滅びの前のシャングリラ [Kindle]

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  • 中央公論新社
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感想・レビュー・書評

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  •  繋がった!短編集だと思い、少し残念な思いをしながら読み進めた2章。もしかしたらと、期待がなかったわけではないが、繋がったときはよしっ!と思わずにいられなかった。

     私は短編集がそんなに好きではない。長編を読むのに比べると、内容も薄く、物足りなさを感じてしまう。だが、連作短編集となると、一気に好きになる。サプライズがあるため、むしろ長編よりも好きな場合もある。

     で、このシャングリラだ。凪良ゆうさんの作品だから期待して読み始めたが、第1章で、こんな半端な感じで終わっちゃうの?と半信半疑でいたら、やはり第2章でしっかり繋がってくれた。

     1ヶ月後、小惑星が衝突し、地球は滅びる

     そんなニュースが飛び交う中、それぞれの人々の物語が始まり、そして交差する。

    ①シャングリラ
     江那友樹、17歳。体は大きいが、イジメにあっている。父親は友樹が生まれる前に亡くなっており、元ヤンの母親と2人暮らしだ。
     友樹には好きな子がいて間もなく地球が滅びるというのに東京に行くことを知り、彼女を護るべくこっそり後を着いていくのだが・・・。

    ②パーフェクトワールド
     目力信士、40歳。ケンカっ早く、キレたら周りが見えなくなってしまい、一生一緒にいると誓った女にも逃げられた。
     先輩のヤクザの頼みで、大物ヤクザを殺してしまう。世の中が終わる前に、忘れられずにいる昔の女に会いたくて、なんとか見つけ出すことに成功した信士だが、衝撃の事実を知ることになる。

    ③エルドラド
     江那静香、40歳。友樹の母親であり、信士が唯一愛した女。東京で同級生に襲われていた友樹を信士が救い出し、その時一緒にいた友樹の片想いの女の子(藤森雪絵)が女性アーティストのラストライブに行きたいというので、信士と静香、友樹と雪絵で一緒に行動することになった。

    ④いまわのきわ
     山田路子(Loco)29歳。大阪のガラの悪い地域で生まれた路子は、目立ちたがりの仲間とバンドを組み、目をつけられた路子だけがスカウトされ、東京に上京する。
     最初はアイドル路線で売り出されたが、泣かず飛ばず。やがて解散し、キャバクラでバイトしていたところ、大物プロデューサーに見染められ、Locoとしてデビューし、瞬く間に歌姫として成功を手にした。成功を収めた路子だが、毎日を虚しく感じるようになっていく。
     地球滅亡の日、昔の仲間とラストライブをすることになり、やがて楽しかった日々を手にするのだが。

    ⑤イスパハン(スピンオフ作品)
     藤森雪絵、17歳。雪絵には妹がいる。両親にとって本物の娘。名前は真実の子と書いて真実子。雪絵は小学校の頃から学校のマドンナだったが、養子であることに鬱屈した気持ちを抱いていた。
     Locoのラストライブを観るために、家を出て友樹たち家族と共に暮らしているところに何度も妹からLINEがくる。私のことずっと嫌いだった?という妹の問いかけになんで好きだよと返せなかったんだろう。
     世界は終わりを迎えるけれど、薔薇色の未来が在ると夢を見させて欲しい。


     それぞれ問題を抱えた者たちが、地球滅亡の日に向けて自分を見つめ直していく。本当にしたいことが見つかった者たちの生き方は真っ直ぐで気持ちがいい。
     とにかく登場人物が魅力的だ。作家にとったらストーリーと同じくらいキャラ設定は大切な作業だと思うが、両方に於いて凪良さんは成功している。

     さて、地球滅亡の日、あなたなら何をしたいですか?

  • 「流浪の月」がいけたので、大丈夫かなと思ったのですが、ちょっと自分の苦手系ジャンルの話でした…。
    それを言えば、ほんとは"流浪…"もあまり読まないタイプの話ではあったのですが、あちらは救いのある話だったのに対して、こちらは破滅系。…ちょっとそこらへんが自分には苦手でした。
    でも文章は読みやすい、情景の浮かびやすい描写だったり、好感の持てるキャラクターも出てくるし、星2つなのは純粋に私の好みの問題だけで、上手な作家さんだと思います。

  • 自分が同じ状況だったら何ができるだろうか。きっと、大したことはできない。でも、本の中の彼らを見ていると、自分にとって大切なものが何なのかということを考えさせられる機会になった。

  • 終末に向けて抱く想いは、一人一人異なっていて、そこに希望を見出す人もいれば、絶望にどっぷり浸かる人もいる。
    自分はどうだろうかと考えさせられました。何が正解とかわからないけど、隕石が落ちる瞬間なんてきっと一生見れないから、できれば見てみたいなぁなんて笑(まず最期まで生きていられるかも怪しい)

    愛と希望と絶望と終末の話でした。
    読みだすと止まらないので、お休みの日に読むとよさそうです。

  • 野生な人間、人間丸出しみたいな作品だった。初めて凪良ゆうさんの書籍。頭の中で映像が次々に出てきて、その世界観に圧倒されてあっという間に読み進められた。理性と秩序を持った"人"が最後は野生のようにただ本能と感情のままに"人間"になっていた。最期が分かってやっと一番大事なものに気付けて、本来の自分に戻れていた。明日死ぬかもしれないと思って生きる意味が分かった気がする。ただ悔いなく生きる為って漠然に思っていたけれど、偽りのない自分で大事なものを大事にできて今日も過ごせたか、死ぬ瞬間に幸せだったか。そうやって何となく過ぎる毎日を大事に過ごして最期を迎えれたら人生万歳

  • 凪良ゆうさんの作品の中では、結構現実離れした内容。スタートが日常を描いていただけに予想外の展開だった。登場人物のやる事も出てくる場面もなかなかハードな内容。グロ苦手なのでギリギリなライン。
    とかなんとかいっても、やっぱり惹き込まれてしまうのはさすがでした。
    あと1カ月で全てが終わる…本当に起きたら…そんな想像をしてしまった。

  • シチュエーションが面白そうだったので。

    隕石衝突が迫り、人類はほぼ死滅するだろうという中、最後の「生き方」を考えるお話。略奪や人死にが日常になる中で、逆に登場人物達は寄り添い、人間的な暖かみを取り戻していく対比が印象的。

    いざ最後を迎えるときには、ほんの僅かでも人との繋がりを残しておきたいものですね。

  • 人類滅亡を目前にして、生きる意味や幸せを噛み締める人たち。絶望と焦燥で混沌とする世界の中、対照的な優しさとか幸せがしみる。刺さる言葉も散りばめられてて読んで良かった。
    第2章受けての第3章はお気に入り。初の凪良ゆう作品だったけど、他も読みたい。


  • 近年読んだエンタメの小説の中で一番面白く、強烈な内容。地球最後の日が1か月後に迫る中、大切なものに気づく人たちの話。
    分断された社会、子供の貧困、貧困の連鎖、SNSでの誹謗中傷などを考えさせられた。
    P12 そうして僕は今日も、絶望という名の嵐の海を、ユーモアという小舟に乗って、なんとか公開し続けている。
    P13 世界は序列で分断されているが、それぞの階層内に渦巻く愛情に変わりはない。~真っ向から立ち向かわなないと決意すれば、日々はやや楽に過ぎていく。
    P30 笑いは一番簡単な団結であり、団結することで自分たちを正当化しようと必死だ。
    P160 身勝手で逞しい。それが愛情の裏の顔ってものだ。裏?いや、どんなものにも上下左右があって、見る角度によってそれが裏だったり表だったりするだけか。
    P184 「自分の気持ちがわかってよかったじゃない」
    つまるところ、それを知ることが一番大事で難しい。
    P188 不器用なところが愛おしく、無神経なところが腹立たしい男だ。
    P236 崩壊した街を歩きながら、平和な世の中であれほど尊ばれていた愛情とはなんだったんだろうと考えた。そんな不完全なもので世界は救えない。それは神様の役目だ。そのために崇め奉られてきたんだろう。なのにその神様は、街も人もぜんぶ見捨ててしまった。

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著者プロフィール

1973年生まれ、京都市在住。2007年、BLジャンルの初著書が刊行され、デビュー。17年『神さまのビオトープ』を刊行し、高い支持を得る。19年『流浪の月』と『わたしの美しい庭』を刊行。20年『流浪の月』で「本屋大賞」を受賞する。同作は、22年に実写映画化された。20年『滅びの前のシャングリラ』で、2年連続「本屋大賞」ノミネート。22年『汝、星のごとく』で、第168回「直木賞」候補、「2022王様のブランチBOOK大賞」「キノベス!2023」第1位に選ばれ、話題を呼ぶ。翌年、同作の続編にあたる『星を編む』を刊行した。

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