- Amazon.co.jp ・電子書籍 (261ページ)
感想・レビュー・書評
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前半と後半で読感が全く異なる作品である。
前半部は、予想できない展開と追い詰められる主人公にハラハラするサスペンス。容赦無いグロ描写に思わず声が出ながらもページをめくる手は止まらない。
後半部には、選択肢がついておりどちらを選ぶかによって結末が大きく異なる。どちらの選択肢を選ぶか本気で10分くらい迷った。ただどちらにせよ読後感は暗い。バッドエンドとトゥルーバッドエンドの違いなので読み始めた以上足掻いても無駄である。
作者によるあとがきがいちばん衝撃かもしれない。なんせ本編と温度が違いすぎる。圧倒的陽。こいつがこの話を書いたのかと思うと逆に怖くなってくる。しかし、このあとがきのおかげで暗い読後感が軽減されるのでその点はありがたいかもしれない。余韻に浸りたい人はあとがきを読むのは後回しにした方がいい。短いユニットがたくさん連なった形式であることからサクサク読み進めることができる。
※以下ネタバレ※
活字を媒介して網膜にありありと映し出されるグロテスクと何かにページを捲らされているかのような焦燥感のバランスが堪らない。
特に好きな描写が3つある。
1つ目は、死体処理の描写である。死体を小分けにバラしてトイレに流したり、骨をヤスリで削って粉末状にしたりする描写がやけに繊細だ。日が経ち、徐々に腐ってどろどろと指の隙間から溶けていく人肉の質感は最悪そのもの。酸化した血と肉と汗がこの日本の夏のじっとりとした空気ですえて自分の住むアパートの壁に染み付くような気さえする。「匂い立つような」と評せる文章の中でもっとも酷いにおいのする一切容赦のない描写である。
2つ目は、主人公がもう殺されるという危機的状況になっても性的興奮を得ようとしているところ。人間の本能と浅ましさが俗っぽくてどこか好ましい。
3つ目は、「抵抗編」において拘束されていた手が解放されて生を実感するところ。「世界中の人間は今、小指を動かせる有り難さを何1つ理解していない。」という一節が何故か嫌に実感を伴って焼き付いている。
一方で、選択肢の片方が前半の緊迫感溢れるサスペンスとは大きく異なり、ファンタジック(?)かつ宗教的な世界観であることから多少現実味に欠け拍子抜けすると感じたことから☆4詳細をみるコメント0件をすべて表示