先生の商業読み切りデビュー作『とらんしすた』およびそのプロトタイプ二本を併せて収録という形になっています。
と。元の作品は題名の『りくそら』でしたか――、その辺の事情については本作あとがきもご照覧ください。
なお持ち込み先が「まんがタイム」系列であることもあって6P×3本=18Pと、分量自体はさほどではありません。設定や大まかな筋書きもほぼ共通であり、主な登場人物も二名と絞られていますね。
よって、普通の読み物として読んでいくには適さず、さほど満足感は得られないかもしれません。
この場合はセミプロ作家がクライアントである編集者の要望を聞きながらプロの世界へと漕ぎ出していく過程、ブラッシュアップされていった結果を順を追って読み比べ、楽しむやり方がよろしいかと。
この場合、6Pというコンパクトさが読み返す上での味方になってくれるのが面白いところですよね。
さて、共通する登場人物は、気弱でボクっ子な主人公「陸」とその天才の姉「海」、先述した通り二名です。
なお、主人公が女体化するにあたってのトリガーは妹が欲しかった姉が作っちゃった性転換薬という、いやはや、この当時からしてなんともありがちなもの(※ほめ言葉)です。
レビュアーとしては説明をしやすくて助かるようですが、ほめる理由はもちろんそれだけに留まりません。
特に際立った独自性を打ち出さずとも“いつもの”作品には需要があるということなのです。どうぞよしなに。
では段階を踏んで紹介・分析してまいりますね。
まず、一本目。表題作でもある同人作品『りくそら』はちょっと説明的で、主人公が横暴な姉に女体化させられて早々転入生として学校に通うことになるなど、色々と段階をすっ飛ばして話を進めている感があります。
次にプロトタイプ版『とらんしすた』は主人公と姉とのやり取りに物語を一本化し、合わせて不要不急の説明をなくし女体化前後の主人公の反応を拡充、着せ替えや入浴シーンなどお約束シチュエーションを投入。
そして三本目の決定稿では姉に茶目っ気を足すと同時に横暴さをオミット、弟に対する当たりを柔らかくし、主人公の性格も当社比でやや男らしくして、落差を強調、サービスシーンを気合を入れて描く。
段階としてはこんな感じですが、あとに進むにつれて万人受けになってきている気はします。
『りくそら』はドタバタコメディとしては悪くないんですが、はじまりの第一話にするには設定や展開を詰め込み過ぎている感があるのでまさしくパイロット版ですね。
決定稿は「ボクっ子」と、勝手に女体化させられたことに反発する性格が微妙に噛み合っていないという問題が発生してしまいましたが、客観的にも個人的にも総合面では一番優れているように感じ取れました。
以上。
色々と語らせていただきましたが、本作はみんなが慣れ親しむどこかで見たTSコメディとしては十分な一方、独自性が欲しいのも確かです。
連載に行き着くまでにもう一工夫というわけで、次に向けたアプローチに繋がっていったのかもしれません。
さりとて、レビューをたたむ前に少しだけ話を作品の外に広げさせていただきますね。
まず森下先生はこののちに初連載『幼なじみは女の子になぁれ』に行き着くことになるのですが、そちらはこの記事で触れることはしません。別途、機会を設けることができましたら語りたきと存じます。
ただ、冒頭の言及に話を戻すと気合が入ったストーリー漫画『ひろみくす』はシナリオのギミック性に重きを置き、軽い読み心地の四コマ漫画『りくそら』&『とらんしすた』は万人向けを視野に入れたということで。
双方の力を入れた点が連載に活かされたと考えるのも面白いかもしれませんね。むろん根拠はありませんが。
とまれ、オリジナル漫画の題材にいわゆる「TS(性転換)」モノを選んで以降のここ十年、メインジャンルをほぼ一本化していた森下先生です。重ね重ね、これこそ「継続は力なり!」といえましょう。
演出の違いもあり単純比較できるとは限りませんが、作品を時系列順に追うことで私は嬉しくなれました。
なぜならこの時点では「TS」をまだ考えて作っている感じはありますが、段々と気負わずに物語と向き合い、自然と女の子になった男の子の魅力を導き出せるようになったと、私はそう感じていますから。詳細をみるコメント0件をすべて表示